異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

最後のスキル書〜魔女の話を添えて〜

 門でギルドカードを提示し、アリシアの街へと帰還してきた。例の如くキュアはローブの中だ。
 リトルボアの角や牙はひとまず換金せずに次回のクエスト完了時と一緒に査定してもらうことにする。明日はクエストを受注する予定だしな。


 そんなわけで俺は今、アリアを家に送り届けに来ている。
「アリアさん今日はお休みのところありがとうございました」
「いえいえ…こちらこそ無理を言ってすいませんでした」
 二人とも低姿勢なせいでいやいや、まぁまぁ…が続くんだよなぁ。俺が口調改めればアリアも改めてくれるんだろうけど…。当分はその予定はないからな。
「助かりました。えっと…、何かあれば宿屋まで来て下さい。明日はクエストをこなしてくる予定なので居ないかもしれませんが」
「お一人でクエスト…ですか?」
 曇った表情を見せるアリア。このままじゃ一緒に行きたいって言われてしまう…。嬉しいんだけど頼ってばっかりはダメだからな。
「自分の実力を測るためにも一度受けておこうかなと、以前お話しさせて頂いた通りですよ」
「…わかりました。何かあれば家まで来て下さいね」
 少し不満そうな表情を浮かべながらアリアはそう言う。
 心配をかけてしまって申し訳ないな。危ないことはしないようにしますか。
「勿論です。ではアリアさんここら辺で失礼しますね」
「キュ?キュイ〜」
 俺が一礼をし出ようとすると、ローブの中からキュアが顔を覗かせ、前足を器用に動かし手を振った。


 その様子をみてアリアは微笑み手を振り返してくれていた。


「あら…。今度こそお帰りかい?リョウさん」
 蒼の月亭に入ると、女将のエマさんが受付から俺へと声をかけてくれた。その声に応えるように笑みを浮かべながら
「はい、ただいま戻りましたエマさん」
 無事に帰ってきたことを伝える。こうして誰かに“ただいま”と言えるのは幸せな事だ。
「もうすぐ夕食が出来るよ。リョウさん食べてくかい?」
「そう…ですね。お腹減りましたし食べて行きます」
「食堂の方に座って待ってな!すぐ持ってくよ」
 厨房の方へと下がるエマさんを見ながら俺は食堂の隅の席に座る。比較的早い時間だからだろうか、人は俺一人だけだ。
 席について一息ついていると、カバンの中に入っているリトルボアの肉を思い出した。俺は慌てて席を立ち、厨房にいるエマさんに声をかける。
「エマさ〜ん!すいませ〜ん!」
「なんだーい!」
「リトルボアの肉とかって使いますか〜?」
「貰えるってんなら貰うよ〜、受付にでも置いといておくれぇ〜!」
「はぁ〜い!」
 エマさんの言葉に従い、カバンの中からリトルボアの肉を受付に置き、自分の席へと戻った。


 その後、エマさんから料理が運ばれ美味しく頂いた。
 今日のメニューは黒パン、腸詰肉…いわゆるソーセージ。それと野菜のスープ。どれも美味しかった。
 そして、あらかた食べ終わったあと大きく切られたリトルボアのステーキを出してもらった。塩胡椒の様なもので味付けされ、エマさん特製だというソースがかけられ、肉の上にバターが載せられた心踊る一品だった。


 リトルボアの肉は若干の獣臭さは合ったものの、元いた世界で食べた猪肉よりも臭みは少なく、旨味が強かった。これが魔力の力か…。
 ソースも何種類かの果実や香辛料を組み合わせて作られている様で、甘辛いソースだった。このソースがあればいくらでも食べれそうだ。
 ただ、ステーキを食べていると無性に白飯を食べたくなり、エマさんに米はあるのかと聞いてみたところ、あるにはあるがここらあたりでは取れなく、東大陸で主に主食として食べられているらしい。たまに中央の方にも商人が持ってくることがあるが、中央の人には米は合わないらしく今ではほとんど流通すらしていないようだ。


 心底残念そうな顔をしたせいか、今度貰えるか聞いてみるよとエマさんが気を利かせてくれた。申し訳ないと同時にめちゃくちゃ嬉しかった。
 ここに来てまだ三日で、エマさんの料理もアリアの料理も美味しかった。酒場の料理も。ただ俺は生粋の日本人だ。やはり米が欲しい。
 何はともあれ、エマさんが聞いてみると言ってくれた事だし、一つ楽しみができた。


 今日も少しずつ料理を残して俺は今部屋に居る。ローブを脱ぎ楽な格好をしながらキュアと戯れていた。
「ほら、キュア。あーん」
「キュー」
 小さく切ってサイコロ状にしたステーキをキュアの口へと運ぶ。もきゅもきゅとキュアはステーキを咀嚼し、ごくんと飲み込んだ。
「キュッキュイ!」
「そっかそっか、美味しいか」
 うちのキュアちゃんもエマさんの料理にぞっこんだ。
 飲み込んだ後で、さらに口を開きもっともっととせがんでくるキュアに、野菜スープや黒パンをあげつつ───夜は更けていった。


「キュ…」
 一通り食べて、キュアと遊んで居ると、遊び疲れたのかキュアは俺の膝で身体を丸め眠そうにしている。
 キュアの背中を優しく撫でていると、キュアはゆっくりと寝息を立て始めていた。その愛らしい姿に目を細めながら、俺は空いてる手を使って鞄の中を漁り、あるものを取り出した。昼にねるね○ねー○ねの魔女に貰ったスキル書だ。
 そのスキル書を手に取り、俺はあの時魔女から聞いた話を思い出していた。


「簡単に説明するよ、そのスキル書は通常じゃ作られない程の特別なスキル書だ。内容は一時的に身体能力と魔力を著しく強化するものだよ。普通のスキルとは違って経験を積む事で効果時間が伸びたりはしないからね気をつけな。ただし、このスキルは強力すぎるあまりに副作用がある。それは状態異常の一つとされている“狂暴化バーサク”してしまうんだ。狂暴化って言うのは敵味方関係なしに攻撃を散らしてしまう…そんな状態。もし使う時があれば、十分に味方との距離を離してから使うんだ。わかったね?」


「狂暴化…か」
 扱いを間違えれば多くの人を傷つけてしまうが…、上手く使えれば多くの人を守れるってわけだ。使いどころは難しいかもしれないが、使う機会も少なさそうだしな。


 俺はスキル書を開き
「スクロール“狂暴化バーサク”」
 狂暴化のスキルを習得した。

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