異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

初のクエスト報酬〜酒を添えて〜

 2時間ほど…たっただろうか?
先ほどまでは、夕方の明るさがまだ残っていた時間だったが、いつの間にか外は薄暗く夜を迎えようとしていた。


 酒場は夕方の時よりも賑わいを見せ、より一層騒がしい場所へと変わってる。
その中で、俺は4杯目のエール リーシャは3杯目のエール アリアは2杯目の果実酒をちびちびと飲んでいた。
 元の世界では一滴も飲んだことがなかった為、自分のが強いのか弱いのかすらわからなかったが
今実際にこうやって飲んでみて、そこそこいける事がわかった。親父がかなり酒に強かったので、その血を強く受け継いだのかもしれない。
  
「──でさぁあ〜?アリアがそん時さぁ〜、近所の全然話した事もない男に告白されてたのよぉ〜“一目見た時から、貴女と一緒に居たいと思いました!付き合ってください!!”ってねぇ〜。それ聞いたアリアがさぁ〜“貴方は一目見た相手の全てが分かるのでしょうか?お付き合いすると言うのはお互いをきちんと知り、そこから生まれた好意の元でするものだと思っています。なので貴方のように想いを軽んずる方の気持ちにはお答えできません”ってバッサリきってさぁ〜」
 リーシャは、すでに酔いが回っているのか、ギャルのような口調をさらに砕けさせ開いた口からは、言葉が止まることなく続いている。
1時間前ぐらいからずっとこの調子だ。
  
「そりゃ強いなぁ…、その男もお生憎様だこと」
「私は悪くないですもん…」
 一目惚れして、告白したら相手が超鉄壁女性で、心ごとおられた…みたいな感じだろうな
心の中で哀れ男よ、と思いながら、隣にいるアリアに目を向ける
  
 アリアはほんのり赤く染まった頰を膨らませながら果実酒をちびちび飲みながら、ふてくされていた
確かにアリアは綺麗な女性で可愛らしい一面もあり、一目惚れするぐらいの女性だからなぁ…
男の気持ちもわからんでもない…だが、哀れだ
  
「なぁにが言いたいかってさぁ〜?アリアはかーったいんだよぉ〜もっと気軽にいれば、男なんていくらでも寄ってくるだろうにぃ〜」
 エールをグイグイ飲み、ぷっはぁ〜と息をつきグラスを振りながら、アリアに目を向けていた
「別にいいもん…。私はそう言う相手欲しいとか思ってないし…」
 膨らませた頰をさらに膨らませながら、アリアは小声で言う…が


「あっれれぇ〜?気のせいだったかなぁ〜? リョウを助けたアリシアの森の道をぉ〜、ステキな    
 男性と一緒に歩けたらなぁ…なんて思ってたんじゃ無かったっけぇ〜?」
 冷やかす様に、リーシャはニヤニヤとアリアを見ている。
すると、赤く染まった頬がもう一段階赤くなり、そのまま俯いてしまった。
「ありゃりゃぁ〜、からかいすぎちゃった…」
 てへっ、と舌を出すリーシャ…可愛らしく、憎めないやつだが…ちょっと今回はやり過ぎたか?
 残っているエールを一気に飲み干し、追加でエールを頼む。
それと同時に、つまみ用の干し肉もいくつか頼んだ。


 ここまで飲んでいる途中で、何度か料理を頼んだが味は結構濃いめでつまみとしては十分な程。
葉物と肉の炒め物だったり…コンソメスープに近い香りがする物だったり…かなりデカめのステーキだったり。
 何も口にしていなかった俺には十分すぎるぐらいの食事だった。


 食事と酒を楽しみつつ、リーシャがアリアを慰めていると
「お待たせ致しました。…アリア大丈夫?」
 ルイがやってきた。
手には布袋を、その中からはジャラジャラと硬貨と硬貨がすれる音がしている。


