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ヤンデレ化した幼馴染を救う108の方法

井口 創丁

15話 「I CAN FLY !」

  「いないねぇ」
  隣を歩くケンタがボヤく。
  ヨウのいきそうな場所はあらかた探し尽くしたが、どこにもいなかった。
  時間は四時四十分。道を歩く学生服姿の人がちらほらと見え始めた。
  「どこにいるんだよっ」
  イラつきがついつい口から漏れる。
  一緒に行ったゲームセンターや、過去に話して聞いた場所を漁るが姿は見えず。
  三時間の探索は僕の体力だけでなく精神までも削っていた。
  思考はどんどんネガティヴな方向へと流れていく。
  もう二度と会えないんじゃないのか、どうしてあんな余計なことをしだんだろうか、あんな悲しそうな顔初めて見た、もしかしてもう……。
  「あー!もうっダメだダメだ」
  最悪の結末が脳裏をよぎる。頭を左右に振り思考をかき消す。
  「お困りのようね」
  斜め下を向いて歩いていた僕の前にちょうど視線が合うように見上げるオーガさんが立っていた。
  「学校抜け出すとかバカじゃないの。先生も心配してたわよ」
  「ごめん、でも」
  「理由はわかってるから言わなくていいわよ」
  「僕が全部言っておいたからね」
  ケンタが割り込む。
  彼は手にスマホを握り微笑んでいた。
  「人手は多いほうがいいだろ」
  「あれ?というか二人なの?委員長達も消えてたからてっきり一緒に探してるのかと」
  「あー、それは知らないほうがいいかも。聞くと多分失神すると思うから」
  「まだやってるのか……」
  「失神するの⁉︎まだやってる⁉︎気になるからそういうのやめて」
  オーガさんは目を丸くして驚いていた。
  委員長は保健室でお楽しみようだ。校則に触れない程度で済んでいるのだろうか。
  「まあいいわ、とりあえずヨウの家に行きましょう。行ってないんでしょケンタから聞いたわ」
  「知ってるの⁉︎」
  「私は友達よ。お泊まりもしたことがあるわ、てかあんたが知らないことの方が驚きよ」
  そういうとオーガさんは僕達に背を向けて歩き出した。
  その背中は実際小さかったが、希望の光を放ち大きく見えた。
  

  「ここよ」
  そう言われてついた家は三角屋根で二階建ての一戸建てだった。
  別段変わったところはない。
  あとここに来る道順で分かったのだけど、案外僕の家とそう遠くないようだ。
  前に一緒に帰った時に別れた道から右に行って最初の角を曲がって6軒目にヨウの家はあった。
  「じゃあ作戦始めるわよ」
  オーガさんはそう言い頷く僕とケンタを見てから、ヨウの家のインターホンを押す。
  ここに来るまでに立てた作戦を脳内で再確認する。
  まずはオーガさんがプリントを持って来たという程でヨウを外まで呼び出す。
  その後、僕が物陰から現れ仲直りする。
  この間ケンタはヨウの逃げ道を無くす為に周囲を適時移動する。
  念のため僕とケンタはお腹に分厚い雑誌を仕込んでいた。
  しかし最大の不安要素はヨウがここにいなかった場合だ。
  しかしどうやらそれは杞憂だったようでインターホンの奥から声が聞こえた。
  「みさきちゃん、だよね、プリントならそこに置いといて、じゃ」
  聞こえてきたヨウの声は元気が全く感じられず、そそくさと会話を切ろうとしていた。
  「まってまって!ヨウちゃん体調大丈夫?外出て会えない?」
  「ごめんね、それは出来ないの」
  「一瞬でいいから、お願いこの通り」
  そう言ってオーガさんは両手を合わせてお辞儀をしていた。
  沈黙が続いた。その間にも僕の心拍数はどんどん上がっていく。
  それは緊張や焦りからくるものではなかった。
  それはきっとヨウに会えるということで本能が反応する愛の感情、それと朝の惨劇から無意識に知性が生み出す死の恐怖だった。
  沈黙は終わり、ノイズがかった声が聞こえてきた。
  「だって、今外に行っちゃうと、私止められそうにない」
  その声は震えているように聞こえた。
  「ヨ、ヨウちゃん?」
  「だって、そこにテルがいるんでしょ、そんなの絶対無理……私……私……」
  オーガさんは無言でインターホンを見つめている。
  僕は物陰から家の前に移動する。
  僕の存在に気がついていてもおかしくはないと思っていたが、実際気がつかれると心臓が止まりそうになった。
  最初からこそこそするなんで間違っていたんだ。正々堂々と話そう。
  「ヨウ、ごめん」
  「やめてッ!私、テルを殺したくないッ!」
  掠れたヨウの声は今まで聞いた中で一番感情を荒ぶらせていた。
  その怒声に僕は構えていた心も骨抜きにされ、無気力に立ち尽くす。
  僕を、殺したくない……?。数秒考えてもその言葉の意味が理解できなかった。
  その時僕は自分の浅はかさに気がついてしまった。
  そうか、僕は心の底ではヨウはあっさりいつも通りに戻るって思っていたのか。
  いつもみたいに顔を見せるだけで機嫌は戻ってにこやかな笑顔が見れると思っていたのか。
  ちょっと謝罪して甘い言葉を囁けば心を開くと思っていたのか。
  ーーー誰かに裏切られて世界に絶望しているときの目をしていました。もう一生誰かを信じれないかもしれませんね。
  獅子道さんの言葉が脳内で再び響く。
  その言葉はヨウに向けて言ったものだったが今はなぜか僕のことのように感じた。
  きっとこの感情が絶望というやつだろう。
  最愛の旧友から告げられた確実な拒否と微かに向けられた殺意。
  僕の心は案外あっさりとその二つの要因で砕け散った。
  「テル!大丈夫⁉︎」
  気がついた時には僕はケンタに支えられていた。
  どうやら倒れかけたのだろう。
  そう言いながらもこの状況も楽しんでるんだろうな、ケンタはドSだしな。
  折れて闇に飲まれた思考は他人の気持ちを歪曲させ、悪い方向へと捻じ曲げる。
  もういいかな。きっと僕は誰からも愛されないんだろう。
  体の力は何もしていないのに抜けていき、それに伴い意識も消えた。
  夢の中は幸せな世界なのかな。
  ヨウは笑っていてくれているのかな。
  



