ひととかぜと日常
Episode10 遠 Ⅱ
ー遠ー
2
バスから降りると、沢山の自然の香りに包まれた。
(迅の匂い)
一瞬微笑みを浮かべたものの、すぐにさっきのムカつきが戻ってきて眉をひそめた。
「れーちゃん、さっきから百面相してるネ~?どしたの?」
「えっ?いや、何もないですぜ?」
「そ?何か悩みあったら何でも言ってねん?」
私は頷き、礼を言った。
そして私達は一度クラスごとに並んで、最終目的地までぞろぞろ歩く。この山の草木はやけに青々しく、美しい。それがそよ風に揺れてカサカサと音を立てる。
「れーちゃん知ってる?この山曰くありらしいヨ」
不意に、隣を歩いていた舞がそんなことを言った。
「イワクアリ?」
「そ。この先に短いトンネルみたいな所があるんだけど、そこで声が聞こえたり後ろから沢山の足音が付いてきたりするんだって。あと…」
話によればこの山はいわゆる、心霊スポット。だがどれも気のせいとか、よく聞くような現象のようなのばかりで信憑性は低い。どうせ都市伝説とか七不思議的なものだろう。
………と、わかっていても怖いものは怖いのだが。
(迅と手繋いでたいなー。やだなー、怖いなー…何でそんな山で飯盒炊爨とかしようと思ったワケ?)
彼の手は、誰よりも、何よりも落ち着く。しかし彼は皆に見えない。私を見た人は私の手と腕の位置に違和感を抱くだろうし、まず彼がやんわりと断るか、避けるだろう。
しばらく歩いていると、今にも崩れそうなトンネルが見えてきた。
(…えー、やだやだ、無理、絶対なんかいる)
残念ながら迅や花姫などの害のないアヤカシだけでなく、おどろおどろしいモノも視えてしまう。そういったアヤカシには滅多に遭遇しないのだが、それは今の時代それらが好む“闇”が減ったのが原因であり、昔はわんさかいたという。
しかしながら今の時代にも、やはり“闇”は存在するもので、勿論そのような所には、いたりするのだ。
例えば人の減った昔ながらの村とか、山、森や寂れた神社、トンネル、海、洞窟等々…。
考えるだけで寒気がする。
おどろおどろしいモノは、全てが気味の悪い姿をしているものとは限られない。存在が闇であるから、それらはおどろおどろしいのだ。
いよいよトンネルだ。短いがボロボロで、何故か暗い。
彼は少し周りを警戒しているのか、ピリピリとした空気をまとわせつつ私の横を飛んでいる。
トンネルに入ると、私はつい彼の服を掴んでしまった。
我ながら行動を間違えたと思って顔色をうかがったが、彼は一瞬驚いた様に小さく体を跳ねさせ、困ったように微笑いかけてきただけだった。
困った顔をしたいのは、私の方だというのに。
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バスから降りると、沢山の自然の香りに包まれた。
(迅の匂い)
一瞬微笑みを浮かべたものの、すぐにさっきのムカつきが戻ってきて眉をひそめた。
「れーちゃん、さっきから百面相してるネ~?どしたの?」
「えっ?いや、何もないですぜ?」
「そ?何か悩みあったら何でも言ってねん?」
私は頷き、礼を言った。
そして私達は一度クラスごとに並んで、最終目的地までぞろぞろ歩く。この山の草木はやけに青々しく、美しい。それがそよ風に揺れてカサカサと音を立てる。
「れーちゃん知ってる?この山曰くありらしいヨ」
不意に、隣を歩いていた舞がそんなことを言った。
「イワクアリ?」
「そ。この先に短いトンネルみたいな所があるんだけど、そこで声が聞こえたり後ろから沢山の足音が付いてきたりするんだって。あと…」
話によればこの山はいわゆる、心霊スポット。だがどれも気のせいとか、よく聞くような現象のようなのばかりで信憑性は低い。どうせ都市伝説とか七不思議的なものだろう。
………と、わかっていても怖いものは怖いのだが。
(迅と手繋いでたいなー。やだなー、怖いなー…何でそんな山で飯盒炊爨とかしようと思ったワケ?)
彼の手は、誰よりも、何よりも落ち着く。しかし彼は皆に見えない。私を見た人は私の手と腕の位置に違和感を抱くだろうし、まず彼がやんわりと断るか、避けるだろう。
しばらく歩いていると、今にも崩れそうなトンネルが見えてきた。
(…えー、やだやだ、無理、絶対なんかいる)
残念ながら迅や花姫などの害のないアヤカシだけでなく、おどろおどろしいモノも視えてしまう。そういったアヤカシには滅多に遭遇しないのだが、それは今の時代それらが好む“闇”が減ったのが原因であり、昔はわんさかいたという。
しかしながら今の時代にも、やはり“闇”は存在するもので、勿論そのような所には、いたりするのだ。
例えば人の減った昔ながらの村とか、山、森や寂れた神社、トンネル、海、洞窟等々…。
考えるだけで寒気がする。
おどろおどろしいモノは、全てが気味の悪い姿をしているものとは限られない。存在が闇であるから、それらはおどろおどろしいのだ。
いよいよトンネルだ。短いがボロボロで、何故か暗い。
彼は少し周りを警戒しているのか、ピリピリとした空気をまとわせつつ私の横を飛んでいる。
トンネルに入ると、私はつい彼の服を掴んでしまった。
我ながら行動を間違えたと思って顔色をうかがったが、彼は一瞬驚いた様に小さく体を跳ねさせ、困ったように微笑いかけてきただけだった。
困った顔をしたいのは、私の方だというのに。
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