異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

夢の中での出来事〜黒髪幼女メイドを添えて〜

「───スタ?───マスター?」
 誰かが俺を呼んでいる声がする。
 何時もなら、目を開けようとも動こうともしないが──俺はゆっくりと目を開けた。
「マスター!」
 真っ白い世界の中で、俺をマスターと呼ぶこの姿だけが見える。
 白と黒で構成されたフリフリのドレス──所謂メイド服をその子は着ていた。黒く短い髪に、白いカチューシャ。幼いような印象を受ける顔立ちと、白い肌。可愛いメイドさんだ。


 俺をマスターと呼ぶその子の声はどこかで聞いたことがあった。
 それは、ゴブリンとの戦闘中だ。あの時俺に魔弾を使え、と助言をしてくれた声と一致していた。
「君は…、あの時俺を助けてくれた子なのか…?」
「はいっ!覚えてて貰えたのですねっ!嬉しいですマスターっ!」
 そう言うと、メイド幼女は俺に抱き着いてくる。
「おおっと…。それで…君は誰なんだい?」
 俺が先程から気になっていたことを、メイド幼女に尋ねる。するとメイド幼女は、はっとした表情になり、俺からすぐに離れて真面目な雰囲気を出している。


「大変失礼致しましたマスター!私はマスターと出会い、はや4年!サバゲーのフィールドには毎回持っていって頂いてましたマテバです!」
 ビシッと敬礼をしたメイド幼女は───そんなことを言った。


 その後、メイド幼女ことマテバといくつか話をした。
 まぁ、いろいろ話しているうちに本当にこの子がマテバだと言うことはわかった。初めて買ったその日テンションが上がりすぎた俺は、半裸でマテバを抱きながら寝たことがあったんだが、その事を頬を赤らめながら話しをして来た。恥ずかしい話だ俺まで赤くなってしまう。


 そんなマテバから聞いた話だと、この世界に来てから意思を持つことができたらしい。最初の1回目以降何も喋らなかったのは、魔力を補充するためだそうだ。次、話をするために必要な魔力が溜まるのはもう少し先か…と思っていた時に、俺の魔力が増えた為一度に補給できる魔力が多くなり、二日だけでここまで話をすることができる様になった。とのこと。
 実体が出来たのはついさっきの事で、すぐにでも俺に会いたいと思ったマテバはこうして姿を現して来た。ファンタジーだ。


「あ…そうだ。マテバここって何処なのかな?」
「ここはマスターの夢の中ですよっ!今はまだ魔力が足りなくて夢の中にしか出てこれませんが…。もう少しマスターの魔力が増えていけばマスターと一緒にお散歩ができますっ!」
 お散歩て…。可愛いな。
 なんだか、マテバに犬耳と尻尾がついてそうだな。犬っぽい。可愛い。


 無性に頭を撫でたい衝動に駆られたので、俺はマテバの頭を撫でてやる。
 黒髪はサラサラとしており、とても触り心地がいい。そのまま頭を撫でてやっていると、ふわぁ…と顔を赤らめながら下を俯いてしまった。
 やばい。やりすぎた。
 俺は謝ろうと口を開こうとするが、マテバが小さくなにかを言っているのが聞こえてくる。


「どうしようどうしようどうしよう、マスターにナデナデしてもらっちゃった!マスターの手の感触はいつも楽しませてもらってるけど、こうして実体で触ってもらうとじゃ全然違うから…!ぎゅっとして下さいとかって言ったら怒られちゃうかな?呆れられちゃうかな?嫌われちゃうかなぁ…。今日だってナインさんもって来たし…やっぱり私みたいに連射出来ない銃じゃマスターは満足できないのかな…ああ…なんかすごーく嫌だなぁ…」
 10秒間の間にコロコロと表情を変えるマテバ。
 そういえば、今のマテバの話で思い出した。


「マテバ、お楽しみのところ申し訳ないけどさ…。ナインとかXM8がマテバみたいになってないのは何でかわかるかい?」
「あああっすいませんマスター!あ、えっとナインさんとエクスさんはこの環境にまだ馴染んでいない…と言うのと、マスターの魔力じゃまだ足りないんじゃないかなぁ…と。あとマスターに対する忠誠心が二人には足りてないのかもしれないですねっ!」
 後半は置いておくとして、前半二つが理由か。
 環境に慣れていない…か、すぐに使えるって言うわけでもなさそうだな。当分はそっとして置いてあげよう。それに俺の魔力総量が足りてない。これは俺が予想していた通りだ。これに関しては多くの戦闘を経験して自分で強化して行くしかないだろな。
「そっかそっか…。なんで使えないんだろうって不思議に思ってたから助かるよ。ありがとマテバ」
「大丈夫ですよっ!マスターには私がついてますからっ!」
 そう言うと、マテバは俺の両手を自分の両手で包み込み、胸のところまで持っていく。
 これがアリアだったら俺の手に別の感触がやってくるんだろうが…残念。マテバにはまだ早すぎた様だ。


 そんな不埒な考えがマテバに伝わらない様に、笑顔を浮かべる。
「頼もしい限りだよ。これからも当分お世話になるからな…。宜しくなマテバ」
 俺がそう言うと、マテバはいっぱいの笑みを浮かべ大きく頷いた。
「はいっ!こちらこそ宜しくお願いしますマスター!」
 お互いに挨拶をし終えたあと、マテバが急に寂しそうな表情を浮かべた。
「…?どうしたマテバ?」
「そろそろ時間みたいです…。魔力が切れそうです…」
 魔力が切れるとこの空間も無くなってしまうのか…。
「じゃあ…今日はここまでだな。出来るだけ多く魔力を注ぐことにするからさ。そうしたらまたすぐ会えるだろ?」
 俺はそう言いながら、マテバの頭を撫でる。寂しそうな表情はそのままだが、マテバは小さくはい…と呟いた。
 …よしちょっと最後にからかってやるとするか。


「マテバ」
 俺はマテバに声をかけた。
 俯いていたマテバは、ゆっくりと顔を上げ、俺の顔を見つめる。涙が出そうなのか魔力が出そうなのか…。目がウルウルしてるマテバを見ていると、昔、いじめっ子にいじめられていた妹を思い出す。そっか。誰かに似てると思ったけど、妹だ。マテバは妹みたいな感じなんだ。
 こちらを見つめるマテバに一歩近づき、俺は優しく抱き締めてやる。
「よしよし。またすぐ会えるからな。それまでは俺に力を貸しながら待っててくれ」
 その声はマテバに届いたのか。
 マテバは俺の腰に回していた腕に力を込めた。そうして、俺の身体に埋めていた顔を上げて、今度は大きな声ではっきりと──
「はいっ!マスターっ!」



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