俺、元日本人のガチ神だけどY◯uTuberになるね!
第48話
「ウオラッ!! 2万PVで477円でなんだオラっ!!」
『どうされました? 』
「あ、いやアラレちゃんの過去作、一個だけ小説サイトに投稿したんだけど、1PV0.1円とか言ってんのに、クソが……」
『お小遣いに困らせてはいないはずですが?』
「発言が嫁」
まぁ、気にしないでくれ。
早速山野さんを引き連れて名古屋に転移、スタジオになる予定の雑居ビルの下見にきまんた。
「空調は古くなっているので最新の物を。後フロアタイルよりはカーペットやクッションフロアの方がいい。広さは申し分ないけど、一度外に出て下の階に行くのは良くない。フロアからそのまま登り降りできる方がいい」
極力お金を使うべくして動いているが、山野さんがうるさいのでテキパキとその場で改造して行く。
外はボロい雑居ビルでも、中身は何処ぞの一流オフィスだ。
「後はビルの外観だな。二階の胡散臭い探偵事務所は仕方ないとしても、こうもボロボロなのはよくない。お前の力でジブ◯みたいにはできないのか?」
「植物で覆っちゃえばいいの? 簡単だけど」
「窓はちゃんと退けるんだぞ。カーテンはするが、朝から真っ暗で蛍光灯だと気が滅入るからな」
もう言われるがままに為すがままである。しかし彼女がいれば、ある程度土台が出来たら丸投げでいいと考えると非常にいい買い物だった気がしないでもない。
「うん、これぐらいでいいだろう。しかしお前は面白い事を考えるな。私は海外の原作者を募る話は面白いと思ったぞ。作者の生命線としての書籍化は必要だとは思ったが、アイデアとしては悪くない」
「これはこれは山野さんにそう言ってもらえると嬉しい限りだよ」
「そう茶化すな。いいか、その計画を成功させる為には、お前が提案した全てが必要になる。絵を描けるロボットなんて作れるなら勿論、エルフやハーフリングの人材、更にはハイヒューマンとやらだ。これら全ての要素があって、計画は円滑に進む」
俺エルフとかハーフリングの話したっけ? まぁ、いいや。それは元々考えていた事だし、エルフなんて幾らでも創れるから問題ない。
「最初は動画作業の外注を貰うぐらいしかないだろうが、どうせならアニメを完璧に作れてしまうようになった方がいいだろう? 絵コンテからダビングまで全てだ」
「出来るに越した事はないだろうけど、声優さんやらの兼ね合いもあるし動画として仕上げるまでが第一段階だろ」
「そうだな。でも視野に入れておいた方がいい。アニメを完璧に作れるようになってこそ、計画がモノになる。適当に声優を選ぶなんてダメだぞ。プロは文字通りにレベルが違う」
あーでもないこーでもないと話しを突き詰めて行った結果、何故か俺と山野さんは二階の探偵事務所のドアをノックしていた。
「ん? なんだお前ら」
中から出てきたのは一昔前の探偵のようなヨレたおっさんである。
最近は何処にでもいる普通の人を極めなければいけない探偵が、こんなあからさまに胡散臭いおっさんでいいのだろうか? 
