ヤンデレ化した幼馴染を救う108の方法
9話 「盗賊の極意」
  眼が覚める。いつもの天井だ。息を吸い込む。
  「あ”ー!恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかし!何が『そうさせたのはヨウだよ』だよ!『ヨウに本当の幸せを』だよ!テンション上がって恥ずかしいセリフ連呼してバカか!」
  昨日の一件は黒歴史として僕の心に深く傷を残している。
  昨夜九時ごろ自室に入り一息ついたところで僕の理性が濁流のように流れてくる記憶を振り返り、正気に戻った精神は崩壊寸前のところまで擦り切られた。その後、寝ようと布団にくるまっても頭の内側からくる精神攻撃は避けようもなく結局僕は三時まで悶え続けていた。
  あれが若さゆえの過ちというやつだろうか。これから先思い出すたびに死ぬたくなるだろう。
  学校に行きたくない。ヨウと顔を合わせたくない。吐き気がする。死にたい。
  ネガティヴな思考はとめどなく溢れ出たが、どれも僕の動きを止めるような効果は持っていなかった。
  模範的な一般生徒の僕の体は意思とは関係なしに学校へ行くための準備を着々と進めている。いくら自暴自棄になっても体に染み付いた習慣を洗い流すには遠かった。
  「はぁ学校行きたくない」
  そうぼやきながら僕は制服に着替え終わると階段を降り食卓へと向かった。
  昨日と同じ教室の前、扉に手をかける。昨日までと同じ扉は謎の力が働いているかのように重たい。
  はぁ、帰りたい。ここまで来ても後悔は止まらない。
  扉が開く。目と鼻の先に置かれている僕の机には少女が座っていた。
  少女はイスの本来の向きとは逆に腰を据え、茶髪のポニーテールを揺らしながら後ろの席のヨウと話している。少女の後ろ姿には見覚えがあった。
  「だからもう怒ってないよ、みさきちゃん」
  「ほんとっ⁉︎昨日あんな目してたのに」
  「本当だよ、昨日はちょっと驚いただけだって」
  「そっかーちょっとかーあれでちょっとかー」
  「どしたの、眼が泳いでるけど、ってテテっテル、お、おはよう」
  「おおっおはよう」
  僕の存在に気がついたヨウは急に取り乱した。僕も僕で昨日のことが脳内を巡り言葉を詰まらせた。
  「あ、愛川くん、じゃっ邪魔よね。どっどくわ」
  僕とヨウに挟まれたオーガさんはつられるように吃り、移動しようとする。オーガさんが一番慌てていた。
  自分の席へと早足でオーガさんは戻る。道中他の席にぶつかりまくっていたが大丈夫だろうか。
  遮るものが無くなり僕とヨウの視線が合う。
  途端にヨウは視線を逸らすが、その意図は僕を嫌っているのではないという事は分かっていた。
  逸らした視線を時々戻そうとしてやっぱり止めるというのを繰り返していた。
  そこからは、昨日あんな事あったから恥ずかしいけど遠慮しなくていいって言われたから行っていいのかな?でも恥ずかしいなー、というような感情を読み取れる。
  というか僕が今実際そうだからそう思っただけなのだけど。
  席に着きたくても何か話さなければいけない気がして動けない。そうしている間もクラスからの視線が体に突き刺さる。
  「あ、あの、HR始めてもいいかな?」
  背後から声が聞こえた。振り向くと教壇の上に先生が立っていた。
  僕は素早く席に座り、HRが始まる。
  恥ずかしかったし、帰りたかったし、死にたかった。
  僕の学校生活は今日もまたいつもと同じように始まった。
  きてしまった昼休み。楽しみにしていた昼休み。
  僕の机は移動してヨウと向かい合ってくっついていた。
  ヨウは昨日までと同じくバッグの中から弁当を取り出した。今日は重箱ではなく普通の一般的な弁当箱だった。
  「はいテル」
  「あ、ありがとう」
  もうヨウはたじろいでいなかった。僕目をじっとりと見つめながら差し出された弁当箱を受け取る。
  弁当箱を開くとそこは真っ赤に染まっていた。染められた赤の膜の下に微かに黄色いものが見える。