  「んっ……」
  気がついた時には辺りは暗くなっていた。
  辺りを見渡すと見慣れた光景が広がっている。
  「ケンタが運んでくれたのかな」
  きっと重たいなとかめんどくさいなとか思っていたんだろうなぁ。もう捨ててくれていいのに。
  気持ちはまだ晴れない。
  結局、夢の世界なんてなかった。
  人は眠ると何もない無の世界をさまようだけ、そこに希望なんて落ちていない。
  「死のうかなぁ」
  無の世界にも現実の世界にも希望なんてない、あるのは絶望と希望に見せかけた絶望、つまりは一択、選択肢はない。
  あーでも死んだら家族悲しむかなぁ。あと始末も大変っていうよなぁ。
  そう逡巡しながらリュックを漁る。
  今日回収したカッターの刃どこかな。ちょっと傷つけるだけならいいよね。
  こんな精神状態の自分が健全な肉体なんて持ってちゃダメだよな。欠けた心には欠けた肉体をってな……はぁ。
  悪い思考が悪い思考を生み出し続ける完全ある悪循環が起こっていた。
  「ん?これは?」
  リュックの中に押し込まれるように入った手紙を見つける。
  その手紙はハートマークのシールで封が閉じられていた。
  それは今朝回収した僕の靴箱に入っていたものだった。
  誰が出したかは考えるまでもない。
  一瞬、無にかえった心で手紙を開く。
  それは可愛らしいピンク色の文字で書かれていた。
  『テルへ
     いつもこんな私と一緒にいてくれてありがとう。
     今回は言わなきゃいけないことがあるので手紙を書きました。
     メールで送ろうかとも思いましたが、こういうのは手書きの方が気持ちがこもるかなって思って手紙にしました。
     単刀直入に言うと、私は少しの間学校に行けなくなるかもしれません。
     テルはいっつもギリギリに来るので、これを見て私がいなかったらそういうことなんだなって思ってください。
     きっと理由は言わなくてもわかると思うので割愛します。
     テルに会えないと思うと本当に悲しいし、寂しいです。
     それでも私は自分自身を抑えることができそうにありません。
     きっとこんな気持ちがテルや周りの人をキズつけてしまってるんだよね。
     あれ、なんで私、泣いてるんだろう。テルに会えないかもしれないからかな?みんなに迷惑かけちゃってるからかな?
     本当ならこんなことはしちゃいけないってわかってるのに行動を止められそうにないよ。
     テル、なんでだろうね。私が悪いのかな?私がテルに会っちゃったからなのかな?
     でも後悔なんてしてないよ。まわりに狂ってるって言われてもそれでも私は、
     この先の言葉はテルから聞きたいな。わがまま言ってごめんね。
     次会えるのがいつになるかは分からないけど私待ってるから。
     じゃあまたね。
     ヨウより
     離れたくないよ、会いたいよ、悲しいよ、切ないよ、…………』
  最後に書き殴られた文字は手紙の白を埋め尽くしている。
  僕の目からは大粒の涙がとめどなく溢れでてきていた。
  手紙には滲んだ丸型のシミがいくつもできている。
  それは最初からあった色の薄いものと今できたばかりの色の濃いものが混じっていた。
  「バカ、僕だって離れたくないよ」
  そう呟き、部屋から飛び出ようとする。
  でもそこで立ち止まった。もしかしたらそんなことをせずとも辿り着ける可能性に気づいたからだ。
  スマホを取り出し、マップを開く。
  もう絶望なんて感情はヨウの想いにかき消されて残っていない。
  僕は少しスマホを操作してから窓を開けた。
  いつもなら光を遮るしかしない向かいの家の壁が見える。
  何のためらいもなく僕は窓から飛び降りた。
  机の上に残されたスマホには『今いくよ』と送られたメッセージに既読がついていた。

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