上がり三ハロン

星河☆

羽沼牧場

 「さぁ、アガリミラクルが一気に上がってきた! 残り二百メートル! 先頭はフェロモンスター。残り百メートル! 一気にアガリミラクルが差したー! 差し切った! ゴール! 日本ダービーの勝ち馬はアガリミラクル! 人気薄を撥ね退け見事一着!」
 実況が大声で興奮している。
 十一番人気の馬が一着でゴールしたのだ。それは興奮するだろう。


 ここで馬主の羽沼茂雄が出てきた。
 観客に手を振り、騎手、厩舎の調教師に握手をし、深々とお辞儀をした。










 「起きてください! お客さん! 羽沼牧場に着きましたよ」
 ん、あぁ。もう着いたのか。


「しかしお客さんこんな寂れた牧場に何の用なの?」
「ん? 俺が新しい牧場主になるんだ」
「へぇー。応援するから頑張ってくれよ。アガリミラクルみたいな馬を輩出してほしいね」
「ふふ。頑張るよ」
「ありがとうございましたー」
 さて、受付はどこかなー。
 牧場の看板は錆びていて何が書いてあるか分からない。
 中に入り受付を探していると柵に囲まれた大きな広場みたいなのがあった。
 「これは何だ? こんなに広いのに馬が一頭もいな――あ、いた」
 馬と目が合い、馬が近寄ってきた。
 可愛いな。撫でてみるか。
 恐る恐る顔を撫でると馬は喜んでいるかのように鼻息を出した。




 「ちょっと! 何してるんですか! ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ! 看板見えなかったんですか!」
 女性が怒りの顔でこちらに走ってくる。


「馬が怪我したらどうしてくれるんですか!」
「失礼、俺は羽沼陽介です。受付を探していたらここにたどり着いてしまって」
「え? 失礼しました! 羽沼さんでしたか! 本当に失礼しました!」
「いえいえ、構いませんよ。この馬は何て名前なんですか? 何故入厩してないんですか?」
「あぁ、それは、この子はナンデヤネンって言って繁殖牝馬なんです。だからこの牧場の厩舎にいるんです」
 成程な。繁殖牝馬か。


「あの、羽沼さん、新たなオーナーさんですよね?」
「はい。そうですよ」
「良かった――。やっと来てくれた」
「どういう事ですか?」
「この牧場長らくオーナーが居なくて困っていたんです。先代の羽沼茂雄さんが亡くなってから所有馬もいなくなってしまって」
「そうだったんですか」
「はい」
「俺に任せてください。今日から牧場を立て直します」
「よろしくお願いします! あ、私の名前は美月夢です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 この子若いけど何歳なんだろう。
 でも女性に年齢聞くのは失礼か。




「牧場長もいないのでそこから始めましょうか」
「候補の選出は任せます。面接は俺と美月さんで行いますのでよろしくお願いします。ところで――」
「はい?」
「繁殖牝馬って何ですか?」
「え? えー! 分からないんですか? 繁殖牝馬っていうのは、あー、牝馬って分かります?」
「それくらいは分かりますよ。メスって事でしょ?」
「はい。繫殖牝馬っていうのは牝馬が引退した後簡単に言うとお母さんとして繁殖牝馬になるんです」
「あぁ、成程。ありがとうございます。じゃあまず牧場長が何をするのか教えてください」
「そこもか――」
「はい?」
「いえ、牧場長は幼い馬、幼駒を面倒見たり牧場と調教師の先生との仲立ちをしてくれたりするんです。詳しい話は牧場長を採用した時に話しましょう」
「分かりました。ありがとうございます。では求人の方よろしくお願いします」
「はい。では羽沼さんの事を何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「んー。考えておきます」
 何がいいかな――。
 ご主人様なんて呼ばせたりして。
 まぁ冗談はその辺にして俺はもっと勉強しないとな。














