異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

スキル練習その2〜BB弾を添えて〜

 それからほどなくして、目的の魔物はいた。
 距離にして15m程だ。俺のおおよそのスキル効果距離はこんなものだろうということで、この距離のところで立ち止まっている。
 先程索敵で見つけたリトルボアだ。此方に気づいていない様子で地面に鼻を押し付けてなにかを食べている。
「…では最初に聞き耳からやりますね」
「はい、頑張って下さいリョウさん!」
「キュ!」
 アリアとキュアが応援してくれている中で、俺は”聞き耳“を発動させた。
 一瞬耳鳴りのようなものが鳴った後、15m先にいるリトルボアの鳴き声と鼻息が聞こえてくる。それと同時に、辺りで草木が擦れ合うような音も混じっている。


 成功だ。


 ただ、この距離が限界なようで、その先20mほど先に見えるリトルボアの声は聞こえてこなかった。
 このスキルもなかなか使い勝手が良さそうだ。色々悪いことにも使えてしまいそうだが…。ひとまず成功したことをアリアとキュアに伝える。
「大丈夫でした。この先のリトルボアの鳴き声と鼻息が聞こえました。ただ…その先のリトルボアまでは届かないようでしたが…」
「それはこれから先使用していくうちに、上達しますよ!何はともあれ、おめでとうございます!」「キュッキュア!」
 自分の事のように喜んでくれるアリアとキュアに向けて笑顔を送った。


 聞き耳のスキルもわかった。この距離のまま次は精密射撃を使用してみよう。
「次は精密射撃を使います。一応…何かあったときのために戦闘準備だけお願いします」
「任せて下さい!」
「キュイッ!」
 アリアとキュアに頷き、俺はマテバを取り出す。通常のマテバより一回り大きくなり10発装填になったマテバだ。───マテバ改とでも呼ぼう。
「“精密射撃”!」
 スキルを発動し、マテバを構える。
 索敵や聞き耳の時のように特別変わったことはないが、そのままマテバの照準器でリトルボアの魔石部分を軽く狙った。
「“魔弾”!」
 声を発すると同時に、引き金を引く。
 赤い光がマテバ改から発射され、その光は寸分の狂いもなくリトルボアの魔石を撃ち抜いた。魔石を撃たれたリトルボアはそのまま、地に身体を伏せて息絶える。


 照準器でゆっくりと狙いを定めていた時とは、比べ物にならないぐらい照準を合わせるのが楽になった。それに的確だ。
 俺がここに撃ちたいと思ったところにまっすぐ飛んでくれる。このスキルの強化は最優先で行おう。かなり強力なスキルになる。
 もう一度確認のために、もう一体の離れたところにいたリトルボアに近づく。距離にして大体20m程だろうか。
 念のため精密射撃をもう一度唱えた後、先程と同じようにリトルボアの魔石部分を狙い魔弾を放った。赤い光がリトルボア一直線に放たれて──撃ち抜いた。


 が、狙いは左へとズレ足を撃ち抜いていた。


 聞き耳のスキルの効果がきれていない為、耳元で大きなリトルボアの鳴き声が聞こえると同時に、血走った目で此方を見たリトルボアが突っ込んでくる。
 ただ距離はまだ離れている為、落ち着いてもう一度照準を合わせ、魔弾を放つ。すると今度は的確に魔石の位置を狙い───リトルボアは地に伏せる。


 やっぱり15mが今のところの限界か…これからどれだけ強化できるかって所だな。もっと多くのクエストをこなして、もっと多くの戦闘を経験して…だな。
 俺はアリアを此方に呼び最後のスキルを試すことにした。


 リトルボアは小さい猪だ。ただ、小さくてもその重量はかなりのもの。2、30キロ程はあるだろう。強化をしない今の状態でも両手を使えば持ち上げられないことはない。
 ただ、これが腕力強化をした後どうなるか…それを試してみることにする。その旨を伝え終わった後、リトルボアの前にたちスキルを唱える。
「”腕力強化“」
 唱えた瞬間に、腕に力が篭るような感覚がした。強化されているのだろうか?ゆっくりと腰を落とし、リトルボアの頭と胴体をお姫様抱っこの要領で持ち上げる。
 先程まではかなり負担がかかっていたものが、全くない。いや、本当にない。決して強がりとかではない。まるで布団を持っているかのように軽い。体感的に5分の1程になってる気がする。めちゃくちゃ軽い。
 今度は両手で持っていたリトルボアの胴体中央部分に掌を起き、そのまま上に掲げた。
 獲ったどー!
 なんつって。めちゃくちゃ軽いなぁ。全然片手でも行ける。これならかなりの重さのものでも簡単に持つことができるな。このスキルもかなり便利だ。


 ともあれ、これで覚えた全部のスキルを確認することができた。どれもこれも戦闘で使えそうなスキルばかりだ。少しずつでいいから強化をしていこう


 そして、俺は最後の確認作業に入る。
 XM8とナインがはいったケースを取り出し開ける。
 まずはナインからだ。一度マテバをホルスターに戻し、ナインを手に持ちマテバと同じ要領で魔力を込める。
 体内にある魔力がどんどんナインに吸収され、身体がどんどん怠くなっていく。そんな状態が続き、やっと魔力の供給が止まった。
 さて…。ナインで魔弾は撃てるのか。身体が重いが、照準器を使い10m先の木に狙いをゆっくりと定めた。
「”魔弾“」
 そう言いつつ、ナインの引き金を引くが────ポスン。
 覇気のない音がしたと同時に、狙っていた木に何かがぶつかり跳ね返った。跳ね返ったものはナインのマガジンに沢山入っている、俺が今まで散々見てきたBB弾だった。
 その様子を後ろで見ていたアリアが不思議そうに此方を見ている。


「リョウさんそれは…?」
「あ、ええっと…これが本来この玩具から出てくる物なんですよ。殺傷能力0当たったら痛いぐらいですかね。目に当たったら失明するかもしれませんが…」
 呆気に取られていたが、アリアが話しかけてくれてきたお陰でなんとか持ち直す。
 興味深そうに出てきたBB弾を見ているアリアを見ながら考える。
(ナインでは魔弾は使えないのか…?単純に魔力が足りないだけ…か?それとも何か条件があるのか)
「もう一つ、えあがんはありましたよね?試して見ますか?」
「そう…ですね。多分ダメだと思いますが─」
 アリアに催促され、XM8でも試しみたが────出てきたのはBB弾だった。


 その後も魔力ポーションを飲みつつ魔力を込めてみたりしたがダメだった。やはり何かの条件があるのか、魔力総量が足りないのか。はたまたその二つか。
 現時点ではまだ何も掴めなかったが、取得できたスキルを試すことはできた。それだけでも十分な成果だろう。
 ひとまず、リトルボアの肉や角、牙を剥ぎ取った後、俺たちはアリシアの街へと帰ることにした。

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