錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

再会1

 魔来名まきなは一人で廃墟の道を歩いている。彼の靴音が静寂の街に響く。

 しかし、そこに別の足音が加わった。

正一まさかずさぁあん!」

 魔来名まきなは足を止め振り返る。そこにはスパーダの一人である女性が立っていた。高校の制服に長い黒髪が揺れる。

 ここまで走って来たのか、肩を大きく上下させながら息を整えていた。

「……お前は」

 目の前にいる相手は知っている。光帝こうてい剣と撃鉄げきてつの使い手たちと一緒にいた女だ。ただ、自分を正一まさかずと呼ぶ不可思議なスパーダだが。

 しかし、それよりも重要なのは目の前にスパーダが現れたという事実である。ならばやることは一つだけ。殺して奪う。相手もそのつもりだろう。

「そうか。仇を取るため追ってきたか」

「違うわ!」

 だが、魔来名まきなの言葉を女は否定する。それも力強く。予想していなかった答えに魔来名まきなの眉が曲がる。

「私はあなたを倒しに来たんじゃない。あなたを説得しに来たの!」

「…………?」

 言っている意味が分からない。魔来名まきなは迷うが、しかしそれも不要なことだろう。そもそも斬れば済む話。魔来名まきなは右手を天黒魔あくまに伸ばそうとするが、

「…………」

 自然と、その気にはなれなかった。それを自身でも不思議に思った。

 エルターの時は試してみたいという気持ちだけで刀を取れたというのに、本命を目の前にして斬る気になれないとはどういうことか。

 魔来名まきなは、己の不可解さに思考が鈍っていた。

「それよりも、腕!?」

「ん?」

 魔来名まきなは女の視線が右腕の傷に向けられていることを察し腕を持ち上げる。そこからは今も痛々しいく血が滴り落ちている。

「待って、今治すから」

「おい、余計な真似は――」

「黙ってて!」

 魔来名まきなの言葉を遮り女は近づくと天黒魔あくまの柄に触れた。魔来名まきなも女の接近に危機感が過ったが、女の敵意のなさと、

「…………」

 あまりにも真剣な表情に、咄嗟の反撃が取れなかった。

治神ちしん織姫おりひめ

 女は天黒魔あくまに触れると手の平を通じて天黒魔あくまが輝く粒子に包まれていった。

 瞬く間に鞘全体を包み終わると、一際強く光った後、そこには別の鞘に納められた天黒魔あくまがあった。

 漆黒の色に滑らかな表面。そこまでの変化は見られないが、一点だけ以前とは違うものがある。

 鞘の口に、十羽ほどの千羽鶴が仲良くぶら下がっていた。だが、本当の異変はこれからだ。

 魔来名まきなの傷口が治っていく。出血はなくなり痛みも引いていく。魔来名まきなは袖を捲り肌に付いている血を拭うと、そこにはあるべき傷がなかった。

 背中の痛みも引いており、コートの上から触ってみるがどこに傷があるのか分からなくなっていた。

「……これは」

「これが私のスパーダ。傷を治す力があるの。良かった、役に立てて」

 そう言いながら女は天黒魔あくまから手を離す。表情はほころび、本当にホッとしているようだ。

 鞘は粒子が剥がれ落ちるように霧消し本来の鞘へと戻っていた。

 それを確認してから魔来名まきなは再度女を見る。敵である、ましてや仇である自分を治して安堵している女の考えが読めない。

「……何故俺を治した。どうやってここまで来た」

 疑問が口をいて出る。考えれば、初めからこの女は不明な点が多い。

「居場所はすぐに分かったわ、あなたのスパーダに触れたから」

 どうやら触れたスパーダの居場所なら離れていても分かるらしい。自分の浅はかさをこの時は魔来名まきなも反省した。

「ねえ、今でも思い出せない?」

 そんな心の隙を突くかのように女は声を掛ける。

「前世のこと。あなたのこと、そして――」

 女は魔来名まきなに歩み寄る。あの時と同じように。

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