上がり三ハロン
東京二歳新馬
羽沼牧場に新たな馬がやって来た。
その名もヒャクセンレンマ。
まだデビューしていない新馬だ。
そう言えば今日調教師の先生がここに挨拶に来てくれるって連絡あったな。
そろそろ来るかな。
すると牧場に車が入ってきた。
駐車場に車が止まり、一人の男性が降りてきた。
「失礼します。私は弘中厩舎の弘中調教師です。羽沼オーナーはどちらでしょうか?」
この人が調教師の先生か。
「自分が羽沼牧場オーナー、羽沼陽介です。弘中先生、はじめまして、よろしくお願いします」
「あぁ、あなたが羽沼オーナーでしたか。ヒャクセンレンマは来週の土曜日に二歳新馬が行われます」
「そうですか。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
お互いに名刺を交換し、挨拶を終えた。
「先生、事務所でお茶でも飲んでいきませんか?」
「おぉ、良いですね。そこでヒャクセンレンマについてお話ししましょう」
そう言って弘中先生を事務所に通し、お茶を出した。
「ヒャクセンレンマですが一歳の頃は腰に不安があったのですが最近になり坂路で調教していたら不安が無くなりました」
腰に不安がある場合は坂路で調教すれば良いのか――。
「先生、ヒャクセンレンマは正直どうですか?」
率直に聞いてみた。
「んー。親がGⅠ勝ってますし――。ですが正直なところ行ってオープンまでだと思います」
オープン?
俺が?な顔をしていると何かを察したのか、美月さんが耳打ちしてきた。
「競馬にはクラスというのがあって、新馬、五百万下、一千万下、千六百万下、オープンというクラスになってます。オープンはGⅢからGⅠまであります」
ありがとうとお礼を言って弘中先生と向き合った。
「先生、そういえばヒャクセンレンマは牝馬なんですか?」
「牝馬ですよ」
「そうですか。先生の見立てだとオープンが限界という事ですがGⅠ勝てないという事ですか?」
「正直今の状態では厳しいでしょう」
「今後の次第では可能になると?」
「はい。可能になる可能性もあります」
「そうですか。ありがとうございます」
「オーナー、あなたは初心者のようですのであまり厳しい事は言いたくなかったのですが競馬の世界はそうそう甘くないですよ?」
何だこの人いきなり。
「勿論分かってます」
そう言うと弘中先生はお茶をぐいっと飲み、立ち上がった。
「美味しいお茶をありがとうございました。私はこれで帰ります」
弘中先生を駐車場まで見送り、頭を下げた。
競馬の世界はそう甘くない――か。
そらそうだよな。
「会長、お時間ですよ」
美月さんに呼ばれ、慌てて準備をした。
今日はヒャクセンレンマのデビュー戦だ。
東京競馬場にやって来た。
「ヒャクセンレンマは何レース?」
「第三レースです」
じゃあ早めに来て良かったな。
さて、スタンド行くか。
「ちょっとどこに行くんですか!」
「え? スタンドじゃなきゃ観戦出来ないじゃないか」
「はぁー。馬主さんは馬主席があるんです」
「そうなの!?」
「行きますよ」
馬主席なんてあるんだな。
知らない事ばかりだ。
馬主席に入ろうとするとドアマンがいてドアを開けてくれた。
「ここでは食事もする事が出来るんです。東京競馬場ではキジ丼が有名ですよ」
へぇー。
でも場違いな所に来ちゃったかな――。
周りにはスゲー雰囲気の人ばかりだ。
「馬主席では失礼のないようにお願いしますね。元々は競馬は貴族の遊びだったんです。だからここでは正装を求められますし、紳士な対応を求められます」
何か美月さん怖い……。
すると美月さんの携帯に電話が掛かってきた。
「日向さんが到着したようです。迎えに行ってきますのでくれぐれも失礼のないようにお願いしますよ」
「分かってますよ」
美月さんが出ていき、俺は一人になった。
「お客様、椅子が空いておりますのでご自由にお座りください」
従業員がそう言って頭を下げて去っていった。
窓側の競馬場が一望できる位置を陣取り、座った。
レースは既に始まっている。
今何レースだ?