「はじめまして。申し訳ありませんが、引っ越し費用も次の契約諸々、勿論迷惑料も全てお支払いしますんで、このビルから出て行って下さい」
ンバッと頭を下げると、それに続いて山野さんも頭を下げてくれる。
山野さんがあまりにシツコイので、本格的なスタジオ機材を入れようとなったが、それをするならワンフロア足りないとの事で、探偵事務所に出て行って貰おうと頼みにきたのだ。
「やなこった。ここらでこの広さで、この家賃なんてのはねぇんだよ。長年住み着いて愛着わいてるしな」
「じゃあ次のオフィスの家賃は、ここの金額からはみ出た分は全部払います。ですので出て行ってください」
「だから嫌だっつってんだろ!」
バァン! とドアを閉められちゃいました。こうなってしまったら、仕方ないけど増築する他あるまい。
最終手段だと封印していたが、先ずはボロいビルなので鉄筋の数を全体的に増やし、十分に補強した状態で、屋上から寄生する形でビルの階層を増やして行く。
周囲に空いているスペースがあらば、ターミナルタワーのように四つ足を伸ばして補強してしまうんだが、ここら辺は建物が古くて密集してしまっているから我慢だ。
「なんだ、最初からこうしたら良かったじゃないか」
「あんまりやたらめったら使うもんでもないだろ」
「何をいまさら」
確かに今更な話だが、二階を買収して済んだなら、それに越した事はなかったはずだ。
二階の探偵が曲者っぽいのが気になるが、物理的に排除するのも難しいので我慢するしかない。
「うん。これでデスクや機材が揃えば問題ない。次は私の家だ。案内しろ」
なんでこんなに強気なんだろう。
全然いいんだけどね、なんか上からなのにフレンドリーな感じだし文句はない。
スタジオのビルから出て、パラ子に案内されるがままに進んで行くと、どこにでもあるような一軒家に辿り着く。
『山野さんは神経質なので一軒家にしてみました。ここは馬鹿なオーナーが悪知恵を働かせて、古くなった家をリフォームして賃貸に出したのですが、入居がないままに捨て値で売りに出された鼻で笑ってしまうような物件です。躯体は古いですが、中は綺麗なのでご安心を』
「悪くない。職場からも近い。コンビニもスーパーもあるし、立地は抜群だ」
『高齢化による弊害でしょう。都心に近いにも関わらず、このような物件が数多くありましたので、一応購入はしております。他にも見てみますか?』
「いや、ここでいい。これからここは私の家だ。住所だけわかればいい。おいカミ、東京におくってくれ。引っ越しを済ませたら出社する。それまで予定通りに頼むぞ」
はいはい、と軽い返事をして東京へ送り返す。予定通りと言われても、後はデスクやら機材やらを……はぁ、雑用ですね、はい。
ノートに書いた間取りの通りに設置しておけと言うなら、ちゃんとやっておきますよ。
「後はオートメーションのロボットは動画作業を熟せるだけで十分だと言っていたな」
『それでは作業型アンドロイドをお造りください。メカメカしい機械をモノモノしく並べ、毎度プログラムするよりは、口頭で伝え私が感情の機微を察して作業した方が皆もやりやすいでしょう』
おけ。じゃあその方向で、動画作業フロアは全てパラ子のアンドロイドで埋めておこう。
「これなら全部お前が描いたらいけるんじゃね?」
『ヤタ様のアンドロイドの能力と原画があれば、と言っておきましょうか。しかし魂を込めてキャラ作りなどはできません。それは正しくクリエイターと呼ばれる人種の特権そのものでしょうか? ヤタ様にファッションセンスが無いように、私は絵のセンスが壊滅的なのかもしれません』
「うわぁ、それすげぇわかる。なまじっか考え込んだら何万通りも脳内で試せちゃうから逆に難しいんだよな、俺の場合」
『私もそうです。原作を読んでキャラのイメージは浮かびますが、全ての言動などを鑑みて実際に浮かび上がった想像を絵に起こすと、この世のモノではない怪物になってしまいます』
神と言えどなんでもできるけど、なんもできない場合もあるってコトだね。
セリカなんかも水の権能持ってるから料理とか全部水になっちゃうって、コレもどっかで見たな。
まぁ、何にせよ得手不得手があるわけですよ。
「じゃあ、荷物届いたらパラ子ロイド達で受け取りとか並べるのやっててもらっていい?」
『勿論です。ついでにスタッフの家の手配等諸々もしておくので、営業開始時にエルフを連れて来て下さい。ハイヒューマンへの改変もその時にお願いします』
