コールドスリープ

堺94

旅立ち



「う…ん?あれ、ここはどこだろう?」

寝起きの頭を一所懸命働かせて思い出したのは、地球での記憶。

テッドはお父さんとお母さんと、三人で暮らしていた。
地球での生活に不自由はないが、同時に退屈でもあった。
ある日、テレビのCMで、政府が惑星αへの開拓民を募集していた。
テッドのお父さんは勢いよく言った。

「家族みんなで、宇宙へ移住しよう!」

お母さんは戸惑った。

「百年もかかる旅よ?行ってしまえば、地球のお友だちには二度と会えないわ。
慣れ親しんだ生活を捨てなくてはならないし…」

「お母さんは心配性だなあ。家族が一緒なら、どんなところでだって暮らしていけるさ」と、テッド。

お父さんは言った。

「惑星αは近年発見されたばかりの惑星で、太古の地球とそっくりらしい」
「うわぁ!じゃあ恐竜狩りして遊べるね」

「でも…でも…」と乗り気でないお母さん。
しかしお父さんは言った。

「確かに地球の生活は便利だよ。清潔で、安全で、保障されている。

だが文明が発達した結果、我々は生き物としての本分を見失ってしまったんじゃないだろうか?

自分の手で土を耕して食物を得、家を建て、動物と触れ合いながら生きる。
これは人間性を取り戻すチャンスだと思うんだ」

お母さんは言った。

「お世話をしてくれるロボットも、なんでも教えてくれる人工知能もない生活?
できるかしら、私たちに…」

お父さんは、妻と息子の肩を抱きながら言った。

「きっとできるさ」

しまいにはお母さんも説得され、一家は植民船の乗組員になったのだった。

植民船の船長を務めるのはロボットのエディ。
乗組員たちを集め、冷凍睡眠装置の説明をした。

「地球から惑星αまでは百年かかります。その間、乗組員は冷凍睡眠状態になります。
この装置の中では無活動になり、夢を見ることもありません。
老化もせず、起きた時には、眠る前と全く同じ状態です」

「ちゃんと安全なんだろうな?」と誰かが質問した。

「宇宙空間での安全テストで、厳しい審査をパスしています。
わたくしは船長を務める他、宇宙船のメンテナンスも受け持ちます。
皆様が眠っている間、装置に異常がないか常に管理します」

「疲れを知らないロボットが管理するなら安心だな」とお父さん。

そして旅立ちの時は到来し、一家はそれぞれ「おやすみなさい」と言いあった後、カプセルの中で百年の眠りについた…

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