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ヤンデレ化した幼馴染を救う108の方法

井口 創丁

5話 「胃袋を制すモノ」

  あたりは会話が重なり合い騒々しくなっていた。
  時間はぴったり十二時。お昼休み中であった。
  午前の授業は全て自己紹介と簡単な説明のみだったため、みんな疲れることもなく新しい友人を求めて交流の輪を広げていた。
  会話に耳を傾けてみる。
  「愛川くんって意外と大胆なのね」「花束貰うレベルのことって何したんだろう」「リア充かよー」「あははははは」
  もう死んでしまいたかった。
  朝の出来事はもう当然のようにクラスの話題の中心となっており親睦を深めるきっかけに使われるいいアイテムとして使われれていた。
  「テルも有名人だね。キャーカッコイー」
  目の前ではケンタがニヤニヤとしながらイジってくる。しかし僕はそれに対して一切否定ができない状況にあった。
  「でも何であんなに話題になってるんだろうね」
  「そ、そうだね」
  僕の真横では机をひっつけて笑いながら弁当を探しているヨウがいたからだ。
  しかも本人は一切の悪意も持っておらず、いやー恥ずかしいなーみたいな浮いた気持ちでいるようだった。
  中学までは給食制だったため必然的に隣か向かい合わせで食事をしていたので懐かしいといえば懐かしかったが、ヨウの目は少し陰りを見せ始めていた。
  それに朝の一件により、僕とヨウが隣にいるのを遠巻きに見て話題になっているのがひしひしと伝わってくる。
  もう起こってしまった事は変えられない。そういうものとして受け止めよう。
  そう思いつつリュックから昼ごはんとして朝コンビニで買ってきたパンを探す。大きな花束が邪魔で邪魔で仕方なかった。
  「お弁当テルのも作ってきたんだけど食べる?」
  花を折らないように慎重に手を運んでいると隣から声が聞こえる。
  実際コンビニ弁当とパンには飽きてきていたので嬉しかったし、ヨウの作った弁当を食べたいという本能が強く精神に訴えかけてきていた。しかし、ヨウの特性上何が入っているかは分からない。
  それ以上に僕の本能は『ヨウの作った弁当』という言葉を絶えず脳内を巡らせていた。
  「ありがとう、ヨウ。貰う、よ……うん」
  ヨウはバッグから5段の重箱を取り出していた。今日は運動会だっただろうか。
  テキパキと重箱の蓋を開けていくヨウ。中に見える料理はどれも僕の好きなものばかりだった。
  「はい、好きなの食べてね。テルの好物全部作ってみたんだ」
  「すごく美味しそう、いただきます」
  確かに美味しそうではある。いちばん手前にあった唐揚げに箸を伸ばす。
  生姜と醤油の風味が鶏肉に絡みつき最高のハーモニーを繰り広げた。
  もし毎日この料理が食べれるなら僕は皆勤賞だって可能だろう。そのレベルでこの料理には胃袋を掴む魔力みたいなものが含まれている感じがした。
  しかし心の底から喜ぶ事はできなかった。それは量に問題があった。
  五個の重箱いっぱいの料理を今この場で無理に詰め込もうものなら午後の講義で吐くのは確実。
  直接伝えてしまっては朝のように不機嫌になってしまう危険性があるため何とも聞きづらかった。
  「あーヨウちゃん美味しそうな弁当たべてるっ一個もーらい」
  視界の外から小さな女の子が現れそういうのと同時にポークピッツとうずらの卵を串で一緒に刺したものを奪っていった。
  「んーおいし〜。この料理が食べられるなら皆勤賞も間違いなしだよ〜」
  僕と同じ感想をもったこの人には見覚えがあった。確か……。
  「オーガさん?」
  「間違ってはないけどイントネーションがおかしいわよっ!」
  「まあまあ落ち着いてオーガ」
  「元凶のアンタがオーガ言うな!」
  昨日気を失っていたのを助けてもらった時に聞いたがオーガさんとヨウは去年同じクラスで仲がいいらしい。
  でも病みモードのヨウは見たことがないらしく結構驚いたらしい。
  それでもこの場に元気に現れるあたり、彼女は僕のことを助けているのかそれとも単純にアホなのかどちらかだと思われる。
  ヨウの方を見ると案の定、闇が生まれ始めていた。少し濁った目をしたヨウは口を開く。
  「ねぇみさきちゃん、美味しいっていってくれるのは嬉しいんだけどぉこれテルに作ったものなんだぁ」
  「え?」
  オーガさんは驚きの声を漏らしていた。どうやら僕の考察は後者が正解だったようだ。
  「だからぁ私的にはぁテルに全部食べてもらいたいって思ってるんだぁ」
  「で、でもこの量一人で食べるってわけにもいかないんじゃ」
  「テルは私のこと思ってくれてるんだよ、だからテルが私の思いのこもった料理が食べきれないはずがないよぉ、ね、テル」
  オーガさんは僕の思いをストレートに伝え、それを受けたヨウの回答は概ね予想どうりであったが最後の一言で一気に僕へと重圧が降りかかる。
  オーガさんは怯え、ケンタは薄笑いを浮かべ、ヨウは黒いオーラを纏っていた。そして彼らの視線は違うことなく僕の元へ突き立てられる。
  「ああ、もちろん食べられるよ……でも」
  「でも?」
  ヨウを包む黒いオーラが渦を巻く。
  「でも、僕はヨウがこんなに料理が上手なんだってもっといっぱいの人に知ってほしいと思うんだ……その、ヨウは」
  「私は?」
  「ヨウは僕にとって最高の」
  「わかったよテル、最後まで言わなくても大丈夫。わかった」
  気がつくとそこに広がっていた重たい空気はなくなり、笑顔のヨウがいた。
  「みさきちゃん、ケンタくん一緒に食べよう」
  ヨウはそう言うと重箱を二個ケンタ達の方へとスライドさせた。
  「ワーイ」「ありがとう相沢さん」
  オーガさんは放心的な感じで、ケンタは至って普通な感じでヨウの弁当を受け入れた。
  一件落着で僕はホッとした一方でヨウがあのまま止めなかったら何と続けていたのだろう。
  幼馴染かもしくは……少し恥ずかしくなってきた。
  「ほらテルも食べよ」
  ヨウに促され僕は再び重箱をつつき始める。
  純粋な美味しさに僕の中に芽生えた恥ずかしさが加わりさらに美味しく感じた。
  いつかは毎日……いやまた恥ずかしくなりそうだからこれ以上考えるのはやめよう。
  教室は差し込む太陽の光とゴシップにまみれ、僕たちを包み込んでいた。
  

  四人がかりで挑んでも五個の重箱は多く結局四人で山分けして家に持ち帰るようになるのだが、この時僕たちはそんなことを知る由もなく必死に胃袋に料理を詰め込み次の時間の体育は地獄と化した。

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