錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

記憶3

 感動は涙へと形を変え佐城さじょうの瞳から零れ落ちる。それを魔来名まきなは不思議がり質問する。佐城さじょうは熱い胸の痛みを覚えながら口を開いた。

「あなたは……、それほどまでにっ! 家族を救えなかったことを悔いていたの?」

「…………」

 返ってきた答えに魔来名まきなは閉口する。どう返せばいいのか分からない。

「かつてのあなたは兵士だった。戦争を戦ったの、たった一人の家族を助けるために。だけど……!」

 そこで佐城さじょうの顔が歪む。鋭い痛みに襲われているのか、胸を掴み、悲しそうに言葉を吐いた。

「あなたは、その家族を失った……。空襲で弟を失って……!」

「…………」

「それを聞いて、あなたは暴れたわ! 私たち数人係りで抑えてもあなたは暴れ続けた。泣き叫んで、夜中もずっと! そして翌朝からあなたは話さなくなった。いつも続けていた鍛錬もしなくなって、まるで死んだように、何も、しなくなった……!」

 当時の彼を思い出し、佐城さじょうの感情が高ぶる。何度も涙を拭き取るが、止まることなく溢れ続ける。

「そして、終戦の日。あなたはベッドの上でラジオから聞こえる放送を聞いていた。その時のあなたの様子を、私は今でも覚えてる!」

 佐城さじょうは語る。思い出の中の彼を。その時の様子を。鮮明に。まるで、昨日のことのように。

「あなたは、怒りに狂った。悔しさに震えていた。何度も何度も、怨嗟のように、悔しいと呟いていた。だけどそれは戦争に負けたからじゃない。あなたは、弟を守れなかった。挙句に、戦争にまで敗北した。そんな自分が許せなかったのよ!」

 佐城さじょうの力説を、魔来名まきなは黙って聞いていた。

「そして、あなたは亡くなったわ。傷が悪化して。あなたはその日のうちに、憤死した……。死に際に、あなたは何度も呟いていた。最後は激情のあまり掠れて聞き取れなかったけど。だけど、今なら分かる。あなたがなんて言っていたのかを」

 唯一の家族を守れず敗北し、死に至るほどの悔恨の念を抱いた男の言葉。それは――

『力が欲しい』

 力さえあれば、守れた。勝てた。個人ではどうしようもないとしても、それでも力があれば守れたかもしれない。

 自分には力がなかった。助けられるだけの力が。だから、成すべきことが成せなかった。

 無力では何も守れない。無力では何も成せない。誓いや約束すらも。

 大切な仲間、家族すら――

「そう言い続けて、あなたは死んだの。たとえ前世の記憶がなくても、あなたは魂にまで刻まれた、その時の気持ちを覚えている。強い感情は時に魂に残るのよ」

 説得するように佐城さじょうは話しかける。分かってもらえるために、懸命に伝える。

「私は気が付いた時から誰かを愛していた。それが一体誰なのか、何故愛しているのかずっと疑問だった。この気持ちの正体を知りたくてずっと考えていた。そして思い出したの、前世のことを。記憶がなくたって、魂に刻まれた感情を辿っていけば、きっと気が付けるはず。私に出来て、あなたに出来ないはずがない! あれほどまで家族を思い、戦ってきたあなたなんだから! だから、考えて。あなたが何故力を求めるのか。なんのために力を欲しているのかを……」

 彼女の願いは真摯であり何より強かった。佐城さじょうの瞳が、力強い視線となって魔来名まきなに向けられる。だが、

「過去のことなど、今の俺には関係ないことだ」

 魔来名まきなは一蹴した。そのまま顔を正面に向けると佐城さじょうを無視して歩き始める。

「待って!」

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