「…だいじょぶ…」
  全然大丈夫そうではない声を上げながら、応答をするアリアの隣で、リーシャは参った参ったぁ〜と愉快そうに笑っていた。
 その光景を目にしたルイが、一つ深くため息をつき お酒はほどほどにね、と告げた後俺に向き直る
  
「では、リョウさん此方が今回の買い取り価格の全てとなります。ご確認ください」
 渡された布袋を確認すると、銀から始まり銅がジャラジャラと入っていて、それに付け加え金貨が1枚その積み上げられた貨幣の上にちょこんと乗っていた。
 ついに ねんがんの きんか を 手に入れた ぞ!
「内訳なのですが───」


 そこから長々と今回買い取ってもらった物の買い取り価格の話が始まった
集めてきた全てを渡したので相当な数になったようだ。
 荷車や食料品。ただ食料品の中には他国の物が入っていた為、一部高額で買い取りされたものもある。
これらを含めて約銀貨15枚の買い取りだそうだ。


 続いて装備品や防具品、駆け出しの冒険者の物ばかりらしいが、使用した形跡が殆ど無いらしく新品同様の買い取り価格で買い取ってもらえた。
これが大体銀貨13枚程
 装飾品などの中には、貴族が好んで買う宝石が埋め込まれた物が何点かあり、それらを売却した金額がおおよそ銀貨32枚
 ここまでで銀貨60枚程…こんなに一気にもらってしまっていいのだろうか…
同様に銅貨も端数分としていくつか溜まっていってる…大体68枚程だ


 その他細々とした冒険者セットみたいな物が大体銅貨20枚ほど。
漁った中に体力回復のポーションや魔力回復ポーションなどもあったが、それはこちらで保管している。これから先使うことが増えるであろう、こういった消耗品はあらかじめ抜いておいた。


 そして、ゴブリンの魔石やリトルボアの角や牙。そう言った素材関連の値段が
全てまとめて銀貨4枚。
 最後──これが一番高かったのだが
ゴブリンリーダーが持っていた剣──これは風の魔法剣…だそうだ。
効果は持っている物の速度強化+魔力を流すと風魔法を帯びて、魔法攻撃も出来るようになる代物らしい。
中々に珍しいものだが、元々の剣がロングソードと言う初期の武器で作成されている為、少し値段が下がった。ただ、それでも金貨1枚と銀貨13枚になった。


 占めて…金貨1枚銀貨77枚銅貨88枚の大金と成りかわった。
この事からやっと貨幣の価値がわかった。
 どうやら銅貨100枚で銀貨1枚 銀貨100枚で金貨1枚という計算になっているようだ。これを3人で分けるとすると…一人当たり銀貨59枚と銅貨29枚になる。


 これで当分は金に困りはしないだろうが、これから装備品を整えるに当たってかなりの出費が見込まれていたので、大助かりだ。


 分けた金額を二人に渡していると、ルイが驚いた様子でこちらを見ていた
「リョウさん…商人の出ですか?計算がかなり早いように思いますが…」
「はい?」
 唐突な質問に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「確かにぃ〜、リョウ計算はやいねぇ?」
「私も、今のは流石にパッとは出てきませんでしたよ…?」
 俯いていたアリアも、酔っ払ったリーシャも同様なことを言う
「あ、いえ…まぁでも計算は得意な方ですよ…はは」
 どうやら暗算が珍しい用だ。
話によると、ここまで早く計算できるのは商人か良いとこの貴族だけ…。
 まぁ俺は商人でも貴族でも無いただの一般人なんだけどな。元いた世界の人達がこっちにきたらたいそう驚かれるんだろうね。


 ルイはその後すぐに仕事に戻ると言うことで、受付の方まで下がっていき
また3人だけの空間にと戻っていった。
頼んでいたエールと干し肉を平らげ、会計を済ませる。
かなり飲み食いしたが合計で銀貨1枚と銅貨60枚で済んだ。
ゴブリン討伐のクエストで事足りる金額だ。
 会計を済ませ、外に出る。
  
