異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

スキル書の選定〜大釜グルグル魔女を添えて〜

 飛び交う客引きの声と、人でごった返している昼時の商業通り。


 露店で威勢良く声を上げている人たちを避けながら、俺とアリアは目的の場所まで向かっている。なんでも、アリアとリーシャがお世話になったところがあるようで、その場所でスキル書が購入できるようだ。
 商業通りの真ん中をテクテクと二人で歩いていると、昼時なこともありあちらこちらから腹が減る匂いがしてくる。思えば昼飯は食べてないか…。キュアにもご飯あげないとだしな。
 ラピッドラビットというウサギの肉を使った、黒パンに肉を挟みソースがかかっている食べ物が目にはいり、三つほど購入した。銅貨10枚…。こう考えると冒険者ってのはかなり儲かる職業なんだな。
 一つはアリアに渡し、一つは自分で食べる。もう一つはキュア用だ。キュアは大人しくずっと居てくれてるが、構ってあげられていないのが少し気がかりだ。部屋の中だったりすればずっと構ってあげられるんだが…。まぁ今日帰ってから沢山遊んであげよう。


 購入したパンがあらかた片付いた頃、予定をしていた場所へと到着した。店先に並ぶのは、魔物や動物の頭蓋骨。そのせいか店自体が禍々しい雰囲気を醸し出していた。ザ、魔法屋のようなそれに口元をヒクつきさせながら、アリアに確認を取る。
「えっと…、ここが言ってた場所でしょうか?」
「あはは…リョウさんがそうおっしゃるのも無理ありませんよ。見るからに怪しいですが…ここです」
 ここかぁ…。大釜でなんか変な薬とか作ってなきゃ良いけど…。店を前に、全然足が進まない俺を見かねて、アリアが俺の背中を押しながら
「と、とりあえず行きましょう?品揃えは本当にいいんですよ!」
 と言いつつ、店内の中へと入っていくのだった。


「ヒッヒ……、ここで…サラマンダーの目を入れれば…」
 案の定、店主は魔女のような風貌で、大釜で何やら怪しい薬を作成している最中だった。ぼそぼそと喋りながら、サラマンダーの目を大釜に入れた瞬間に、大釜がボフンと音をたて小さな爆発を起こしていた。
 薄暗く、なんの光かわからないが緑色にひかる店内には、さまざまな薬品や杖などが並べられており、今は煙が店内を覆っている。
「ヒッヒ…出来上がったわい…ヒ、ヒヒ…ヒッヒッヒ」
 …やべぇ、やべぇよ。俺の中の危険信号がMAX上限まで警告を出してるよ。
急いで店を出ようとすると、アリアが素早く俺の身体を引き留めてしまう。
「アリアさん離してくれ!こんな所にいたら変な薬とか、変な魔術とかかけられてしまうんだ!」
「リ、リョウさん!お気持ちは分かりますが、落ち着いてください!大丈夫ですから!ね!」
 頑なに俺を離そうとしないアリアが、落ち着かせようと声をかけてくれる。
「ヒッヒ…なんだい随分と騒がしい実験体だねぇ…今できたばっかりの薬でも飲んで見るかえ?ヒッヒッヒ」
「ほら!やっぱり実験台にされるんだ!俺はまだ正常でいたいんだよ!」
 アリアと店を出る出ないで騒ぎ立て、やっとのこと店主とまともに話すことができたのはそれから十分後の事だった。


「ヒッヒ…、アリアちゃんかい今日は何が欲しいんだね…ヒヒ」
「えっと…初級のスキル書と…中級のスキル書をいくつか購入しようと思いまして…」
「そうかいそうかい…ヒッヒ。そっちの実験体に使うんだねぇ?」
 …もうやだ。さっさとスキル書買って帰ろう…。
「…お婆さ───」
「あたしゃ魔女だよ!その辺のババアと一緒にしないでおくれ!」
 おばあさんと呼ばれるのがそこまで気になるのか、ババア──もとい、魔女は急に大声を出してきた。その様子に少し驚きながらも、俺は言葉を訂正する。
「申し訳ございませんでした、魔女さん。僕の名前はリョウと言います。できれば実験体などとは呼ばずに、名前で呼んでいただけないでしょうか」
 実験体と呼ばれる度に背筋が凍る思いをする羽目になるのだけは勘弁だからな。
「…ヒッヒ。良いだろうリョウと呼んであげよう。それでスキル書…だったかいねぇ…ちょっと待ってておくれ…ヒッヒッヒ」
 激昂を沈めた後、先ほどと同じ口調に戻ったババア…魔女はスキル書を次から次へとカウンターに置いている。
 全てを置き終えたのか、魔女は積み上げられたスキル書の間から顔をのぞかせて、口を開いた。
「ヒッヒ…。ここに置いたのが初級、中級のスキル書だよ。お求めはどれなんだい…?」
 パッと見ても20はあるだろうか。そのスキル書たちを俺はアリアと二人で手分けして探すことにした。


