小さき蒼雷の魔法使い

柊木凪

第三十七話「シエルside:計画実行」

「シエル。
今度はバルトの奴も一緒に来れるようになれば良いな。」

 国王であるドランがシエルに言った。
 国王も辺境の状況は聞き及んでいる...
 それでも、バルトとは旧知の仲であるがゆえにたまには会いたいと思っていた。

「そうね...ここ数年はお付きの方はいるけれど、パーティには1人で参加しているものね。」

「はい。
でも、落ち着く頃にはまた家族で来たいと思います。」

「シエル。またね!」

「ええ、また。」

 そして、シエルは馬車に乗り周りには安全のためにルーベンスへと向かう冒険者を集め
ルーベンスの街へと進み始めた。
 しかし、この時既にシエルに異変が起き始めていた...

 
 アルファス王都を出て数時間ほどたった頃
シエルの身に強烈な眠気が襲った。

「...あれ?どうしたの?」

 シエルは突然の眠気に困惑した。

「どうかしましたか?シエル様。」

 シエルの声を聞き御者をしている執事が声をかけてきた。

「いえ、少し眠くなってきただけよ。」

「そうでございましたか...では、こちらを。
毛布でございます。
次の街まで大分時間がありますので少しおやすみになってください。」

「ありがとう。
そうさせてもらうわ。」

 そして、シエルは少しの休息を取ることにした...。


 シエルが眠ってから数時間が経過した頃、馬車に左右から近づいてくるものたちが居た。

「おい。左右から近づいて来ているな。
一応戦闘準備をしておくぞ!」

 今回の護衛依頼においてまとめ役を担っている男が叫びました。
 続けて他の冒険者たちも警戒を始めた。


 そして、馬に乗ったものたちが中距離と言える距離にまで近づくと何かを馬車の進行方向に投げた。

「っ!?」

 御者をしていた執事はビックリはしたものの取り乱すことはせず冷静に操縦を行った。
 

 しかし、投げられた物は進行方向で破裂し一瞬で辺りが黒煙に包まれた。

「くそっ!?やられた!」

「おい!聞こえるか?」

「聞こえます!」

「馬車の周りを囲め馬車が狙われている可能性があるぞ!」

「分かりました。」

 冒険者たちは声で連絡を取り合い動こうとするが黒煙が視界を遮っているためうまく動くことが出来ない。

 そんななか敵は遠距離から確実に攻撃を仕掛けてきた。

「テメーら!もう一個煙幕(睡眠薬)だ!」

「了解!」

 そして、先程の物と同じような玉を投げつけた。
 玉は破裂音を辺りに響かせ煙を撒き散らした。

 御者は既に動くことが出来なくなっている上、馬も地に足をつけていた。

 因みにシエルは爆睡中だ...。

 冒険者たちは眠らされシエルを自分達の馬に乗せて走り去って行った。

 冒険者たちが気がついた頃には太陽も天辺を過ぎていた。

「くそ...次の街で救援要請を入れよう。」

「でも!」

「シエル様を追えるのか?
今の俺たちにその手段がない。」

 冒険者ギルドにおいて依頼の最中に緊急の依頼をすることはまれにだが存在する。
 だが、程度によるが自分達の評価を下げることにもなるのだ。
 今回の件だと間違いなく下げられるだろう。
 盗賊紛いの奴等に貴族のご令嬢1人も守れなかったのだから。

「執事さん...あなたは領主への連絡を」今飛ばしましたので数時間で連絡は行きますよ。」

 執事が飛ばしたのは白くて小さい...
そして、恐ろしく速い鳥だった。

「あの鳥は?」

「はい。
あれは、私の使い魔みたいな召喚獣です。」

 ルーベンスに使えるこの執事だが、名は名乗らないが、特殊なスキルをいろいろ持っている。
 その1つが召喚獣に伝書を頼んで普通よりも速く連絡が取れるのだ。

「よし、なら俺たちは次の街に急ごう。」

 そして、次の街に急ぐ頃...