あぁ、電光掲示板に書いてあった。
まだ第一レースだ。
「会長、お待たせ致しました。馬券はもう買いました?」
え? あぁ、競馬と言えば馬券か。
「まだだよ」
「そうですか。馬券はこのフロアで買えますので移動する手間が省けるんです」
「そうなんだ。俺はあまり賭け事やらないからヒャクセンレンマの分だけで良いや」
「分かりました。買ってきます。単勝でよろしいですか?」
「?」
「そうだった――」
「何か?」
「いえ、単勝というのはこの馬が勝つというのを予想するものです」
「成程。じゃあ単勝で良いよ。五万円分買ってきて」
「かしこまりました。オッズも見てきます」
「う、うん」
オッズって何だ?
馬鹿にされないように今のうちにスマホで調べておこう。
オッズの意味が分かった。
オッズはその馬の人気だそうだ。
人気が高ければ倍数は減るし人気が低ければ倍数は上がる。
「会長、これ馬券です。因みに五頭出走しますが五番人気でした」
あらら――。
「オッズは百二十五倍です。複勝も買っておきますか?」
ちゃんと調べてあるぞ。
複勝は一着二着を予想するものだ。
でもオッズは下がるんだよな。
でも単勝百二十五倍だったら複勝は八十倍くらいにはなるか。
「うん。複勝も五万円分買っておいて」
かしこまりましたと言って美月さんは下がっていった。
さぁ、第三レースの始まりだ。
『各馬ゲートイン完了。スタートしました。各馬綺麗なスタートを見せました。さぁ東京競馬場第三レース新馬戦、一番人気のスターダスト馬郡の中ほどに付けています。このレースは千八百メートルです。さて先頭は五番人気のヒャクセンレンマ。単騎の逃げに持ち込めるか。さぁ残り四百メートル! 依然先頭はヒャクセンレンマ。二番手とは四馬身程離れているか。さぁ残り二百メートルヒャクセンレンマ差を広げてゴールへまっしぐら! ヒャクセンレンマ、ヒャクセンレンマ、ヒャクセンレンマー! 何と五番人気のヒャクセンレンマが一着でゴール!』
や、やった――。
「やったー!」
馬主席で喜んでいると美月さんも日向さんも喜んでいた。
しかし周りは何新馬戦で喜んでいるんだのような顔でこちらを見ている。
単勝で六百二十五万円、複勝で四百万円も獲得した。
「会長、表彰式に行きましょう」
美月さんに促され、馬場に降りていった。
「羽沼オーナー、おめでとうございます。ヒャクセンレンマの主戦騎手は今日の真中満君でよろしいですか?」
主戦騎手?
すると美月さんが耳打ちしてきた。
「ヒャクセンレンマに乗る主な騎手の事です」
成程ね。
「はい。よろしくお願いします」
「真中君から挨拶があるそうです」
弘中先生に案内され、騎手の真中さんと握手をした。
「羽沼さん、ヒャクセンレンマは良い馬ですよ。正直だし、勝負根性も十分にあります」
「そうですか! ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。では表彰式に行きましょうか」
正式には口取り式というらしいがそんな事はどうでも良い。
勝ったんだ! 五番人気の状態で勝てたんだ!