 成程、牧場長はこんな仕事もしてくれるのか。
 給料は――。高! こんな上げなきゃいけないのかよ。






 それから色々俺は競馬について色々勉強した。


 「羽沼さん、牧場長候補の方々がいらっしゃいました。面接お願いします。あ、牧場長の仕事は――」
 俺はそれを制して勉強したから大丈夫と言って面接に行った。






 「私はここのオーナーの羽沼陽介です。まだこの牧場では十分な給料は出せないかもしれません。ですがいつかは凱旋門賞を勝てる馬を輩出したいと思っております。ご協力お願いします。では面接を始めます」
 面接を始め、数名と話をした。
 すると人一倍熱心な人がいた。
 名前は日向仁。四十七歳のイケメンだ。


「私はどんなに給料が少なかろうが構いません! 私は競馬に携わる仕事がしたいんです! 羽沼さんの夢には感動しました! 私もその夢に関わらせてください! お願いします!」
「羽沼さん、どうします?」
「俺はもう決めましたよ。日向さん、あなたに牧場長をお願いします」
「本当ですか! ありがとうございます! 頑張ります!」
 よし。これで牧場長は決まった。
 次は競走馬だな。








 「羽沼さん、何とお呼びすればいいか決まりました?」
 美月さんが言ってきた。
 すっかり忘れてた。
 んー。


「会長でお願いします」
「分かりました。日向さんにもお伝えしておきます。会長、今後ともよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
 会長――。良い響きだ。




 「会長、まだうちには競走馬がいないですよね? そこで実は私の知り合いの馬主さんが一頭譲って下さるみたいなんです」
 日向さんがそう言って名刺を出してきた。
 名刺には『神馬牧場 神馬悠馬』と書かれていた。


「この神馬さんが譲って下さると?」
「はい。勿論お金はかかりますがどれでも一頭良いと」
「そうですか。それは嬉しいですね」
「ではこの話を進めてよろしいですね?」
「はい。お願いします」
「では明日神馬牧場に行きましょう」
「はい」
 やった! これで競走馬が手に入る。
 今羽沼牧場には資金が三十億円ある。
 勿論俺のポケットマネーを入れた額だ。










 翌日、神馬牧場に日向さんと美月さんとでやって来た。


 「はじめまして。私は羽沼牧場のオーナーで羽沼陽介です。この度はありがとうございます」
 俺はそう言って神馬さんに名刺を出した。
 神馬さんも俺に挨拶をして名刺をくれた。


「こちらが私の馬たちです」
「おぉー。凄いですね」
「はは。サラブレットですからね」
 目の前の牧場の芝には数十頭の馬がいる。


「馬を見る時はどういった所を見たら良いんですか?」
「んー。簡単に言うと走っている姿、お尻の筋肉、毛艶、気性等様々なところを見ます。まぁ、競馬は正解がないですから何が走る馬かなんて事は経験を積まないと分からないですよ」
 神馬さんがそう言って笑った。
 そっかー。やっぱり経験か。


 「日向さん、どの馬が良いと思いますか?」
 日向さんに聞いてみた。


「うーん、私はあの芝を駆けている端っこの馬が良いと思いますよ。ですが最終決定はあくまで会長がするんです」
「あの馬か――」
 その馬は毛艶は綺麗で走る姿は見ていて気持ちが良いくらい清々しい走り方をしていた。
 栗色の馬体だ。


 「神馬さん、あの栗色の馬体の端っこの馬をお願いします」
 神馬さんにそう言うと驚かれた。


「凄いですね。見る目がありますよ。あの馬はGⅠを勝った馬の産駒ですからね」
「へ、へぇー。幾らになりますか?」
「うーん、あの子は――二億六千万円でどうでしょうか?」
「分かりました。よろしくお願いします」
「良し! あの子は今日から羽沼さんの馬ですよ」
「嬉しいです。初めての競走馬ですからね」
 日向さんが選んだとは言わず無事取引が終了した。
 「あの子の名前はヒャクセンレンマです。来月デビューの予定です。調教師の先生にはオーナーが変わったと伝えておきますね。では今後ともよろしくお願いします」
 神馬さんに挨拶をして羽沼牧場に戻った。

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