  「ヨウ、これは?」
  「オムライス」  
  そう聞き、蓋に圧迫されてケチャップが潰れたのかと思ったが蓋は一切汚れていなかった。
  ケチャップを全面に塗りたくるタイプの家系なのだろうか。
  少し疑問を感じたがそういう家もあるかと思いスプーンを突き刺す。
  ふとヨウの弁当をみるとそこには僕と同じオムライスがあった。しかし、それはまだ黄色を多く保った一般的なものだった。
  「ヨウこのオ」「あーん」
  ケチャップの謎について聞こうと思い話しかけたが、続きを言う前に僕の言葉は打ち切られた。
  ヨウの目は少し影を持ち始めていた。
  僕の前に突き出されたスプーンにはオムライスが乗っている。これを否定することは僕にはできなかった。
  口を開く。優しく僕の口の中に入ってくるオムライス。チキンライスの酸味と玉子のまろやかさが合わさり極上の美味しさに包まれる。
  「美味しい」
  言葉が自然に流れ出た。それ以外のことを暫く考える事ができなかった。
  少しの間幸せに包まれた僕は口の中にものが無くなると再び先ほどの疑問を問おうとする。
  「ところで僕のオム」「あーん」
   再びスプーンが差し出された。この料理の魔力には勝てず口を開く。
  先程よりも強い酸味を感じる、それは上に乗ったケチャップだった。それはチキンライスと玉子を邪魔するどころかさらなる旨みの階級へと持ち上げる。
  「美味しい」
  言葉が自然に流れ出た。それ以外のことを暫く考える事ができなかった。
  正気に戻った僕はヨウに話しかける。
  「僕のオムラ」「あーん」
  再び差し出されるスプーン。
  迷う事なく口を開く僕。
  最高のハーモニーを奏でるオムライス。
  「美味しい」
  それ以外のことを考えられない。
  ……。
  何度繰り返しただろうか。気がついた時にはヨウの弁当箱は空になり、僕の弁当はスプーンが刺さっただけで一口も食べられていなかった。
  ヨウにもう逃げ場はない。僕は妨害され続けた疑問を投げかける。
  「僕のオムライス、ケチャップ多くない?」
  繰り返した『あーん』で幸せに満ちたヨウの暗い瞳がピクリと揺れた。即座に視線をそらされる。
  「どうしたの?ケチャップの蓋が壊れたとか?」
  「…………ました」
  「なんて」
  「ケチャップで、字を、書いてて……恥ずかしくなって、潰しました」
  ヨウの目はもう暗くなかった。
  ヨウが何を書いていたのかは気になったがそこにつっこむと拳が飛んでくるかもしれないと思い聞かなかった。
  それにこれまでみたいな限界まで濃度を上げてダイヤすら溶かしそうな愛ではなく、普通の女の子のような可愛いらしい愛で恥ずかしがるヨウをとても愛おしく思える。
  「はいヨウ、あーん」
  弁当を全て僕に食べさせてくれたお礼にとヨウにスプーンを差し出す。
  明るい笑顔で口を開けるヨウを見て僕は病気が治ったのかと思い、ホッとする一方その後に僕がすると決めていたことを思い返すと胸が張り裂けそうだった。
  っ⁉︎オムライスを頬張るヨウと目が合った瞬間、悪寒が体を走りぬけた。
  しかしただの気のせいだろうと割り切り、明るいヨウといられるこの時間を心の底から喜んだ。
  歪んだ幼馴染の昼休みは闇を内包して過ぎていく。
  少し離れた場所で二人を眺めるケンタ。
  彼は見逃していなかった。
  嬉しそうにテルにあーんをしてもらっているヨウが膝下で真空パックに先程まで使っていたスプーンを詰めるところを。
  そういえば昨日までテルは念のため買っていたコンビニ弁当の割り箸で食べてたなと思い返し一人ケンタは微笑む。
  「ケンタ?にやけてどうしたの」
  「いや、テルたちラブラブだなぁって。僕もしてあげようか」
  「っ⁉︎いやっ、いいわよ、そんなぁ」
  「照れるところも可愛いね、オーガ」
  「オーガ言うなぁ」
  純情なカップルの昼休みは優雅に過ぎていく。
  その後あのスプーンはヨウにたっぷりと堪能(意味深)されたという。
