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ヤンデレ化した幼馴染を救う108の方法

井口 創丁

序章 「幼馴染は人知れず病に蝕まれた」

  「テル、今着てる服ちょうだい」
  ほぼ一年ぶりに会う幼馴染はそう言いこちらに手を差し出す。
  「な、なんで」
  突然のことに困惑してたじろぐ僕を無視して彼女は当たり前のように返答する。
  「私の中のテル成分が足りてないから、早く」
  春の日差しが心地よい新学期の始め、騒々しく話し声が飛び交う休み時間。
  僕は幼馴染に詰め寄られる。
  彼女は上半分を切り取られた半月のような薄暗い目をして笑っていた。
  少なくとも僕の知っている彼女はこんな事をいうようなやつではなかった。
  それに目も光に溢れ満月のように丸々としていたはずだ。
  一体どうしてこうなった。
  戸惑いと困惑に揺れながら僕の意識は原因を探るべく過去の記憶へと移行した。






  

  腐れ縁というやつだろうか。
  僕と彼女は常に近くにいた。理由は考えるまでもない。
  僕の名前は愛川あいかわ てる、そして彼女の名前は相沢あいざわ よう
  学校で出席番号を振り分けられ、席に座ると決まって僕らは前後になった。
  不動の一番の僕と不動の二番の彼女。
  それでも小中とずっと同じクラスになり、どのクラスでも先生がめんどくさがり席替えをしなかったのはよほど運が良かったからだろう。
  小五あたりから同じクラスになった人には僕らが先生に席替えをさせない大きな秘密を握っているなどど噂されたがそんなことは一切なく純粋な偶然であった。
  小中合わせて九年間学校に行くたびに顔を見合わせていて仲良くならないはずもなかった。
  前の日の出来事、授業の愚痴、最近気に入っていること、ありとあらゆる話題を語り尽くし秘密などはもう残っていないのではないかと思われるほどに話尽くした。
  彼女は僕にとって最高の友達であり、理解者であった。
  いくら学校で楽しく心を通わせても男女の壁は高く、休日に遊びに誘ったりしてしまうと今の仲が壊れるのではないかと怖かった。
  それに加えて彼女は学校が終わると習い事や部活などの理由でそそくさと去って行くため一緒に帰ったことすらなかった。
  それでも僕はこの関係が気に入っていた。
  お互いの仲を壊すことなくちょうどいい距離感で寄り添い会うヤマアラシのジレンマを超えた先の関係。
  そういうことも含めて彼女は最高の友達だと思っていた。
  僕は心の中でこれから先も神様のイタズラでずっと前後でいられるのだろうと思っていた。
  しかし高校はそうではなかった。
  同じ高校に行くとなった時ほぼ確信していた出来事は起こらなかった。
  僕は5組、彼女は1組だった。
  一年生棟は四階まであり、5組は3階で1組は1階だった。
  学校で話し合うだけだった僕らお互いの連絡先さえ知らず、入学式に教室に入って初めてこの事実を知った。
  もっとも彼女は出席番号がきっと一番になっていただろうから少し前からわかっていたかもしれないが。
  正直言って不安で不安で仕方なかった。
  今までずっと一緒にいた半身といっても過言ではないような存在が途端に消えたのだ。
  もう泣き出して帰りたいとすら思った。
  それでも僕を支えてくれたのはやはり彼女しかいなかった。
  数日後、一階の教室の前を通りかかった時笑う彼女を見かけ共にこれからは一人で頑張っていこうと心に誓った。
  その後も運動会や文化祭などで見かけることはあったが、それ以上の行動は起こせなかった。


  なんやかんやで一年が過ぎた。
  意外とあっさりと過ぎ去った。
  高校二年生となりクラスが組み変わる。
  僕の出席番号は変わらず一番。
  新学期、今回は自己紹介なんて言おうかと早朝から悩んでいると僕の横を見知った顔が通り抜けた。
  忘れるはずもない。
  僕は彼女の名前を呼ぶ。
  「ヨウ!」
  彼女はまだこちらに気付いていなかったのだろうか目を丸くして僕の名前を呟く。
  「……テル」
  途端に僕らは笑った。
  一年間会えなかった切なさと会いたかった願望をぶちまけるように。
  久々のことでお互いが一年間溜まったネタからどれを最初に話そうかと迷っていると先生が教室に入ってきた。
  僕らは一度も会話することなくホームルームが始まった。
  去年感じていた不安はもうなかった。








  過去の記憶を探り終え意識が今に戻る。
  やっぱりわからない。僕と会っていない一年に何があったのだろう。
  友達がいないわけではなさそうだったし、イジメられている様子なんて想像もできない。
  それでも彼女は僕に手を差し伸べ、陰った瞳を爛々と輝かせている。
  「ちょ、ちょっと待ってもらっていいか?」
  「わかった、その分テル成分が蓄積されるもんね」
  「お、おう」
  果たして彼女は何がわかったのだろうか。
  そもそもテル成分ってなに?蓄積されるの?僕の服に?
  もうこうなったら直接聞いた方が良さそうだ。
  「なあ、ヨウいったい」
  どうしたんだ、と続けようとしたところでチャイムがなり響いた。
  僕は言葉を飲み込み前を向き座る。
  振り返る寸前までヨウは僕の目から視線を外すことなく妖艶に微笑んでいた。
  第二次ホームルームが始まった。
  明日からの予定などの説明を聞き流しながら僕はヨウの事を考え続けていた。
  テル成分。蓄積。服。テル成分。ちょうだい。半月状の目。テル成分。妖艶な笑み。テル成分。陰った瞳。テル成分。
  思考がヨウを中心に頭の中を駆け巡る。
  半分はテル成分とかいう意味不明なパワーワードで埋め尽くされいるがそれでも僕は考える。
  先生は健康管理についての話をしていた。
  「病気などには十分注意してね」
  僕の考えが一つの答えを導いたのは先生の一言がきっかけだった。
  病気。病。
  体調が悪いのでは、いや違う。あいつはただの病気であそこまで精神に異常をきたしたりしない。
  そうか、そういうことか。
  あの症状を僕は知っていた。
  あいつが発症するとは到底思えなかった為、思考の外に置いていた病だ。
  九年間の日々がこの思考に間違いはないと告げている。
  あいつのあの振る舞い、光を失った半月状の目、テル成分、全てをつなぐ病気と呼ぶには大げさなものだった。
  僕は小さく呟く。
  「恋の病、レベル5……ヤンデレ化」
  静かに後ろを振り返るとヨウは手元のプリントには一切目もくれていない。
  ヨウは休み時間の終わりと同じく、僕の方を妖艶な笑みを浮かべてただただ見つめていた。
  彼女の目に光は失われかけていた。

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