長日月の守護者

嘉禄(かろく)

一つの体に複数の想い

「…俺は、井伊家に伝わる刀からなる…名前は無い。
だが、貴方を守る…その為に俺はここにいる。貴方が俺を呼び起こした、貴方が消滅するまでお傍に…」


俺の前に膝をつくその存在を見て俺は暫くポカーンとしていたが、ややあって意識を取り戻した。


「井伊家に伝わる刀…?俺を守る…?
と、取り敢えずこんなところで話すのもなんだし俺の部屋についてこい。」


俺がそう言って宝物庫を出て歩き出すと、そいつも立ち上がってあとをついてきた。
戻る途中でおじい様と父さんとすれ違った。


「おや環、帰っていたのか。…その後ろの、目覚めさせたんだな?」


おじい様がそう言ってきたので、俺は混乱を押し付けるように矢継ぎ早に質問した。


「おじい様、こいつは何者なんですか?!
井伊家に伝わる刀からなるとか、俺が消滅するまで守るとか言ってますけど…!」


そんな俺をおじい様はにこにこしながら見つめて答えた。


「その言葉の通り、古くから井伊家を守ってくれている者だ。
ただし目覚めさせられる者は文献にもそうそう残っていない。
流石は環、井伊家の血を濃く受け継ぐ者よ。はっはっは」


…おじい様がそう言うなら、こいつは本当に守護者なのか…父さんは何か知らないのかな?


「父さんもこの守護者のことは何か知ってるんですか?」
「…守護者の話は聞いたことがある、だがそこにいるのか?」
「…もしかして見えてないんですか?」
「真琴には見えていないようだなぁ、見える者と見えない者がいるというのも本当のようだ。ひとまず部屋に戻りなさい。」
「はい、失礼します…」


俺は守護者を連れて部屋に入った。
俺が座るもそいつは部屋の隅に立っている。
もしかして、全て言わないといけない感じか…?


「…ほら、突っ立ってないで俺の前に座れよ。色々聞きたいことあるからさ。」
「わかりました…」


俺の前に座ったのを確認して、いざ話そうとしたら何を聞こうか全く考えていなくて沈黙がその場を支配した。
いや、この謎多き存在のことは知りたいんだけどどう聞けば知ることが出来るのかが分からない。

少し考えた結果、一つだけ具体的な質問が思い浮かんだ。


「…お前、随分言葉拙いけど…ちゃんと話せないのか?」


そう問いかけると、守護者は首を傾げた。


「…ちゃんと…?俺は、井伊家の刀の寄せ集めで出来てる…だからそれぞれの刀に宿ってる心がごちゃごちゃになって…っ!」


そこまで答えたところで守護者がうずくまる。
苦しそうに喘いでいて、俺は慌てて近寄った。


「だ、大丈夫か?!どこか痛いのか、苦しいのか?!」
「…だい、じょうぶ…いつものこと…寄せ集めだから、安定しないだけ…」


守護者は少し落ち着いたのか体を起こして再び座った。
寄せ集め、その心が複数宿っているせいで安定しない…どうしたら安定するのか…?

俺は暫く考えたが何もいい案が浮かばなかったので、一先ず守護者の様子を見て馴染みながら考えることにしようと決めた。

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