よろしく頼む。
じゃあ後は社長挨拶に訪れたらいいだけの簡単なお仕事ですね。
これでアニメ業界が良い方に転がれば嬉しい。
事業規模は随時拡大して行こう。
業界全てをカバーして、更に独立してスタジオを構えられるぐらいの人材が育っていけば、アニメ原作の投稿サイトなんかも本格始動させられるようになるだろう。
週間アニメで劇場レベルのクオリティとか出すのが、とりあえずの目標だ。
採算度外視の恐ろしさを身に刻むが良い。
「隣のビルは空いてないの?」
『購入メリットがありません』
さて、小鳥遊メールについては解決という事で、久々にチビ達にでも会いに行こうか。
と、言っても平日の真昼間から会える奴なんてこいつぐらいなんだけど。
「やぁ、ゲニ。調子どう?」
「別に。誰かさんがアニメの違法サイトを作ったお陰で勘繰った馬鹿が投げ売りしてくれて小銭儲けたぐらいかな」
「株かぁ。そんなのパラ子にやらしときゃいいだろ」
『その言い方は失礼ですが』
「その逆でも儲かるんだから勿体無いじゃん。それにパラドックスはインサイダーばかりで時世が読めてない」
『楽勝読めるっちゅうねん』
こいついっつもホシバでPC弄ってるけど、ちゃんと畑仕事とかもしてるんだよ。朝4時ぐらいに起きて、仲間と草毟りして、朝食はみんなで食べてから、日本語の授業を受けて、午後はサボり。
サボりって言うか、既に中学までの数学は完全にマスターしちゃってんだよ。
教科書やらネットやら使って勉強しまくって、休憩がてらに金儲けを画策して、今は本気で金儲けに走ってる。
「そんなに稼いでどうすんだよ」
「ツトムが言ってたんだ。お前がすごいのはわかったから、一流のサッカーチームと野球チームのオーナーになってみろって。大金持ちってそう言うコトだろって。だからなってやろうと思って。それに簡単に稼いでるわけじゃないよ? 神経と脳みそ削りまくっても失敗したりする。だから面白い」
「ツトムって、ずっと走り回ってるアホの子だろ? ムキにならねぇでもいいんじゃね?」
「ツトムがアホだなんてとんでもないよ。彼は本当に尊敬できる人物だよ。ツトムがあのまま大人になるなら、俺は是が非でもビジネスパートナーにしたいね」
本当子供らしくないよなコイツ。
なんか達観しちゃってるって言うか、日本に来てから更にそれが増した。
株やらFXやら仮想通貨やらのチャートと睨めっこし続けて、パチンコで儲けた奴らが遊び半分にやらせたらガンガン利益だして、次第にサラリーマンやらも寄ってたかって子供先生なんて呼びはじめて、お小遣い貰って運用して金儲けしちゃってるんだから凄まじい。
「早く帰りたいか?」
「まさか。こんなチャンスを逃すなんてとんでもないよ。それにネモのこれまでの行動を調べたけど、それで確信した。何がなんでも日本人になりたいってね」
確かに俺の日本贔屓凄いからなぁ。
こいつみたいに未来を見据えて金儲けしてる奴からしたら、国籍を捨てるような振り切った答えに単純に辿りつくのかな?
「だからネモは早く学校のみんなが日本国籍を貰えるように頑張ってね。じゃあ、今日は午後の花摘みに出る約束してるから行くね」
「株でそんだけ稼いでる奴が二足三文の花摘みってのも笑えるな」
「そんな事ないよ。俺たちのバックマージンが少なくても、エルフの花は凄く人気があって高値で売れる。花屋さんも儲かるし、学校の運営費にもなる。いい事尽くめだよ」
PCをバッグに片付けて、ホシバの窓を開けると甲高い指笛を鳴らす。
すると中学生ぐらいの黒人の子供が飛行バイクで横付けし、ゲニの腕を引っ張りながらにケツに乗せる。
「お前確かオーストラリアの」
「はい。ゲニの専属運転手してるんです」
それには流石に頭を抱えてしまった。
先輩を雇っているとか横暴も過ぎる。
「おいゲニぃ」
「適材適所でしょ? 彼は飛行ユニットの運転を怖がっているお婆ちゃん先生の送り迎えを条件に飛行バイクを手に入れた。朝と放課後以外は時間が空いているから、微々たる報酬と勉強を教える条件で契約した。ほら、みんなハッピーだ」
そう言ってゲニが下手くそなウィンクをすると、黒人ボーイは空気を読んでアクセルを回す。
白い粒子を噴出しながらに消え去るゲニの背中を見て、何故か深い溜息が出てしまったのは仕方ないと思う。
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