「んっ?ん~!?」

 シエルは困惑した...
 目を開くと、真っ暗だったのだ。
 恐らく布の用な物に入れられているのだとおもう。
 何処かに寝転がっているのだろう、下の方から振動も伝わってきている。

「おっ?起きたみたいですよ?」

「そのままほっとけ、もうすぐアジトだ。」

 聞こえてきたのはそんな男の声。

 
 もしかして...誘拐されたの!?
 幸い魔力もまだ...

「...っ!?」

 ......魔力がうまく使えない!?
 どうして...。
 何かをされたのかも知れないわね。
 召喚魔法でならこいつらくらい倒せるのに...

 ...目的は何なのかしら。



 耳を澄ませば、馬車の移動の音や馬の足音そして、先程の2人と他に複数人の声がした。

 



 そして、何日か経った日の夜。

 
 夜には毎日休憩することが分かった。
 勿論、日中にも休憩はあるのだが...見張りもしっかりしているので私に何かをさせたりはしない。
 だが、私自身も食事を夜にはとらせてもらえる...そのタイミングで召喚しようと試みた。

「何でうまくいかないの!?」

 シエルは何度やっても召喚がうまくいかなかった。
 
 それも当然だろう...。
 
 召喚するためには心を落ち着かせる必要があるのだ。
 強い魔物や幻獣になれば尚更のこと、心を落ち着かせ、自分の魔力を安定させる必要がある。

 しかし、シエルは焦っていた。
 更に、魔力もまだ十分に安定はしていなかったのだ...。

「...そうだ!」

 だが、1つの方法をシエルは思い付いた。
 それは、魔方陣を描いて呼ぶ方法だ。

 地面や壁等に召喚するための魔方陣を描くことによって呼び出すため心は落ち着かせる必要があるが、魔力はあまり要らない。

「でも、やるのは安定した場所に行かないとだめね...。

時期を見る必要があるわ。」

 そして、それから更に、数日が経った。

 シエルは何処かの牢に入れられて閉まった。
 そして、男がシエルに何かしらの魔法を使い首に魔法の刻印が現れた。

「魔法を使えないようさせてもらった。

しばらく大人しくしていろ。
用件が終わったら出してやるよ。
(奴隷商に売るらしいがな...)」

 男はそれだけを言い残し去っていった。

 牢には入り口が鉄格子になっている。
 他には外が見える小さめの窓みたいなのがあった。

「やっとね!仕込みは十分に出来た!」

 そう、シエルは魔法力が人知を越えているのに加えて霊力が使用出来るのだ。
 その為、普通の召喚しには出来ないと言うか普通の人には出来ない幻獣召喚が可能なのだ。
 ※ただし、魔方陣を描かなければいけないのが難点だ。

「今は周りには誰も居ない...そして、やるならば速いはうがいい!」

 そして、部屋一杯に成る程巨大な魔方陣を描き始めた。
 間違えないように1つ1つ丁寧に確認しながら描き上げていった。

「よし、出来た!
心を落ち着かせて。

いざ!参ります!」

 そして、シエルは静かに詠唱を始めた。

「私の名において命ずる...

霊界と現世を繋ぎし門よ...

今開き、顕現せよ!

私の名はシエル、召喚するはフェンリル!」

 シエルは霊力を魔方陣で霊界と現世を繋ぐように魔力を流した。

 そして、魔方陣が少し輝きやがて消えた。

「魔方陣が消えてるわ!成功ね!」

 実はこの魔方陣は便利と言えば便利だが、1回きりの使い捨てなのだ。

 そして、白い毛並みを持つ狼が現れていたのだった。




 どうも、皆様、柊☆黐です。

 今回もお読みくださりありがとうございます。
 
 次回の冒頭でシエルsideは一段落です。
 
 さて、次回は第三十八話「ライガたちの情報収集」でお会いしましょう♪

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