  「あ”ー!恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかし!何が『そうさせたのはヨウだよ』だよ!『ヨウに本当の幸せを』だよ!テンション上がって恥ずかしいセリフ連呼してバカか!」
  昨日の一件は黒歴史として僕の心に深く傷を残している。
  昨夜九時ごろ自室に入り一息ついたところで僕の理性が濁流のように流れてくる記憶を振り返り、正気に戻った精神は崩壊寸前のところまで擦り切られた。その後、寝ようと布団にくるまっても頭の内側からくる精神攻撃は避けようもなく結局僕は三時まで悶え続けていた。
  あれが若さゆえの過ちというやつだろうか。これから先思い出すたびに死ぬたくなるだろう。
  学校に行きたくない。ヨウと顔を合わせたくない。吐き気がする。死にたい。
  ネガティヴな思考はとめどなく溢れ出たが、どれも僕の動きを止めるような効果は持っていなかった。
  模範的な一般生徒の僕の体は意思とは関係なしに学校へ行くための準備を着々と進めている。いくら自暴自棄になっても体に染み付いた習慣を洗い流すには遠かった。
  「はぁ学校行きたくない」
  そうぼやきながら僕は制服に着替え終わると階段を降り食卓へと向かった。
  昨日と同じ教室の前、扉に手をかける。昨日までと同じ扉は謎の力が働いているかのように重たい。
  はぁ、帰りたい。ここまで来ても後悔は止まらない。
  扉が開く。目と鼻の先に置かれている僕の机には少女が座っていた。
  少女はイスの本来の向きとは逆に腰を据え、茶髪のポニーテールを揺らしながら後ろの席のヨウと話している。少女の後ろ姿には見覚えがあった。
  「だからもう怒ってないよ、みさきちゃん」
  「ほんとっ⁉︎昨日あんな目してたのに」
  「本当だよ、昨日はちょっと驚いただけだって」
  「そっかーちょっとかーあれでちょっとかー」
  「どしたの、眼が泳いでるけど、ってテテっテル、お、おはよう」
  「おおっおはよう」
  僕の存在に気がついたヨウは急に取り乱した。僕も僕で昨日のことが脳内を巡り言葉を詰まらせた。
  「あ、愛川くん、じゃっ邪魔よね。どっどくわ」
  僕とヨウに挟まれたオーガさんはつられるように吃り、移動しようとする。オーガさんが一番慌てていた。
  自分の席へと早足でオーガさんは戻る。道中他の席にぶつかりまくっていたが大丈夫だろうか。
  遮るものが無くなり僕とヨウの視線が合う。
  途端にヨウは視線を逸らすが、その意図は僕を嫌っているのではないという事は分かっていた。
  逸らした視線を時々戻そうとしてやっぱり止めるというのを繰り返していた。
  そこからは、昨日あんな事あったから恥ずかしいけど遠慮しなくていいって言われたから行っていいのかな?でも恥ずかしいなー、というような感情を読み取れる。
  というか僕が今実際そうだからそう思っただけなのだけど。
  席に着きたくても何か話さなければいけない気がして動けない。そうしている間もクラスからの視線が体に突き刺さる。
  「あ、あの、HR始めてもいいかな?」
  背後から声が聞こえた。振り向くと教壇の上に先生が立っていた。
  僕は素早く席に座り、HRが始まる。
  恥ずかしかったし、帰りたかったし、死にたかった。
  僕の学校生活は今日もまたいつもと同じように始まった。
  きてしまった昼休み。楽しみにしていた昼休み。
  僕の机は移動してヨウと向かい合ってくっついていた。
  ヨウは昨日までと同じくバッグの中から弁当を取り出した。今日は重箱ではなく普通の一般的な弁当箱だった。
  「はいテル」
  「あ、ありがとう」
  もうヨウはたじろいでいなかった。僕目をじっとりと見つめながら差し出された弁当箱を受け取る。
  弁当箱を開くとそこは真っ赤に染まっていた。染められた赤の膜の下に微かに黄色いものが見える。
  「ヨウ、これは?」
  「オムライス」  
  そう聞き、蓋に圧迫されてケチャップが潰れたのかと思ったが蓋は一切汚れていなかった。
