錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

第三章 それに、あなたは苦しむでしょう

 水門みなと市中心部の華やかさとは反対にここは暗く陰湿な場所だった。中心部の発展とは対照的に人々から見放された外縁部の廃墟街。

 道は土がむき出しであり辺りには風化した建物が墓標のように立っている。無人の静けさに夏の生暖かい風が暗がりを撫でる。

 そこを、魔堂まどう魔来名まきなは歩いていた。

 夜でなお輝く金髪。闇に浮かぶ純白のロングコートが揺れている。

 その姿に、セブンスソード第一戦の疲れは見えない。

 彼は二人を殺害し無言の勝利を持ち帰った。凱旋だ。けれども当の本人は氷細工のような表情を浮かべるだけだった。

 そこへ声が掛けられる。

「まずは二人を撃破、おめでとう。けれど良かったの? せっかくの戦利品をみすみす置いていくなんて」

 甲高い声が夜空から降りてくる。魔来名まきなは建物の屋上を見上げた。

 そこには満月を背負い、漆黒のコートを身に纏った人物がいた。フードを目深に被った出で立ちに顔は見えないが、紫色の前髪が僅かに見える。

「俺に何のようだエルター」

 その人物に魔来名まきなは無愛想に声を掛け、エルターと呼ばれた女性はフードを捲った。

 紫色の長髪が闇夜に踊る。赤く大きな瞳は妖気を放ち、隠された素顔を晒しただけで存在感が広がる。そこには美麗ながらも色気を湛え、それ以上に危険な香りを振り撒く女性がいた。

「いえ、初戦から順調そうでなにより、と伝えたかっただけよ。
 ただ、目的を失念していないか不安になってね。あなたが成すべきことはセブンスソードを生き残り殺すことだけじゃない。
 相手の魂、スパーダを奪わなければ意味がないのよ。まさかとは思うけれど、忘れていたなんてことないでしょうね」

 表情はそのままにエルターは魔来名まきなに問いかける。
 
 さきほどの一戦、魔来名まきなは殺した相手からスパーダを回収せずそのまま帰還した。スパーダの回収こそが目的であり力を得るための手段。

 故に、魔来名まきなは勝利したが前進したとは言えなかった。

「奴らのスパーダは直に見た。あの程度、捨て置いて問題はない。それ以上にあそこに長居したくなかった。それだけだ」

「分かっていないわね。スパーダとは回収する事に段階的にリミッターが外され成長を遂げるもの。次に会う時、あれら二つを持つ者は依然よりも強いわよ? 言い換えれば、あなたが強くなれたの。だというのにあなたは――」

 エルターの追及が続く。それだけ魔来名まきなの行動が気に入らないのだろう。言葉の節々から罵りの念が伝わってくる。

 だが、それはこの男には余計なことだ。

「そこまでだエルター。それ以上愚弄ぐろうするか」

 魔来名まきなはエルターの背後に立ち、刀を彼女の肩に置いたのだ。

 エルターがいる建物は三階建て。その屋上ともなれば十メートルはある。その高度と距離を一瞬で走破し、魔来名まきなは苛立ちを含めた口調と共に刃を向ける。

「言ったはずだ、問題ないと。三本を持つ者を斬った後、全てを俺が回収すればいいだけの話だ」

「そうだったわね」

 刃を首筋に当てられるがエルターに動揺はない。それどころか余裕の表情で聞いてくる。

「ただ、ずいぶんと自信があるようだけれど、己の力を過信しているのでは? 前回は大目に見てあげたけど……、ねえ魔来名まきな。……貴様、誰に向かって剣先を向けている?」

 エルターの雰囲気が変わる。妖然としていた態度に怒りが混じっていく。

「未だに一本しか所持していないスパーダが、魔卿まきょう騎士団幹部に勝てるとでも? 生まれたばかりの子供が。ねえ坊や、我々を愚弄するのもいい加減にしてちょうだい。今すぐそれを下ろしなさい」

 放たれるオーラは威圧的であり肌を刺すほどだ。そこには歴戦の戦士としての貫録と威厳がある。

 見た目からは二十代そこそこのエルターだが、その年齢は優に百を超える魔女である。彼女から見れば魔来名まきななど言葉を覚えたばかりの赤ん坊でしかない。

 年季の入った魔性が魔来名まきなを威嚇する。しかし、

「フッ」

 それで臆する魔来名まきなではなく、むしろ好感を覚えていた。

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