異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

ゴブリンとの戦い〜覚醒と終焉〜

 俺はすぐに、身体を起こし数メートルとは言わずに数十メートル後退をしもう一度照準をゴブリンに合わせる。
一本目の矢を俺に棍棒をふるったゴブリンに放つ。
すぐさま口元から矢を取り、弓を引き絞りもう一体に向け放つ。
 一本目の矢は、ゴブリンの腹部に深く突き刺さったが倒すことはできず、ゴブリンの叫び声が耳に入って来る。
もう一本は、確実にゴブリンの頭に突き刺さり命を絶っていた。
 五匹目のゴブリンが俺の目の前まで走ってきており、棍棒を振るう。
棍棒が風を切る重い音が聞こえると同時に、俺は横に避ける。
棍棒が地面に叩きつけられ、その反動でゴブリンが硬直しているのを狙い、弓矢を放つ。
至近距離からの射撃により、寸分の違いもなく頭部に当たる。
  その場で倒れたゴブリンを確認し、矢が腹部に刺さっている三体目のゴブリンに目をやった。
腹部からの出血が激しく、すぐにでも倒れてしまいそうな状態で俺の方に走ってきている。
そいつめがけてもう一度弓を引き絞り、照準を定め、すぐに放つ。
 三体目のゴブリンが倒れていくのを視界に収め、最後の動けなくなっているゴブリンにトドメをさそうと次の矢を準備するが


「リョウさん!追加で1、2、3…6体来ています!加勢します!」
「大丈夫だ!俺に…俺にやらせてくれ!」


  言葉遣いを気にしている余裕がなく、俺は大声でアリアの加勢を断った。
加勢してもらえれば、すぐに終わるだろう。ただ、これは俺が受けたクエストで
俺がこれから先この世界で生きていく為の力をつけるための第一歩なのだ。
他人の力を借り、それだけでこの世界は生きていけないだろう。
  故に、俺は加勢をして欲しいとは思わなかった。
「アリアさん!リーシャ!本当にヤバイと思った時は俺が声を出すから、それ前では手を出さないでくれ!」
 そこまでいうと、倒れていたゴブリンにトドメを刺し
次に来るゴブリン六体に備え弓を構える。


「グギャ!ギィギギグゴギャ!ゴギャー!」
「「「「「グゴギャ!」」」」」
    6体のゴブリンは何か言葉を交わしながら此方に走って来る。
5体は棍棒を持っていたが、1体は剣を持っていた。
行商人や冒険者から奪ったものだろうか?
  剣を持っていたゴブリンは洞窟入り口で控え、5体のゴブリンが俺に襲いかかって来る。
走っているところを、まずは1体確実に落とす。
放たれた矢は頭部に突き刺さり、1体が倒れる。
続けて2体目を倒す為に矢を矢筒から取り出し放つ。
こちらは、ゴブリンの腕の部分に刺さりそのゴブリンは棍棒を落とす。
 確実に落とすため次の矢を取ろうとするが、矢が矢筒に突っかかり取り出すのに時間をかけしまった。
 その間に、3体のゴブリンが俺に襲いかかって来る。
3体のゴブリンはまるで連携を取っているかの様に、右左そして真ん中から襲いかかって来た。
左右からを棍棒を後ろに飛びかわす。俺が先程いた場所に二つの棍棒が振り下ろされる。
土を削り、棍棒と棍棒同士がぶつかり合う音がする中、もう1体のゴブリンがその間を飛び俺に棍棒を振るう。
  後ろに飛んだばかりで、回避行動が出来ない。
心の中で舌打ちをしながら、俺は弓でゴブリンの腹部を思いっ切り殴った。
鈍い打撃音と共に、バキッという木が折れる音が俺の耳に入ってくる。
殴られたゴブリンはその衝撃を殺すことはできずに、そのまま横へと吹っ飛んだ。
 音の原因は探らずともわかった。
 アリアから借りた弓が真っ二つに折れていた。弓は今の俺に使える唯一の武器。これが折れてしまった以上、俺がこの戦闘を続けることはできない…
ゴブリンから距離を取り、後ろに控えている二人に助けを求めよう。
そう諦めた時だ。


 時が止まったかの様に感じた。


(───スタ──使っ────)
  何処からか声が聞こえてくる。
俺は気づくと腰のポケット部分からマテバを取り出していた。まるで、誰かの意思でそうさせられているかの様に
(───ま───ば──)
  声はまだ聞こえ続けていた。何かを俺に伝えようとしているのだろうか。
マテバのグリップを強く握ると、俺の身体から力が抜ける感覚が訪れる。
(マス──つか──マジック───バレ───)
  力抜ける感覚と同時に、聞こえてくる声ははっきりと聞こえる様になり何かを言っているのがわかる。力が抜けていく感覚が少しずつ弱くなり…そして完全に収まった時。
(マスター──使って!──マジック───バレット!)


