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ヤンデレ化した幼馴染を救う108の方法

井口 創丁

7話 「交錯する想い」

  今日も一日が始まる。教室のドアの前で昨日の夜考えた謝罪を頭の中で整理し直す。
  「よし、行こう」
  小さくつぶやき扉を横にスライドさせる。
  入り口からすぐ目の前にある僕の机の上には何かがビニール袋に入って置かれていた。
  視線をずらしヨウの方を見る。ヨウはいつもとは違って僕から視線を逸らし窓の外を眺めているようだった。
  席に着き袋の中を確かめる。中には愛川と書かれた体操服のシャツが入っていた。
  後ろを振り向く。ヨウはこちらを見ないまま呟いた。
  「テルの匂いがしなくなったから返す」
  「あ、ありがとう」
  お礼を言ってもヨウは何も言わず動かなかった。
  返却されたシャツからはほんのりと甘い香りがしたので洗濯はしてくれているのだろう。
  僕はシャツをリュックに入れ、再びヨウの方を向く。
  「ヨウ、昨日はゴメン」
  「別に、特に何とも思ってないし」
  そう言うヨウは相変わらず外を眺めたままツーンとした顔をしている。
  絶対に何とも思ってない訳がない。しかし、ここで踏み込むとさらなる怒りが襲ってくるのは明白だった。
  よってここで取るべき最善の行動はヨウの機嫌が良くなるまで過剰に干渉しないことだ。
  僕は前を向きヨウと同じく空を眺める。
  数分後先生が教室に到着し、HRが始まった。
  

  授業中プリントを後ろに回す時もヨウはこちらを見ようとしなかった。
  昨日までならプリントを渡す僕の顔を見つめ受け取った後も振り返るまでずっと笑顔で見ていたが今日はただただ黒板に書かれた字に注目し視線は1ミリも合うことがない。
  僕は昔と同じになったとはいえ何処か寂しさを感じる。
  僕の望んだ普通のヨウとの生活はこんなにも虚しいものなのだろうか。


  昼休み僕は迷っていた。
  不機嫌なヨウの隣で昼食をとるかケンタの元へと逃げるか。どちらを選んでもヨウの機嫌が悪くなる未来が思い描かれ動くことができなかった。
  不意に僕の前に重箱が置かれた。昨日とは違い一段だけの薄いものだ。差出人はもう言うまでもなかった。
  「ヨウ」
  そう言い横を見るがそこには誰もいない。それと同時に背後からイスに座る音と何かを机に置く音が聞こえた。
  僕は机ごと後ろに振り向きヨウと向かい合わせになる。
  しかしヨウはこちらのことなど意に関せずと言った感じで黙々と弁当箱を開き昼食を取り始めた。
  「弁当、ありがとう」
  僕はそう言うと弁当箱を開いた。そこにあった料理には見覚えがあった。
  「昨日の残り物だけどね」
  そう、この料理は昨日残り四等分して各自持ち帰った昼食の残り物だった。
  見た目では腐っているようには思えないが少し危険を感じる。ムスッとしたままのヨウがその危険を増加させていた。
  それでもお腹は空いていたし傷んでいそうに見えなかったため恐る恐るエビフライを掴み口へと運ぶ。
  衛生的な問題はなかった。ただきっと冷蔵庫で保管していたのだろう、エビフライの衣がふやけ何とも言えない感触を生み出し海老は芯まで冷え切っていた。それでも美味しくないわけではなかった。
  「お、美味しいよ、ありがとう」
  「へーそう」
  ヨウは僕と視線を一切合わすことはなく、弁当を食べる。ヨウの弁当には今日作ったであろう卵焼きが詰まっていた。
  その後、ヨウは一言も話し出すことはなく、僕が話しかけても素っ気ない返事かスルーされるかのどちらかだった。
  ケンタは僕たちの間に生まれた亀裂に気がついたのか遠くでオーガさんと楽しそうに弁当を食べていた。
  