「“腕力強化ストレングス”、“跳躍強化リープ”、“脚力強化アジリティ“は欲しいですね…。リーシャが使ってて便利そうでしたので。索敵サーチ聞き耳イーブスなどと言うスキルなどもあるんですか?」
「はい、ありますよ。後はそうですね…、リョウさんは接敵してマテバを使用することもあるようでしたので…中級スキルの”瞬動“なんて言うのはどうですか?一定距離を一瞬で詰める物で、脚力強化の上位スキルになります。もし”瞬動“をご購入される場合ですと、脚力強化は不要かと」
 スキル書の山を一つ一つ確認しながら、アリアと相談をしている。
「それは便利そうですね…。”腕力強化”、”跳躍強化“、”索敵“、”聞き耳“、”瞬動“…あ、これってどう言う効果があるんですか?アリアさん」
 気になるスキル書を手に取り、アリアの方へと向ける。教えてアリア先生!
「“挑発”ですね。これは魔物の注意を自身に集めるものです。主に盾職の人達が使うスキルですよ」「ありがとうございます…。ん〜悩みますね…。先程のスキル書は買うとして…」
 本当にアリアはなんでも知ってるなぁ…。この世界の人だったら知ってるような事なのかな?だとしても、俺の事情を知ってこうやって親切に教えてくれるアリアは優しい人だ。
「ヒッヒ…、店としてはこれだけの量を買ってもらって大助かりだけどねぇ…。今のところで丁度銀貨6枚だよ…ヒッヒ」
 先ほどの五つのスキルの合計値段を伝えてくれる魔女。普通にしててくれれば良いババアなんだけどなぁ…。目線合わせないでおこう。
「ありがとうございます。…後一つぐらい何か買いたいんですが…」
 残りは銀貨6枚を差し引いて、銀貨10枚と銅貨80枚ほどだ。
 銀貨5枚ほどあれば、宿屋で生活する分には困らないからな。中級ぐらいのものが一つ欲しい。


 あれじゃないこれじゃないと、スキル書の山を崩しながら見ていると、アリアが気になるものを見つけたようでそれを俺に見せてくる。
「これなんか如何でしょう?“精密射撃プリシスシュート“リョウさん元々お上手ですが、これがあれば外すことはほぼないと思います。”誘導射撃リモートシュート”という上級のスキルもありますが…此方は金貨が必要なほどの物なのでひとまず、”精密射撃“でいいんじゃないでしょうか?」
 素晴らしいの一言だった。今までも的確に狙いを定めてから放っていたのでそこまで狙いが外れた事はないが、狙った場所へ上手くいったのは数回しかない。これがあれば、的確に魔石の場所を狙い撃ちをしたり…、足を撃ち機動力を削ぐこともできる。
 これだ。俺が欲しいスキルはこれだ。


 興奮のあまり、アリアの手を握りそのまま上下に大きく振った。
「あ、ありがとうございます!アリアさん!これは素晴らしいスキルですね!是非買わせていただきます!ババア!これ買うわ!」
「魔女だと言っとるだろうが!!それは銀貨4枚だよ!」
 合計で10枚の銀貨をババアに渡し、俺は六つのスキル書を入手することが出来た。
「え、えっと、リョウさん、そろそろ手を離して頂けると…」
「あ、す、すいません!」
 顔を真っ赤にしたアリアが俯向きながらそう言って来て、俺はアリアの手をすぐさま離した。自分でも自分の行動にびっくりだわ。
 そのままアリアは「さ、先に外に出てますっ!」と言って店を出て行ってしまった。


 俺もすぐさま店を出ようと、スキル書を纏め、カバンの中に入れ外に出ようとすると
「ちょっと待ちな」
 魔女に止められてしまった。なんだろうかババアと呼んだ罰として薬を飲めとかじゃないだろうな…。
 不穏なことを考えながら、俺は魔女の方へと向き直ると、しわくちゃの顔をしかめっ面にさせながら此方を見ていた。
「アリアちゃんはいい子だ。とても優しくて、正義感も強い。だが…少々危なっかしい所もある。あたしが守れればいいんだけどねぇ…、この魔女力も衰え昔のように冒険者なんか出来やしない」魔女はそう言うと、崩れたスキル書の山からではなく、机の中から一つ別のスキル書を取り出した。
「あんたみたいな小生意気なガキに頼むのも嫌だけどねぇ…、何かあったらコイツを使ってあの子を守って欲しい…。あの子には色々と恩があってね。あたしは孫みたいに思ってんのさ」
 神妙な面持ちで魔女はそう言うと、取り出したスキル書を俺へと渡してくる。
「簡単に説明するよ、そのスキル書は通常じゃ作られない程の特別なスキル書だ。内容は────」


 一連の説明を受けた後で、俺は魔女からスキル書を受け取り、一緒に鞄の中へとしまう。
「…確かに受け取りましたよ魔女さん。またスキル書が欲しくなったら来ますので」
「あたしも人の事は言えないけど…あんたも随分口調をコロコロ変えるもんだねぇ…」
 ため息を交えながら、魔女はそう言う。
「こうしていた方が世渡りが楽だと親に言われてましたので」
「そーかいそーかい…、さっさとアリアちゃんのところに行っておやり」
 一礼をし、今度こそ店を出ようとした時
「リョウ」
 またもや魔女に引き止められ、何だと振り返ると魔女が小瓶を一つこちらに投げ渡して来た。
 条件反射でそれを受け止め、赤色に染まったそれを訝しげに見る。怪しい薬じゃないだろうな…
「…それは肉体強化の薬だよ。いざという時に飲むといいさ…。これで終わりさ。ヒッヒッヒ」
 最初と同じ口調に戻った魔女に肩を竦めながら、今度こそ本当に店を出た。

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