ひととかぜと日常

香月 玄_コウヅキ ハル

Episode7 紙 Ⅲ

カミ

3

 家の、玄関のドアを開けると、誰かいた。
「…………………………どちら様」
 我ながら冷静過ぎる問いだったか。
 にこにこ笑みを浮かべながら立っていた男は黒髪で、そして何故か和装。
 迅は男を見て盛大に溜息を付いた。
『いつまでたっても手紙の返事くれへんから、ボクから来てもたわぁ』
アッハハハ、と嫌な顔をしている迅の肩をバンバン叩きながら彼は笑った。
 第一印象はキャラ濃すぎねぇか、コイツ、だ。…他にも様々過ぎる疑問達の中で何よりも気になった疑問。
「手紙?あれ、あんたの仕業?」
『せやけど…何や、何も知らへんかったん?折角僕が毎日毎日しゅうねく送っとったのに』
犯人はこいつか…。
「迅~」
問い詰めるように迅を軽く睨むと、観念したように頭を掻いた。
『とりあえず、お茶でも』
『ホンマに?おおきに~』
………返答が早い。

 □□□

 やはり、キャラの濃い彼は人間ではなく、猫又というアヤカシだった。
 名を久遠クオンと名乗った。
 生前…普通の猫として生きていた間はどうやら関西の方の野良猫だったようで、濃い喋りはそのせいらしい。

 迅はポケットから今までの手紙全てを出し、私の前に置いた。読めないのはわかっていたが、1枚目から開く。困ったように迅を見ると、文字に触れるよう、迅に指示される。私は黙って頷く。
 触れるとすぐに文字がウネウネと形を変え始め、私のよく知る文字へと変わったのでつい、感嘆の声をもらす。
「…読めた」
『アヤカシ共通の文字は、視える人が触れればその者自身が読める文字に変化するんだ』
迅が解説してくれた。

 毎度1文のみの手紙内容はそれは至ってシンプルかつ直球だった。…ようするに、『結婚してく~ださいカッコは~と』みたいな。

『猫又になって初めてコッチに来て、まだ人になれんかったからめっちゃ鳴いたねん。で、鳴いても鳴いても気づく人がおらん中でちっさい君が気付いてくれたんよ。そら惚れるわ~。顔がまず好みやったし?君がもう少し大きくなったら全力アプローチしようかなって思っとった次第…て引かんとって?!不純に聞こえるかも知れんけど、純粋な気持ちやから!!』
内容に引いた、というより、息継ぎもせず一息で言ってみせた久遠に呆気にとられて思わず言葉も出なかっただけである。

 しかし、彼とは面識がない…というか覚えていないだかなのだが、そんなほぼ他人の様なやつにいきなり結婚してくれと言われても困る。…そういえば今日の帰りの、迅が結婚がどうのっていう質問はこういう事だったのか。

 それにしても…人間の姿になれるアヤカシは皆お綺麗な顔をしているのだろうか…。恨めしいな。
「答えだけど、私は人間と結婚したいから」
真顔で言って、顔の前でバツをつくってみせた。
 アヤカシと人は、生きる時間と世界が違う。迅に昔から教えられてきたことだ。

『と、いうことなので』
迅は言うなり笑顔で玄関を見、そしてまた久遠を見た。遠回し過ぎる帰れ、の意。
『ふぇぇ…けどこれで諦めるボクと思たらちゃいますよって!気ぃ変わったら言ってなぁ、また会いに行くわぁ』
おや、随分とポジティブ思考ですこと。
「しつこい奴は嫌いでーす。…見送りは?」
『そら気ぃ付けるわ…。嬉しいけど、見送りは風の彼で我慢しとく~ほんじゃね~お嬢さん』
久遠はヒラヒラと手を振り、迅と2人でリビングを出て行った。

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