 夜の暗闇に染まった街は、所々に街灯のような物が設置されていた。
魔法で明かりをつけているのだろうか。ほんのりと優しい光が大通りをいろどっていた。
中世ヨーロッパ風の街並みに、淡く光が輝いている…その光景はまさに絶景だった。


 ぼーっと、街並みを眺めているとリーシャが後ろから抱きついてくる。
「りょぉお〜〜、すこぉ〜し酔っちゃったぁ〜…肩貸してぇ…」
 女性特有の柔らかい二つのモノ…が慎ましいながらも俺の背中に当たっていると同時に、甘い香りが鼻腔をくすぐり、理性を挑発にくる…がなんとか抑え、リーシャを退かし横に立たせる
「女の子がそんな事すんなぁ!全く…、肩なら貸してやるから!」
 少し怒気を含めた口調で言うと、にししとリーシャは笑い始める
「なぁにぃ〜?リョウってば私の事女の子扱いしてくれるのぉ〜?」
「うるせ!どっからどう見ても女の子だよ。いいから手だけ肩に回せっての」
 はぁい、という間延びした返事をしながら、リーシャが肩に手を回してくる。
そのままリーシャに肩を貸しつつ、アリアに問う


「アリアさん、リーシャはどこに連れて行けば良いんですかね?」
 もし家が近いのであればそこまで送っていこうかと考え、アリアの返答を待つが
数秒たっても返事が返ってこないので、不審に思い後ろを振り返り、アリアを確認すると。
顎に手をやりなにかブツブツと言っているようだった。
 悪いとは思ったが、聞き耳を立ててみると
「…成る程、時にはちょっとしたボディタッチとかも大事になるのかな…、でもあんまり大胆すぎても引かれちゃうかもしれないし…そういうのはやっぱり難しいよ…」


 …聞かなかった事にしよう。
きっと好きな男の人ができたときとか、気になる人ができたときの為の予習だろうが…
できればアリアにはこのままおしとやかでいてほしいものだ。
 このまま聞き続けても面白いが、ラチがあかないないのでもう一度少し大きめの声で
「アリアさーん!リーシャはどこまで連れて行けばいいですかー!?」
「ひゃいっ!…え、えっとあの、きょ、今日は遅いので…お二人とも私の家に泊まっていってください!夜は…その、かなり危険ですので…」
「…あの、僕男ですよ?良いんですか?」
「ええっ、あのえとえと…」
「私とぉ〜アリアはぁ〜ベッドで寝てさぁ〜?リョウは、入り口に近い床でぇ〜布団だけひけば良いんじゃないかなぁ〜?」
「そ、そうです!そうします!」


 ん〜…確かに今から宿を探したんじゃ時間的にも間に合うかわからないしなぁ…
俺も二人に何か危害を加えるつもりはないし…言葉に甘えるか?
「僕も、かなり飲んでましたので…すいませんが良いですか…?」
「あ、えっはい!じゃあ、帰りましょうっっ」
 お酒が入って、少し陽気になったのかな?
少し、言葉が詰まったりきょどったりしているアリアは、今日1日いた中でも一番可愛らしい姿をしている。
 アリアが先にトテトテと歩いていく後ろを付いて行く。
「リョウ〜?」
「ん〜?なんだリーシャ」
 肩を貸してるリーシャが唐突に俺の名前を呼ぶ
「…アリアにもぉ、私にもぉ…」
「うん?」
 アリアにも、リーシャにも何だろうか?続きの答えを聞くために、俺は次の言葉を待つ。
「手、出しちゃぁ〜ダメだよぉ〜?」
 小悪魔的な笑みを浮かべながら、クスクスと笑い、からかってくるリーシャ。
そんな彼女に向かい俺は───
「するか!アホォ!!」
  
 アリシアの街大通りに、俺の怒声とリーシャの笑い声が広がった。

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