伝説の殺し屋紫藤拓夢

星河☆

伝記の始まり

 殺し屋とは報酬を貰い、人を殺す仕事だ。
 それを生業にしている男がいる。
 その名は紫藤拓夢。三十歳の男だ。












 「今回の仕事です。アメリカの上院議員のベッド・シュナーが標的です。報酬は五百万円」
 暗闇の部屋で女が拓夢に言った。


「分かった。早速飛行機の手配をしてくれ」
「かしこまりました」
 拓夢は煙草に火を付け、吸い始めた。














 三日後。
 拓夢はアメリカに来ていた。
 勿論観光ではない。仕事だ。




 拓夢は暗い路地に入り、歩いていると数人の男に囲まれた。


「何の用だ」
「俺たち金ないんだよ。貸してくれね?」
「お前らに貸す金はない」
「舐めんなよコラ!」
 男が拳銃を出し、拓夢に向けた瞬間拓夢は男の背後に回っていた。


 「あんまり俺を怒らせるなよ」
 そう言って手刀で男を気絶させた。


 「お、お前何者だ!」
 残りの男たちはビビって逃げ出した。


 「全く――。いつからこんな世の中になってしまったんだ」
 すると何と拓夢が鷹に変化し上空に飛び立っていった。






 空からシュナー氏を探すらしい。
 おおよその場所は見当ついているが正確な場所は分からない。








 暫く上空を飛んでいると拓夢は何かを見つけたようで、一気に降下した。






 窓の飛び出ている所にとまり、中をじっと見ている。
 中にはシュナー氏がいた。
 拓夢にはまだ気づいておらず、公務をこなしている。




 すると拓夢は窓をくちばしでつついた。


 シュナー氏は拓夢、いや、鷹に気づき、窓を開けた。


 拓夢は羽ばたいて中に入り、机の上に立った。




 「何だ? 鷹がどうしてこんな所にいるんだ?」
 シュナー氏はそう言って鷹に触れようとした瞬間――。


 「うっ」
 鷹は一瞬にして拓夢に戻り、首を力任せに曲げた。


 これにて仕事は終了だ。
 拓夢は再び鷹に戻り、上空へ消えていった。














 「お疲れ様でした」
 深々と頭を下げたのは拓夢の助手のマリア・クロスロードだ。


「報酬の確認をしろ」
「確認済みです。入金されていました」
「分かった。拠点を日本に戻そう」
「何かあったんですか?」
「いや、アメリカは広すぎる。仕事をするのに一苦労だ。だから日本に拠点を戻していく」
「かしこまりました。すぐに準備致します」
「頼む」
 拓夢はアジトの天井を見てゆっくり煙草の煙を吸った。














 日本、東京。
 「大佐、彼が日本に戻ってくるようです」
 大佐と呼ばれた男は日本国軍の大鷲孝信だ。


「中尉、それは本当か?」
「信頼できる情報筋です」
「分かった。彼を軍に引き込もう」
「手筈は整えます」
「頼むぞ」
「はっ」
 日橋中尉は頭を下げて部屋を出て行った。










「ご主人様、日本の空気はどうですか?」
「まぁアメリカよりは良いな」
「早速ですが仕事が入っています」
「はぁ? 何帰国一日目に仕事入れてんだよ」
「申し訳ありません。しかし報酬が高額だった為引き受けました」
「幾らだ?」
「三千万円です」
「ほぅ。良いじゃないか。ただそれだけの大物って事だろ」
「左様。仁龍会の会長、静谷卓を殺せとの事です」
「分かった。詳細を俺の端末に送ってくれ」
「はい」
 拓夢は帰国一日目に仕事が入り、ブルーになっていたが、報酬を聞き、ワクワクしていた。
 拓夢はただの快楽殺人犯ではない。仕事として殺しをやっている。
 それ以上に強い者と戦いたいと思っているのだ。








