異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

三十話

 「”銀翼の鷹”所属、谷川ハヤト参上しました」


 城門をくぐると即座に応接室に案内された。
 今回は正式な謁見という扱いではないようだ。
 見てみたかったけどな、玉座というものを。
 扉の前で案内役は下がった。
 この重そうな扉は自分で開けろということか。
 若干汗ばんだ手で扉を押す。


 「よく来た。余はライカッツェ・エル・ピングラム。この国の王じゃ。ハヤトでよいか」


 「…っは!構いません」


 いきなり、王が話しかけてきてビックリだよ!
 普通、扉開けてすぐに王が声かけてくるか?


 「今は人払いしておる。そうかしこまらんでもよいぞ」


 「…はぁ。あの、俺、いや自分がいうのもなんですけど、不用心すぎませんか?」


 俺はこの部屋に俺と王様しかいない状況を心底不思議に感じた。
 俺が暗殺者とかだったらどうするつもりだろうか。


 「だって、人がおったら集中できんじゃろ、オセロに」


 何言ってんだ、こいつ、みたいな目をしてますけど、そっくりそのままお返ししたいです。


 「それに、カルバからお主のことは聞いておるしの」


 「っそうなんですか」


 確かに、知人っぽいことは言ってたけど、ガチだったとは。


 「さて、早速始めようか。十本勝負といこう」


 「…分かりました。十回勝負ですね」


 「?いや、先に十回勝ったほうが勝ちじゃ」


 えーそんなするのーーー。
 俺はどこか釈然としないながらも王の対面に座り、ピースを持つ。


 「お主から初めてよいぞ」


 「では…」


 こうしてオセロが始まった。
 てか、王様はこんなフランクでいいんだろうか。
 威厳とか、外聞とかどうなっているのだろう。






 二時間ほど過ぎた。


 オセロの勝負自体は五回やり終えたところなのだが…。


 「でじゃな、ハヤト。余は本物が欲しいんじゃ!!」


 何故か、おっさn、王様の恋愛相談になっていた。
 きっかけは、まぁ、その、王様の愚痴を俺が拾うと”わかる奴”だと思われたらしい。
 確かに、俺は年齢=彼女いない歴だが、一緒にされるのはなんか違うと思う。


 「でも、ライツなら選び放題でしょ。中にはホントにライツのこと愛してくれる人がいるかもしれませんよ」


 ライツとは王の略称らしい。
 なんか、そう呼べと言われた。


 「ハヤトよ、余は生まれて22年そんな女子おなごに出会ったことはないんじゃ」


 うん?


 「ライツ、聞きたいことがあるんですけど、今22歳?」
 ライツの口から出た衝撃的な発言に敬語になってしまう。
 ライツ、若干禿げてるのに?!


 「そうじゃよ、お主は何歳じゃ?」


 「22です。恐らく」


 「おお、同い歳か!」


 ほら、また同類扱いされちゃったよ。


 こうして、おっさn、もとい王様の愚痴に付き合っていたのだが拉致が明かないと思った俺はダメ元で提案した。


 「だったら、お忍びで婚活パーティーにでも参加すればいいんじゃないですか?」


 「?婚活パーティーにとはなんじゃ」


 えっ、ないのここ。
 てっきり、貴族の舞踏会=婚活パーティーと思ってたよ。


 「ハヤト、あれは魔物の巣窟じゃよ」


 あぁ、王様が死地に立たされた冒険者の目をしておられる。
 俺は同情心マックスで婚活パーティーのイロハを知っている限り話した。


 「なに、それはいい!実にいい早速準備しよう!!」


 「いや、さすがにそれは…」


 できれば俺が安全地帯に行ってから開催して欲しい。
 これ、失敗でもしたら首が飛んじゃうかもしれない。
 それ程、ライツの目はギラギラしていた。
 なんとか策はないか…。


 「ライツ、開催地はここから離れた海などでするのはどうでしょう?」


 「何故じゃ?」


 「理由は二つ。一つはここ周辺ではライツの顔を知っている者も少なくないでしょう。二つ目は海は解放的な気分になるからです。人は解放的な気分になれば自ずと積極的に行動するでしょう。そうなれば、ライツも出会いのチャンスが増えますよ」


 「おおー!ハヤト、知恵が回るの!!そうしよう!」


 よし、これで逃げられる。
 三十六計逃げるにしかず、だ。


 「では、俺はこれで失礼します」


 「何言ってるんだ、ハヤト。お前も独り身だろう。一緒に来い!」


 三十六計、策に溺れたな。


 「…はい、分かりました」


 こうして宿に戻り、部屋でくつろいでいたセレナさんとレイラにこの事を伝えると。


 「なにそれ、意味わかんない!!私も付いていくからね!」


 「ハヤト、お前はどこまで…」


 二人はおかんむりだった。
 うん、そうだよね。
 もう好意にはずいぶん前から気づいているんだが、まずはムスコをなんとかしなくては幻滅されてしまうだろう。


 「俺はホント、ライ、王様の付き添いだから!!信じて!!」


 「「絶対無理!!」」


 だから、お前ら仲いいだろ!


 俺は本気で”境界都市”にこのまま向かいたくなった。


 最後の頼みがリアか…。
 なんだろう、この複雑な気持ちは。


 俺は地球とは姿形の異なる自身の姿を鏡で見る。


 「…ハヤト、身だしなみのチェックしてるよ」
 「だな、やる気満々だな」


 「そこ!聞こえてるからね!!」


 バタバタとせわしなく海へ向かう。
 また長旅である。


 あっ、ビルとケビン忘れてた。
 まっ、いいか。


 一行は婚活パーティーへ向かう。
 誰一人結婚する気がないのは可笑しな話である。


 




 


 

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