錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

安神此方2

「う、うう……!」

此方こなた……」

 此方こなたは両目から溢れる涙を拭い始めた。

 それを悔しそうにしているが、それでも涙は止まらない。幼さを残す少女の顔が涙でしわになっていく。

「そうよ、辛いわよ! 目の前で人が死んでしまった。地面に血が広がって、血の臭いが広がって。もし、次が私だと思うと……!」

 此方こなたの声は、震えていた。

 そんな姿の彼女を見て聖治は思い知らされる。

「怖い、怖いよ……」

 いつも妹を守るために気を張っているから間違えそうになるが、此方こなたは必死なだけで年下の女の子だ。

 しっかりしているその裏側では本当は怯えていたのかもしれない。いや、それが普通だ。

 誰だって、殺し合いなんて言われれば、怖いに決まっているのに。

 それを隠して、今まで此方こなたは頑張ってきたんだ。妹を守るために。

「私は日向ひなたを守らないといけなくて、しっかりしてなくちゃいけなくて。だけど、辛い時だってあるわよ! ねえ、しっかりしてなくちゃ駄目? 日向ひなたのお姉ちゃんで、誰にも甘えちゃ駄目なの? 私だってねえ!」

 叫ぶ此方こなたの声は震えていた。見れば、力強かった両手も震えている。

「甘えたくなるわよ。少しぐらい、……少しぐらいいいじゃない!」

 そう叫んだ後此方こなたはすすり泣きしていた。

 今まで辛い思いを我慢してきたのだろう。それが昨夜の事件でついに弾けた。

 彼女だって、本当は怖かったのだ。

 それを聖治は理解した。普段気が強くても、必死に妹を守るしっかり者のお姉さんでも。恐怖して当然なんだと。

 だから聖治は腕を回した。

「え?」

 此方こなたを抱き締める。

「すまなかった。お前のこと、なにも考えてあげられなくて」

 突然抱きしめられたことに此方こなたは少し驚いたようだったが、すぐに緊張は解けていた。

「辛いに決まってるよな。当たり前だった。俺たちは錬成七剣神セブンスソードに巻き込まれ、いつ殺されるか分からないんだから。怖いに決まってる。俺も。みんなも。お前も。誰だって」

 此方こなたが震えているのが分かる。抱き締めればその体は小さくて、柔らかくて、普通の女の子だと否応いやおうにも伝わってきた。

 彼女が零した初めての弱音にだって共感できる。だから聖治も本音を言った。

「あんたも、怖いの……?」

「怖いさ」

 いつ殺されるか分からない。そしてこれ以上仲間を失うかもしれないことも。

 けれど、絶望しかないと思われたその時、聖治は言った。

「でも、一人じゃない」

 確かな事実を。

「俺は今だって力を合わせればなんとかなるって信じてる。最悪の未来を回避するために」

 希望はある。

 そう信じている。

 こんな時でさえ。

 それが、剣島聖治の強さなのかもしれない。

「最悪の未来……」

 聖治の言葉を聞いてどう思ったか、此方こなたの声に寂しさはいつしか消えていた。

「うん、そうね」

 聖治は此方こなたが泣き止むのを見計らって腕を放した。

「ありがと……」

「そんなことない。俺は何も」

「ううん。十分」

 此方こなたは目尻に残った涙を拭きながら、静かにお礼を述べた。

「ずっと思ってた」

「ん?」

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