錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

安神日向2

 だが、突如日向ひなたは大声で叫んだ。理由がまるで分からず日向ひなたを見つめる。

「私は、そんなんじゃないんです……」

 その後俯いた。けれど、震える声から日向ひなたが泣いているんだと分かった。

「なぜだ?」

 聖治は日向ひなたを優しい子だと思う。気が弱いところはあるが、明るくて、誰にでも笑顔で接せられる良い子だと。

 けれど、日向ひなたは違うと涙を流しながら否定した。

「私は優しくなんかない、お姉ちゃんみたいに立派じゃない! 私は、本当は……!」

 布団を掴む手に力を入れて、そして、小さい声で言った。

「私は、嫌な子だよ……」

 その言葉に、どれだけの思いがあっただろう。聖治には分からなかったが、考えるよりも早くに言っていた。

「そんなことない! 俺は日向ひなたをそんな風に思ったことはない。此方こなただって、日向ひなたのことを大切に思ってる! 良い子だって、感謝してるって、あいつは本気で言ってた。日向ひなたに救ってもらえたって」

「違うの! そんなんじゃない!」

 聖治は否定するが、けれど日向ひなたは首を振った。

「確かにそう。私は昔、お姉ちゃんに接したよ。お姉ちゃんと呼んで、何度も近づいたよ」

 それは自己嫌悪からくる怒りだろうか。日向ひなたは勢いよく話していった。

「その時、ひどいことを言われたこともあった。だけど、私は笑顔で近づいた。どうしてか分かりますか……?」

 日向ひなたはとたんに静かになり、涙で濡れた目で聖治を見つめてきた。

「怖かったんです……。いつセブンスソードが始まって、襲われるか分からない。だから一人が嫌だった」

 自分自身が悔しくて仕方がない。嫌いで仕方がないと。日向ひなたは笑顔の裏側で隠していた心の声を吐き出していく。

「悪口を言われても笑顔で近づいたのも自分のため。ひどいことをされても近づいたのも自分のため。すべて一人が怖かったから。私は……!」

 日向ひなたは俯き、頬を伝って涙がスカートに落ちた。

 此方こなた日向ひなたに抱いた優しいという印象。自分がどれだけ嫌っても笑顔で接してくれた妹。けれどそれは日向ひなたの打算だった。

 姉妹を姉妹として結びつけていた感情は、その実、恐怖だった。

「私は怖がりで、自分のことしか考えられない、嫌な人間だよ! 守られる価値なんて、そんなのない。そんなの、ないんです……!」

 それが真実。そしてそれが日向ひなたを苦しめていた。負い目になっていた。自分を本気で心配してくれて、自分のために戦ってくれる姉。

 それに比べて自分では何もしない妹。姉が自分に抱いている感謝だって、本当は自分が救われたかっただけ。

 自分を嫌いにならずにはいられない。責められずにはいられない。でも、それ以上に死ぬのが怖い。だから、さらに悔しい。

 日向ひなたは今も泣いている。自分が嫌いで、泣いていた。

「……そうだとしても」

 日向ひなたの気持ちは聖治にも分かった。だが、その上で切り出した。

「俺は、二人は立派な姉妹だと思う」

「……え?」

 聖治の声に日向ひなたは泣き止み、俯いていた顔を上げた。

「いいじゃないか、怖かったから縋ったって。そんなの誰だって当然だ。恥じることじゃない。それに、気持ちがどうであれ、日向ひなた此方こなたを救ったんだよ。それで此方こなたは感謝してるんだ。なら、それでいいじゃないか。二人を見ていて俺は思ったんだ。本物とか偽りとか関係ない。二人は、本当に仲の良い姉妹だな、って」

 その時、聖治は昨夜香織かおりさんとした話を思い出した。

「本物、じゃなくたって……」

 聖治は言うか迷ったが、思い切って言うことにした。

香織かおりさんが言っていたんだ。俺たちスパーダには前世があるんだって。そこで俺と……、魔来名まきなが兄弟だった、と」

「え!?」

「だが!」

 日向ひなたが驚く。当然だ。それを遮るようにして聖治は続ける。

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