  伝えてようとしていた声の全てを聞き入れた瞬間。俺の時間は再開した。
雄叫びをあげながら飛びかかってくるゴブリンに俺は、ゆっくりとマテバの照準を合わせる。
「リョウ!それは玩具の何物でもないんでしょう!?もう援護に入るからね!」
「私も援護を───」
「いい、大丈夫だよ。二人はそこで見てて」
 二人は心配そうな顔を見せていたが、俺が至極冷静に言い放つ。
何度か戸惑いを見せた後、二人は大人しく後ろに下がってくれていた。
 そして、ちょうど飛び襲いかかって来たゴブリン2体に
「“魔弾マジックバレット“」
  そう一言を放ち、引き金を二度引く。
バスンと鈍い音が周囲に響き、マテバの銃口から発射されたのは見知ったBB弾ではなく
青く、そして淡く光る─光の銃弾だった。
 魔弾を直接頭に撃たれたゴブリンは、額部分に風穴をあけその場に倒れる。
もう一体のゴブリンは胸に風穴を開け、心臓─もとい、魔石を破壊していた。
 倒れたゴブリン2体に目もくれず、先程弓で吹っ飛ばしたゴブリンに照準を合わせる。
距離は20m、散々シューティングレンジで撃ち込んだんだ。この程度屁でもない。
「”魔弾“」
 銃声が鳴り、ゴブリンの頭部にまた一つ風穴を作る。
続けざまに、棍棒を落としたゴブリンに照準を合わせ、撃ち抜いた。


 これで襲いかかって来た5体のゴブリンの処分が終わり、残りは剣を持ちながら洞窟入り口で待機をしていたゴブリンのみとなった。
  知能が低いゴブリンが連携の様なものを取っていた。と言うことはヤツが指揮官なりの力を持っていると考えるのが妥当だろうか。
ヤツが言葉を発した後、5体のゴブリンがそれに答えるかの様に声を上げていた。つまりはそう言うことだと思う。
ヤツは仲間全員が殺されたことに怒りを抑えきれずに、入り口付近で剣を振り回し喧しい声で叫んでいる。
  
 マテバのグリップを強く握り、剣ゴブリンに向かい走り出す。
すると、剣ゴブリンもそれに応じるかの様にこちらに向かって走り出すが、そのスピードは先ほどのゴブリンたちを凌駕する勢いだ。
「リ、リョウさん!そのゴブリンは普通のゴブリンじゃありません!”ゴブリンリーダー“というホブゴブリンの上位種です!気をつけて下さい!」
 アリアが剣ゴブリンの正体を俺に教えてくれる。その焦り様からこの辺りには生息しないタイプの魔物なのだろう。
ゴブリンリーダーまでの距離が残り10mといったところで停止し、マテバのリアサイトを使い照準を合わせ──放つ
「”魔弾“」
  青く光る銃弾がゴブリンリーダーに向かって飛んでいくが、ゴブリンリーダーはそれを横に避ける。これで5発目だ。
  俺が知るマテバと全く一緒であれば、次弾で最後のはず。
確実に当たる距離で決めなければ…
 横に避けたゴブリンリーダーは、体勢を整え俺との距離を一気に詰め、手に持った剣を横薙ぎに振るう。
すぐにバックステップで後ろに下がり回避をするが、ゴブリンリーダーの攻撃は止まらない。
右から左に横薙ぎされた剣を今度は左から右にと横薙ぎを繰り出す。
 先ほどのゴブリンと違う攻撃パターンに、不意をつかれた俺は避けきることが出来ずに、肩を浅く斬られる。


(あー…くそ、いてぇな。刃物で斬られるっていうのはこんなに痛いもんなのかよ…)
 痛みとともに、斬られた箇所から血が流れる。
「がっ…!?」
  しかし、その痛みに気をとられる間も無く、ゴブリンリーダーは足を使って俺を突き飛ばしてきた。
斬られた箇所と、腹部にかかる衝撃が俺の意識を遠のかせる───が、なんとか持ちこたえる。
  (いてぇ、完全鳩尾やられてんな…ヤンキーかよ)
 胃の中から逆流し吐きそうになるのを何とか止めながら、ゴブリンリーダーを視野に入れる。
「グゴギャギャギャ」
 不愉快になる笑い声を上げながら、余裕の表情を見せるゴブリンが視界に映る。
もの凄く腹がたつ…が、そうやって笑っていられるのは今のうちだ。
 腹部の痛みが引き、なんとか起き上がる。


「グゴ?ギィギグゴ!」
 なんだ?まだ生きてたのか。とでも言っているのだろうが、関係ない。
ゴブリンリーダーを睨み付けると、その表情に腹立たせたゴブリンリーダーが此方に向かって走り出す。
「ギャギャギィ!!」
  叫び声を上げながら、剣を今度は上から下にと縦振りしてくる。
飛びかかりながら繰り出された縦振りは、驚異的な速度を持っているが─
  俺はこれを待っていたんだ。
ニヤリと口元を緩め、ゴブリンリーダーの横に回れる様にローリングで回避をする。
これはサバゲーでも使用したことがある回避方法だ。障害物と障害物の間を移動したりするときに、カッコつけてやったことがあったが…こんなところで使えるとは思わなかった。
 かなりの力で地面に打ち付けられた刀は地面に突き刺さり、ゴブリンリーダーは身動きが取れない状態に陥る。
 ローリングで回避をした先で、すぐにマテバを構えゴブリンリーダーの顎に銃口を突きつける。
「チェックメイト…なんてな。“魔弾”」
  ゼロ距離で発砲された、魔弾はゴブリンリーダーの顎の骨から頭蓋骨を砕き、そのまま空へと向かっていき、数十メートル上空で消える。
「グ…ゴ………」
  なん…だと?ってか?
マテバの銃床でゴブリンリーダーの頭を殴り…地に伏せされる。
倒れたゴブリンリーダーはもう二度と起き上がることはなかった。
  
「リョウ〜!!」
「リョウさん!大丈夫ですかっ!」
  二人の声が聞こえた。
その声に応じる様に手を上げようとするが、身体が思うように動かない。
俺の身体は鉛の様に重く、意識が遠のけていく…。
 ───初回で飛ばしすぎたからかなぁ…、慣れないことはするもんじゃないなぁ…
暗くなる意識の中、最後に見えたのは俺に駆け寄ってくるアリア達の姿だった。

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