 鷹になり、詳細情報を読んだ拓夢は目標がいる建物の上空にいた。
 どうやらここが事務所らしい。


 屋上の見張りは二人。
 拓夢は急降下し、屋上の地面ぎりぎりに元に戻って一瞬で銃を取り出し、見張りの二人を銃殺した。
 殺された二人はこめかみに銃弾がヒットしていた。
 もちろん銃にはサイレンサーが付いている。




 ドアから中に侵入し、まず見回りをしている男を射殺した。
 全く気付かれていない。


 「円!」
 円とは辺りを偵察する時や対象を見つける時に使うもので、自身の力量でその範囲が決まる。




 「見つけた――」
 鋭い眼光でその部屋を見た。
 その部屋に向かうと見張りが二人いた。


 見張りは拓夢に気づき、銃を向けてきた。


 「止ま――」
 首をへし折られ、最後まで言えなかった。
 もう一人の見張りが銃を撃とうとすると一瞬で間合いを詰めて首をへし折った。




 ドアを開け、中に入ると仁龍会の会長、仁一輝がいた。


 「誰だお前は。この建物に入ってきたときから気になってはいたが。何者だ」
 どうやら仁はチャクラを感じ取れるらしい。


「殺し屋だ」
「俺が標的に選ばれた訳か。良いだろう。相手になってやる」
 仁はそう言うとジャケットを脱いで机の上に置いた。




 最初の攻撃は仁だった。
 一瞬で間合いを詰め、掌底で拓夢の顎をめがけて打ってきた。
 しかし拓夢はそれを避け、ガラガラの脇腹に掌底を打った。


 仁は吹き飛ばされ、壁にぶつかった。
 しかしすぐに起き上がり、掌底波を打ってきた。
 仁はチャクラを読めるだけでなく能力者だ。
 拓夢は琥功拳ここうけんで応戦し、両者相打ちで相殺された。
 拓夢の術を相殺するという事は仁はかなりの実力者だ。




 「お前のような歯ごたえのある奴は久しぶりだ」
 拓夢がそう言うと仁はニヤリと笑い、こう続けた。
 「お褒めの言葉感謝するよ。俺もお前みたいな強い奴は初めてだ。俺の掌底波を破った奴はお前が初めてだからな」
 すぐに戦闘が再開された。




 拓夢は琥功拳をさらに巨大化させ、仁を襲った。
 しかし仁はそれを掌底波で破った。
 だが仁の掌底波は弱く、脆かった。
 完全には防ぎきれずに正面から琥功波を喰らってしまった。


 「覇王拳!」
 立て続けに拓夢は技を出し、絶命を狙った。


 だが仁は立ち上がった。
 「口寄せ! 羅生門!」
 すると大きな門が出現し、覇王拳を防いだ。


「やるな」
「お前こそ。だが今度は俺の番だ。口寄せ! バオウセイン!」
 すると大きな龍が口寄せされ、拓夢を襲った。
 「琥功龍拳!」
 拓夢は応戦し、龍対ドラゴンドラの勝負になり、互いに噛み合ったり炎を出したりして戦っている。
 拓夢は術に流すチャクラに気を付けながらある作業に入った。
 拓夢の右手が何やらこそこそと動いている。






 突然の事だった。
 「捕獲完了」
 拓夢が言った。
 拓夢が指を鳴らすと何かが途切れたように仁が膝から崩れ落ちた。
 それと同時にバオウセインも消えた。


 拓夢は脳内ハッキングを行い、運動野を司る神経を切ったのだ。




 「中々歯ごたえのある相手だったよ。じゃあな」
 パン――。
 発砲音がし、拓夢は仁のこめかみを撃った。






 「もしもし、俺だ。任務完了。クライアントに報告してくれ」
 電話を切り、タバコに火を付け、吸い始めた。






 タバコを吸い終わるとポイ捨てし、鷹になって飛び去った。

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