  ケチャップを全面に塗りたくるタイプの家系なのだろうか。
  少し疑問を感じたがそういう家もあるかと思いスプーンを突き刺す。
  ふとヨウの弁当をみるとそこには僕と同じオムライスがあった。しかし、それはまだ黄色を多く保った一般的なものだった。
  「ヨウこのオ」「あーん」
  ケチャップの謎について聞こうと思い話しかけたが、続きを言う前に僕の言葉は打ち切られた。
  ヨウの目は少し影を持ち始めていた。
  僕の前に突き出されたスプーンにはオムライスが乗っている。これを否定することは僕にはできなかった。
  口を開く。優しく僕の口の中に入ってくるオムライス。チキンライスの酸味と玉子のまろやかさが合わさり極上の美味しさに包まれる。
  「美味しい」
  言葉が自然に流れ出た。それ以外のことを暫く考える事ができなかった。
  少しの間幸せに包まれた僕は口の中にものが無くなると再び先ほどの疑問を問おうとする。
  「ところで僕のオム」「あーん」
   再びスプーンが差し出された。この料理の魔力には勝てず口を開く。
  先程よりも強い酸味を感じる、それは上に乗ったケチャップだった。それはチキンライスと玉子を邪魔するどころかさらなる旨みの階級へと持ち上げる。
  「美味しい」
  言葉が自然に流れ出た。それ以外のことを暫く考える事ができなかった。
  正気に戻った僕はヨウに話しかける。
  「僕のオムラ」「あーん」
  再び差し出されるスプーン。
  迷う事なく口を開く僕。
  最高のハーモニーを奏でるオムライス。
  「美味しい」
  それ以外のことを考えられない。
  ……。
  何度繰り返しただろうか。気がついた時にはヨウの弁当箱は空になり、僕の弁当はスプーンが刺さっただけで一口も食べられていなかった。
  ヨウにもう逃げ場はない。僕は妨害され続けた疑問を投げかける。
  「僕のオムライス、ケチャップ多くない?」
  繰り返した『あーん』で幸せに満ちたヨウの暗い瞳がピクリと揺れた。即座に視線をそらされる。
  「どうしたの?ケチャップの蓋が壊れたとか?」
  「…………ました」
  「なんて」
  「ケチャップで、字を、書いてて……恥ずかしくなって、潰しました」
  ヨウの目はもう暗くなかった。
  ヨウが何を書いていたのかは気になったがそこにつっこむと拳が飛んでくるかもしれないと思い聞かなかった。
  それにこれまでみたいな限界まで濃度を上げてダイヤすら溶かしそうな愛ではなく、普通の女の子のような可愛いらしい愛で恥ずかしがるヨウをとても愛おしく思える。
  「はいヨウ、あーん」
  弁当を全て僕に食べさせてくれたお礼にとヨウにスプーンを差し出す。
  明るい笑顔で口を開けるヨウを見て僕は病気が治ったのかと思い、ホッとする一方その後に僕がすると決めていたことを思い返すと胸が張り裂けそうだった。
  っ⁉︎オムライスを頬張るヨウと目が合った瞬間、悪寒が体を走りぬけた。
  しかしただの気のせいだろうと割り切り、明るいヨウといられるこの時間を心の底から喜んだ。
  歪んだ幼馴染の昼休みは闇を内包して過ぎていく。
  少し離れた場所で二人を眺めるケンタ。
  彼は見逃していなかった。
  嬉しそうにテルにあーんをしてもらっているヨウが膝下で真空パックに先程まで使っていたスプーンを詰めるところを。
  そういえば昨日までテルは念のため買っていたコンビニ弁当の割り箸で食べてたなと思い返し一人ケンタは微笑む。
  「ケンタ?にやけてどうしたの」
  「いや、テルたちラブラブだなぁって。僕もしてあげようか」
  「っ⁉︎いやっ、いいわよ、そんなぁ」
  「照れるところも可愛いね、オーガ」
  「オーガ言うなぁ」
  純情なカップルの昼休みは優雅に過ぎていく。
  その後あのスプーンはヨウにたっぷりと堪能(意味深)されたという。
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