ひととかぜと日常

香月 玄_コウヅキ ハル

Episode9 遠 Ⅰ

エン

1

『さぁ、子供達、今日も頼むぜ?』

 広く、暗い洞窟の中で若い男の声が静かに響いた。

 全ての“子供達”の気配が洞窟から去ったのを確認すると笑みを消す。


 闇の中で、美しく黄金の目が輝いた。

 □□□

「来週は遠足だから週末課題はナシだぞー」
 金曜、帰りのホームルームで担任のその言葉に私はヨッシャと言わんばかりに拳を握った。他の生徒も同じ気持ちだろう。
「遠足の作文はあるけどな」
そして先生のその余計な一言で、週末課題を配られたとき以上に気持ちが沈む我々はまだ子供だ。

 遠足はバスで行くらしい。場所は隣の隣の県のナントカっていう山で簡単に飯盒炊爨はんごうすいさんてのをするらしい。私的には隣町の山でいいんじゃね?と思うのだが、まぁ先生達なりに考えがあるのだろうし仕方あるまい。
 高校生になって、少しずつ新しいメンバーに慣れてきたくらいのこの時期、さらに親睦を深めようというのを第一目的とした遠足である。

 ちなみに、迅は相変わらずだ。
相変わらず、私は寂しい。

 □□□

 バスの隣の席は中学時代からの友人で、名を舞という。男女関係なく、誰とでも仲良くなれるような明るい女子である。

「れーちゃんお菓子あげる~」
バスに乗るなり、彼女はお菓子をくれた。
 れーちゃん、というのは彼女が考えた私の渾名だ。この渾名は彼女以外、誰も口にしない。(そこまで仲がいい人間少ないしね)

 にしたって、何故バスとか車とか電車とかって、無性に眠くなるのだろう。ひょっとして私だけだろうか。
 窓の外で流れる景色は更に眠気を促進してくる。空のあおあおあお…草のみどりみどりみどり…。
そして海の、瞳みたいな深い黒はいつでも心の弱い私達を迎える準備を整えてさざめいている。“準備は万端だろう?さぁおいでなさいな。本当の幸福はここにあるのだから”と。

『零、もうすぐ着くよ』
いつの間にか寝ていたらしい。迅のフワリとしたその声で、フワリと目覚める。窓からの光が物凄く眩しい。
(……最近、ゆすり起こそうとしてこない)
 私は不満げに窓の外の流れてゆく景色を見た。
 迅は起こすときでさえ、さらには何か物の受け渡しの際ですら私に触れようとしない。
「ちっ」
何でだろう。なんか、ムカつく。
 舌打ちをした私を、斜め上から迅が困ったように見ていたことなど、知る由もない。

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