「会長、喜んでいるところ申し訳ありませんが本番はここからですよ。五番人気の馬が勝つなんてよくある事です」
そうなのか――。
「分かってる。頑張ろう」
「はい。会長、この勝利をきっかけにもっともっと頑張りましょう」
「そうだな」
表彰式が終わり、帰り支度をしていると一人の男性が話しかけてきた。
「すみません、今日の二歳新馬で勝たれたヒャクセンレンマのオーナーさんですか?」
誰だろう――。
「はい。そうですよ。羽沼牧場のオーナー、羽沼陽介です」
名刺を出し、挨拶をした。
「ありがとうございます。私はこのレースに出ていたスターダストのオーナーの中山忍と申します」
そう言って中山さんは名刺をくれた。
「今度同じレースになったら負けませんからね。では失礼します」
「はい。ありがとうございました」
オーナーの知り合いが増えた――。
これは喜ばしい事だ。
もっと頑張ろう。
その名もヒャクセンレンマ。
まだデビューしていない新馬だ。
そう言えば今日調教師の先生がここに挨拶に来てくれるって連絡あったな。
そろそろ来るかな。
すると牧場に車が入ってきた。
駐車場に車が止まり、一人の男性が降りてきた。
「失礼します。私は弘中厩舎の弘中調教師です。羽沼オーナーはどちらでしょうか?」
この人が調教師の先生か。
「自分が羽沼牧場オーナー、羽沼陽介です。弘中先生、はじめまして、よろしくお願いします」
「あぁ、あなたが羽沼オーナーでしたか。ヒャクセンレンマは来週の土曜日に二歳新馬が行われます」
「そうですか。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
お互いに名刺を交換し、挨拶を終えた。
「先生、事務所でお茶でも飲んでいきませんか?」
「おぉ、良いですね。そこでヒャクセンレンマについてお話ししましょう」
そう言って弘中先生を事務所に通し、お茶を出した。
「ヒャクセンレンマですが一歳の頃は腰に不安があったのですが最近になり坂路で調教していたら不安が無くなりました」
腰に不安がある場合は坂路で調教すれば良いのか――。
「先生、ヒャクセンレンマは正直どうですか?」
率直に聞いてみた。
「んー。親がGⅠ勝ってますし――。ですが正直なところ行ってオープンまでだと思います」
オープン?
俺が?な顔をしていると何かを察したのか、美月さんが耳打ちしてきた。
「競馬にはクラスというのがあって、新馬、五百万下、一千万下、千六百万下、オープンというクラスになってます。オープンはGⅢからGⅠまであります」
ありがとうとお礼を言って弘中先生と向き合った。
「先生、そういえばヒャクセンレンマは牝馬なんですか?」
「牝馬ですよ」
「そうですか。先生の見立てだとオープンが限界という事ですがGⅠ勝てないという事ですか?」
「正直今の状態では厳しいでしょう」
「今後の次第では可能になると?」
「はい。可能になる可能性もあります」
「そうですか。ありがとうございます」
「オーナー、あなたは初心者のようですのであまり厳しい事は言いたくなかったのですが競馬の世界はそうそう甘くないですよ?」
何だこの人いきなり。
「勿論分かってます」
そう言うと弘中先生はお茶をぐいっと飲み、立ち上がった。
「美味しいお茶をありがとうございました。私はこれで帰ります」
弘中先生を駐車場まで見送り、頭を下げた。
競馬の世界はそう甘くない――か。
そらそうだよな。
「会長、お時間ですよ」
美月さんに呼ばれ、慌てて準備をした。
今日はヒャクセンレンマのデビュー戦だ。
東京競馬場にやって来た。
「ヒャクセンレンマは何レース?」
「第三レースです」
じゃあ早めに来て良かったな。
さて、スタンド行くか。
「ちょっとどこに行くんですか!」
「え? スタンドじゃなきゃ観戦出来ないじゃないか」
「はぁー。馬主さんは馬主席があるんです」
「そうなの!?」
「行きますよ」
馬主席なんてあるんだな。
知らない事ばかりだ。
馬主席に入ろうとするとドアマンがいてドアを開けてくれた。
「ここでは食事もする事が出来るんです。東京競馬場ではキジ丼が有名ですよ」
へぇー。
でも場違いな所に来ちゃったかな――。
周りにはスゲー雰囲気の人ばかりだ。
「馬主席では失礼のないようにお願いしますね。元々は競馬は貴族の遊びだったんです。だからここでは正装を求められますし、紳士な対応を求められます」
何か美月さん怖い……。
すると美月さんの携帯に電話が掛かってきた。
「日向さんが到着したようです。迎えに行ってきますのでくれぐれも失礼のないようにお願いしますよ」
「分かってますよ」
美月さんが出ていき、俺は一人になった。
「お客様、椅子が空いておりますのでご自由にお座りください」
従業員がそう言って頭を下げて去っていった。
窓側の競馬場が一望できる位置を陣取り、座った。
レースは既に始まっている。
今何レースだ?