  放課後になった。結局ヨウは話しかけてくることも目を合わすこともなかった。僕の後ろで着々と帰る準備をしている。
  もう僕はヨウの機嫌が直るまで見守ることは出来そうにない。
  完全に無視されて拒絶されているならまだ諦めがつくがこの微妙に気を使われている様な扱いが悲しくて切なくて我慢できなかった。
  僕は立ち上がり振り向き、両手でヨウの机の角を持ち見下ろす様な角度で話しかける。
  「ヨウ。頼むよ、僕を微妙に無視しないでよ。どうせやるなら拒絶するくらいやってよ。幼馴染だからこのくらいはしないといけないかなみたいな気を使わなくていいよ。頼むよヨウ……また僕に笑顔で話しかけてよ。昨日のことは本当に悪かったと思ってる。ゴメン。何でもするから許してよ」
  一度思いを伝え始めると芋づる式に溜まっていた気持ちが流れ出てしまい、すがるようなことを言ってしまった。
  でも後悔はない。僕ができることはこれしかなかった。
  ヨウと目が合った。今日初めてだ。ヨウは口を開く。
  「別に、怒ってなんかない。ただ……」
  ヨウはそこから先を言いにくそうに、口をもごもごさせて恥ずかしがっていた。
  僕は黙ってその様子を見守る。ヨウは僕の目を見ている。僕もヨウの目を見ている。
  数秒かそれとも数分かの沈黙の後ヨウは重たい口を開いた。
  「ただ、昨日の夜テル成分を取りすぎて、いつもみたいな関わり方したら絶対我慢出来なくなると思っただけ」
  「へ?」
  困惑が止まらない。ヨウは本当に怒っていなかったのか。戸惑う僕にヨウはまた話しかける。
  「だから、昨日の夜、体操服をその……色々と堪能したの。恥ずかしい」
  つまりヨウは僕の体操服を堪能(意味深)して暴発してしまいそうだったから今日はあんなに素っ気なかったということだった。
  甘い匂いのする体操服に一体どんなことが起こったのかとても気になったがそこに踏み込んでしまうと、昨日みたいに生命の危機を感じる気がしたのでしないでおこう。
  ヨウは頬をピンクに染めてもじもじしながらこちらを見ている。
  今日の行動が全て照れているのを隠すためだったと分かった今、振り返るとヨウが可愛らしくて仕方ない。
  僕は笑顔でヨウに両手を広げて話し出す。
  「もう放課後だし我慢しなくてもいいよ」
  その速さは迅雷が如くであった。
  ヨウの姿がイスの上から消えたかと思った時、もうすでに僕の広げた腕の中に入り僕の胸元に頭をうずめて深呼吸をしているヨウの姿があった。
  また遅れるようにして僕の腕の内側から濁った桃色のオーラが湧き出る。
  こちらを見上げたヨウの目は昨日までと同じく半月状で黒い陰を持っていた。
  「はぁはぁ、落ち着くぅ。すぅーはぁ、すぅーはぁ」
  ヨウはその場から動く気配は無い。それに僕もこの状況を悪いものだとは思わない。
  僕もヨウに毒されてきているのかもしれない。
  それは本当ならばいけない事だとは思うが今日の僕に降り積もった疎外感、ヨウみたいに言うならば『ヨウ成分の不足』と言うやつだった為、今こうしている瞬間が嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
  僕はヨウの腰に手を回し触れるか触れないかの位置でキープする。
  ヨウが満足するまでは僕はこの状態から動く気は無かった。
  しかしその時はすぐに訪れた。
  「そう言えばテルさっき何でもするって言ってたよね」
  胸元から声が聞こえる。確かに言ったため否定のしようがない。
  「うん」
  「じゃあテル、一緒に帰ろう」
  「う、うん」
  大変だ。ヨウの邪気にあてられて僕の気持ちはすごく不安定な状況にあった。
  こんな気持ちの時にヨウと一緒に帰ったりなんかしてしまったら、その場の空気に飲まれて思いを伝えてしまうかもしれない。
  それはマズイ。今でさえ大変なヨウに歯止めが効かなくなってしまう。
  「じゃあ帰ろうか」
  僕の心を煽るようにヨウの笑顔は夕日に照らされて美しい。
  自分の信念の強さを信じつつ僕はリュックを背負いヨウと一緒に教室出る。
  一緒に帰ろうと話を振られた時から僕の口角は下がることを知らず、本能の赴くままににやけていた。

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