異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

三日目の朝〜怪しげなローブ男を添えて〜

「──キュ───キュイ?」
 俺の耳元でキュアが鳴いている気がする。まてまて…俺はまだ眠いんだ…あともう少しだけ寝かせてくれ…。
「─キュゥ…───キュッキュ──キュイ」
 まだ…あと5分…5分でいんだ…寝かせてくれ…。
「キュウ…キュアァァ!」
「フゴッ…ゴッホガハッ…」
 痺れを切らしたキュアが身体全体で俺の鼻と口を抑えたことにより、俺は眠りから覚めた。二日連続でこういう起こし方なのな…。
「…あ〜…、おはよキュア」
「キュゥゥゥ…キュイッ」
 どうやら直ぐに起きなかったことがキュアの癇に障ったらしく、そっぽを向かれてしまった…どうやら俺の異世界生活三日目の朝はキュアのご機嫌取りから始まりそうだ。


「あら…、おはようリョウさん」
「あ…、おはようございますエマさん」
 ローブを着て、階段を降り受付まで来るとエマさんが居た。昨日の一件があるので若干気まずい感があるな。
「ええと…、昨晩は申し訳ございませんでした…。それと果実酒とエールご馳走様でした。おいくらでしょうか?」
「なぁに、私はなんもしてないからねぇ。…それとあれはサービスだよ。朝食が出来てるから食堂で待ってな」
 そういうと、エマさんは厨房の方へと向かっていった。この人には敵わないなぁ…、そんなことを思いながら俺は食堂へ足を運んだ。


 朝食はケイトゥの卵を使った目玉焼きと黒パン。そして野菜のスープだった。
 朝食を部屋まで持っていくのは流石に不審に思われそうだったので、全て平らげ、部屋に戻り鞄に必要最低限のものだけを詰めて宿屋を出た。


 昼時に向けてか商人たちが忙しなく準備をしている商業通り。昨日購入したオーク肉串の屋台があったので、2本ほど焼いて貰った。一本は歩きながら食べ、もう一本は誰にも気づかれないようにローブの中に入れる。すると中にいるキュアがそれに気づき、串を取って食べている。


「そこの兄ちゃん、ちっと見てかねぇかい?」
 ゲインの店に向かう途中、露店を開いているフードをかぶった男に声をかけられた。見るからに怪しい風貌をした男の前には、シートのようなものが広げられてその上には商品が雑多に並べられている。
 少し時間もあることだし、少し見ていくとしよう。
「ええ…。何か良いものでも?」
 俺がそのように聞くと、フードの奥に隠れていた口元が釣り上がり言葉を続けた。
「まぁな…。今日の目玉はコレだ」
 そう言いフード男は目の前のシートからではなく、自分の後ろに置いていた大きめの鞄から何かを取り出した。取り出されたものを確認するとそれは靴だった。
「靴…でしょうか?」
 俺が問いかけると、フード男は一つ頷いたあと、た・だ・し。と付け加え
「コイツは一味違う。コイツの名前は“羽つき靴”コイツを履いていれば二段階のジャンプが可能になるっていうスゲェ代物だ」
「二段階のジャンプ…?要は空中でジャンプができる…という意味ですかね?」
「その通りだ。な、すげぇもんだろ?」
 ふうむ…たしかに凄いな。これに合わせてリーシャが使っているような“跳躍強化”を使用すればもっと高く飛べる。更に、空中でもう一度ジャンプができるとなれば緊急の回避にも使えるし…空を飛んでいる魔物等も討伐しやすくなるんだろうな。


 ただ…、まぁ銃を使っている俺からすれば多少便利にはなるだろうけど…そんなに重要って言うわけでもない気がする。
「たしかに素晴らしい品ですね…、ちなみにおいくらですか?」
「聞いて驚けよ…?金貨3枚だ。それでいい」
 これだけの性能でこの価格は安いのか?よくわからん。まぁとりあえず要らないから断わってしまおう。
「とても魅力的なお話ですが…、申し訳ございません。私のような若輩者には手が届かない品物です。良いものを見せて頂いてありがとうございました」
 そう言い、俺は露店を後にしようとしたがローブ男は俺の腕を掴み、露店へと戻した。
「ま、まてまて。そ、そうか、だったら金貨1枚でもいい…どうだ?買わねぇか?」
 …ん?なんか怪しいなコイツ。金貨3枚の物を急に1枚まで落としてきた。つまりこの靴の値段は金貨3枚もの価値は元からなかったのか…。危ねぇ騙されるところだった。
「申し訳ございませんが…、正直な話僕は後衛職ですので…そこまで必要ではありませんので。失礼致します」
 これ以上ここにいると厄介ごとに巻き込まれそうなので、掴まれた腕を振り払いゲインの店へとむかうことにした。
 露店の方から舌打ちが聞こえてきたが…きっと気のせいだろ。うんうん。


 ドアに付けられた鈴がからんころんと音を立てる。
 今日も今日とて不機嫌そうな顔をしたゲインは入ってきたのが俺だとわかると、小さく「…らっしゃい」と言った。
「昨日ぶり、ゲインさん」
「…クエストにでも行ったもんだと思ってたんだがな」
 不機嫌そうな顔は変わらずだが、なんだか少し態度が軟化しているような気がしないでもしない
「ああ、昨日行ってきたよ。ガルーダ討伐にね。この防具のお陰で何とか死ぬことはなかった…。本当にこの防具は凄いもんだよ」
「…ふん、そいつは良かったな…で今日は何の用だ。クエストでどっか壊しでもしたか?」
「いや…、今日は昨日のクエストでそれなりに稼いだから、これを渡しにきた」
 俺は鞄の中から銀貨50枚を纏めた布袋を取り出し、カウンターの上へと置いた。その布袋を見てより一層不機嫌そうな顔にさせたゲインは、大きなため息をついた。
「いやいや、ため息つかないでくれよゲインさん。昨日言っただろ?とりあえずこれで残り金貨4枚だ」
「…言っても無駄だからな、もう何も言わねぇ…。後な金貨3枚と銀貨95枚だぞリョウ」
「分かってるよ。ちょっとクエストサボる予定だからさ、次クエストクリアした時にまた持ってくるよ。あとメンテナンスとかが必要そうな時もね」
 この後冒険者ギルドに行って、資料を確認してこないといけないからな。ゲインには悪いけどもう行くか。
「これから色々回る予定だからもう行くわ」
「…なんだ、金だけ置きにきたのか」
「悪いね。んじゃまたなゲインさん。…それとな」
 俺は一拍置いた後、ゲインの方へ顔を向けて昨日言えなかった事を言う。


「あんま無愛想にしてっと客帰っちまうぞ?」
「…喧しいわ、若造がとっとと帰れ」
 リーシャを真似てにししと笑った後、ひらひらと手を振りゲインの店を後にした。


「…茶でも飲んでけば良いものを」
 無愛想で不機嫌そうな顔をした坊主頭の店主の声が、誰もいなくなった店内に広がっていた。

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