錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

記憶2

「あなたは、覚えてないの?」

「知らん。どうでもいいことだ」

 佐城さじょう魔来名まきなを見上げるが、そこにいる男は目を逸らす。横顔には不機嫌とまるで書いてあるほどにイラついていた。

 それでも、佐城さじょうは構わず話し続ける。

「私は覚えてるよ、あなたのこと……」

 慈愛に満ちた、温かい声で佐城さじょうは話す。両膝を抱えた両腕に少しだけ力を入れて、顔を前に倒した。

「昔のあなたは兵士だった。年は今と同じくらい」

 思い出を語る佐城さじょうの目は細められ、前世の記憶を愛おしみながら語る。反対に、魔来名まきなはつまらない演説のように聞き流す。

「当時は第二次世界大戦中でね、私は看護婦だった。あなたは戦争で片腕を失くして、それで私がいる療養所にやってきたの。あなたは今と同じで無愛想な人だったな……。挨拶をしても返してくれないし。私がせっかく折った千羽鶴を渡しても笑ってもくれない。それで決まってあなたが言う台詞が、男児は気安く女に礼など言わん、って。強情な人だった」

 懐かしい出来事を振り返り佐城さじょうが小さく笑う。当時は不満に思ったことも、今から見れば大切な思い出として輝いていた。

 佐城さじょう魔来名まきなの外向性のなさを笑ったが、すぐに表情を戻し、嬉しそうに微笑んだ。

「でも、冷たい人じゃなかったよ。千羽鶴だってちゃんと飾ってくれた。大切に扱ってくれた。嬉しかったよ。たった、それだけのことで……」

 当時を懐かしく思い、佐城の瞳にはうっすらと水滴が浮かんだ。

「無愛想で強情で。でも、優しい人だった。人と話すことをあまりしない人だったけれど、話となれば、いつも話してくれたのは故郷に残した弟のことだった。あなたは、弟のために戦っていたんだよ? 思い出せない?」

 佐城さじょうは振り返り、傍らに立つ男に呼びかける。必死に。懸命に。願いを込めた瞳で魔来名まきなを見つめる。

 しかし、魔来名まきなは言葉を言い捨てると歩き出した。

「言いたいことはそれだけか? だったら消えろ。世迷言もそれまでだ」

「待って!」

 佐城さじょうも慌てて立ち上がり歩き出している魔来名まきなを呼び止める。魔来名まきなは足を止め、顔だけを佐城さじょうに向けた。

「あなたは、今のあなたは何のために戦っているの!? どうしてセブンスソードを!?」

 佐城さじょうは知っている。かつての魔来名まきな正一まさかずという男が第二次世界大戦をなんのために戦っていたのかを。しかし、今の彼のことは分からない。

「決まっている。力を手に入れるためだ」

 そんな佐城さじょうの心情に構うことなく、魔来名まきなが放った言葉は具体性に欠ける答えだった。それで佐城さじょうはさらに問い詰める。

「弟を斬ってまで!?」

「弟? 奴はただの敵だ。そして、俺の糧に過ぎん」

 だが、返ってくる答えは変わらない。愚直なまでの力への求道。力を求めることが存在意義のように、口から出てくる答えはそれだけだ。

「何があなたをそこまで変えたの!? 力? それを求めてどうするの?」

「何故? フッ、目的など存在しないさ」

「目的が、ない……?」

 魔来名まきなの答えに佐城さじょうは戸惑った。殺し合い。それは避けられるものならば誰しもが避けたいはず。なのに目的がないとは、佐城さじょうはすぐには納得出来なかった。

「世の中は力こそが全てだ。それがなければ何も成せない。お前こそ理解しろ。無力とは、無価値に等しいとな」

 魔来名まきなは己の拳を見つめた後、佐城さじょうを見ながら諭す。痛烈な視線が佐城さじょうに向けられ、佐城さじょうは口を閉ざした。

 驚愕したのか、表情はみるみると変わっていく。

 だが、それは分かり合えないことへの絶望ではなかった。ここにきて、佐城さじょうはついに納得したのだ。

 目の前にいる男。魔堂まどう魔来名まきなという、あまりにも純粋で真摯な男に、感動すら覚えていた。

「……何故泣く?」

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