あぁ、電光掲示板に書いてあった。
まだ第一レースだ。
「会長、お待たせ致しました。馬券はもう買いました?」
え? あぁ、競馬と言えば馬券か。
「まだだよ」
「そうですか。馬券はこのフロアで買えますので移動する手間が省けるんです」
「そうなんだ。俺はあまり賭け事やらないからヒャクセンレンマの分だけで良いや」
「分かりました。買ってきます。単勝でよろしいですか?」
「?」
「そうだった――」
「何か?」
「いえ、単勝というのはこの馬が勝つというのを予想するものです」
「成程。じゃあ単勝で良いよ。五万円分買ってきて」
「かしこまりました。オッズも見てきます」
「う、うん」
オッズって何だ?
馬鹿にされないように今のうちにスマホで調べておこう。
オッズの意味が分かった。
オッズはその馬の人気だそうだ。
人気が高ければ倍数は減るし人気が低ければ倍数は上がる。
「会長、これ馬券です。因みに五頭出走しますが五番人気でした」
あらら――。
「オッズは百二十五倍です。複勝も買っておきますか?」
ちゃんと調べてあるぞ。
複勝は一着二着を予想するものだ。
でもオッズは下がるんだよな。
でも単勝百二十五倍だったら複勝は八十倍くらいにはなるか。
「うん。複勝も五万円分買っておいて」
かしこまりましたと言って美月さんは下がっていった。
さぁ、第三レースの始まりだ。
『各馬ゲートイン完了。スタートしました。各馬綺麗なスタートを見せました。さぁ東京競馬場第三レース新馬戦、一番人気のスターダスト馬郡の中ほどに付けています。このレースは千八百メートルです。さて先頭は五番人気のヒャクセンレンマ。単騎の逃げに持ち込めるか。さぁ残り四百メートル! 依然先頭はヒャクセンレンマ。二番手とは四馬身程離れているか。さぁ残り二百メートルヒャクセンレンマ差を広げてゴールへまっしぐら! ヒャクセンレンマ、ヒャクセンレンマ、ヒャクセンレンマー! 何と五番人気のヒャクセンレンマが一着でゴール!』
や、やった――。
「やったー!」
馬主席で喜んでいると美月さんも日向さんも喜んでいた。
しかし周りは何新馬戦で喜んでいるんだのような顔でこちらを見ている。
単勝で六百二十五万円、複勝で四百万円も獲得した。
「会長、表彰式に行きましょう」
美月さんに促され、馬場に降りていった。
「羽沼オーナー、おめでとうございます。ヒャクセンレンマの主戦騎手は今日の真中満君でよろしいですか?」
主戦騎手?
すると美月さんが耳打ちしてきた。
「ヒャクセンレンマに乗る主な騎手の事です」
成程ね。
「はい。よろしくお願いします」
「真中君から挨拶があるそうです」
弘中先生に案内され、騎手の真中さんと握手をした。
「羽沼さん、ヒャクセンレンマは良い馬ですよ。正直だし、勝負根性も十分にあります」
「そうですか! ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。では表彰式に行きましょうか」
正式には口取り式というらしいがそんな事はどうでも良い。
勝ったんだ! 五番人気の状態で勝てたんだ!
「会長、喜んでいるところ申し訳ありませんが本番はここからですよ。五番人気の馬が勝つなんてよくある事です」
そうなのか――。
「分かってる。頑張ろう」
「はい。会長、この勝利をきっかけにもっともっと頑張りましょう」
「そうだな」
表彰式が終わり、帰り支度をしていると一人の男性が話しかけてきた。
「すみません、今日の二歳新馬で勝たれたヒャクセンレンマのオーナーさんですか?」
誰だろう――。
「はい。そうですよ。羽沼牧場のオーナー、羽沼陽介です」
名刺を出し、挨拶をした。
「ありがとうございます。私はこのレースに出ていたスターダストのオーナーの中山忍と申します」
そう言って中山さんは名刺をくれた。
「今度同じレースになったら負けませんからね。では失礼します」
「はい。ありがとうございました」
オーナーの知り合いが増えた――。
これは喜ばしい事だ。
もっと頑張ろう。
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