異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

二十五話

 大腿骨の骨折は治った。
 カルバさんに休暇を貰い、ナールブの街に繰り出す。
 俺はこの街が気に入っている。


 冒険者として活動を始めてから分かってきたのだが、ここは王都からも遠く、ギルドの自主性が強い。
 この世界では王様や貴族はいるものの、殆どの者は権威しか持っていない。
 実際、有事の時はギルド団が武力として用いられる。
 そういうわけか、様々な国でお抱えのギルド団を持つらしい。
 俺のいる”銀翼の鷹”もこの国のお抱えギルド団だ。
 かと言って国から縛られることは少ない。


 この前のダンジョン攻略も国からの”依頼”で行われたものだが、断ることも出来たらしい。
 まぁ、断ったらお抱えギルド団じゃなくなると思うが…。


 俺は左右に並ぶ露天をひやかす。
 ここは海も近く、交通の便もいい。
 隣の国から来る商人は必ずと言っていいほどナールブに立ち寄る。
 つまり、ここには珍しいものも多い。
 日々趣の異なる商品が置いてあり、何度来ても面白い。
 ただ…。
 俺は通り過ぎた露天を振り返る。
 オジサン、オジサン、オバサン…。
 もう少し、若さを取り入れてもいいんじゃなかろうか。


 そんな益体もない事を考えながら、ぶらぶら歩く。
 お金はある。
 だが、生来貧乏性な俺は豪遊することが出来ない。
 さて、どうやってこの休暇を楽しもうか。
 自由になったことで悩みが増えるとは不思議である。


 
 「あの、ちょっといいですか?」
 「はい?」


 声が掛けられる。
 知らない娘だ。


 「あの、どちら様でしょうか?」
 俺は粗相のないように対応する。
 一応、下っ端とはいえギルドの看板を背負っている。
 この街随一のギルド団の名に恥じぬようにせねば。


 「いえ、そんなに畏まられても…」 
 少女が困った顔で言う。
 「あの、ハヤトさんですよね?”銀翼の鷹”の」


 「そうですが…」
 おや?
 これはレイラさんから聞いたことがあるぞ。
 冒険者として名を馳せてくると街で声を掛けられる、と。
 セレナさんは全く取り合わないことで今ではそんなことも無いらしいが、気の良いカルバさんとかは街に出るとアイドル並みの扱いを受けるらしい。
 もしかして、俺にもファンが!?


 「あの、街を一緒に回ってくれませんか?」


 いきなり、デートのお誘いだと?!


 「あ、あの、その…」
 うん、まずドモルのやめようか、俺。


 俺は若干落ち着きを取り戻し、目の前の少女を見る。
 背は小さく、スレンダーな肢体。
 金髪は長く、瞳は海のように蒼い。
 短パンにTシャツようなものを来たラフな格好だが、しっくりくるほど似合っている。
 恐らく、年下。
 うん、タイプだ。
 というより、百人いたら千人ぐらいが可愛いと言うんじゃなかろうか。
 そう思わせるほど目の前の少女は魅力に溢れていた。


 「やっぱり、ダメですか?」


 俺が何秒もフリーズしていたせいだろう。
 少女が不安げに見上げてくる。
 反則だ。


 「いや、全然オーケーさ。今日一日お休みなんだ」
 レイラとセレナさんは今日、狩りに出ている事がちらりと頭をよぎる。
 罪悪感はない。
 ないったらない。


 「それで、名前はなんて言うの?」


 「えっと、リアです」
 「リアちゃんか。じゃあ、どっか行きたいとこある?」


 俺はこうして逆ナンされ、デートすることとなった。






 かれこれ三時間は経っただろうか。
 街中あちこち歩き回った。
 リアはここに来たのは一年程前かららしい。
 丁度、俺が転移してきた時期と一緒だ。
 どこか、親近感を感じながら見て回る。


 「あそこの四角いの何でしょうか?」
 「あれ、見たことありません」
 「この綺麗なのガラスって言うんですか?」


 などなど、珍しいものに出会うたびにはしゃぐ姿がとても可愛い。
 確かに科学の発展した地球から来た俺でも素晴らしいと思うものが多々ある。
 魔法のおかげか、とにかく手工業がかなり発展しているのだ。


 俺たちはまた別の露店を覗く。
 こうして露店を巡るだけだが、不思議と落ち着いた気分になる。
 市場もどこか若返って見える。


 「あ、あの私何度かハヤトさんがセレナさんとこうしてデートしているのを見かけたことがあるんです。私、ずっと羨ましくて…」


 「えっ、俺とセレナさんは師弟関係なだけで…デートというわけじゃないと…思うよ?」
 ハヤトは疑問形で答える。
 その口調は浮気を咎められる彼氏そのものである。


 「じゃ、レイラさんとも?彼女と一緒にいる所も何度もお見かけしました!」


 「えっと、レイラは妹のような感じで…なんか最初から懐かれていたんだ」


 「そ、そうなんですか」
 リアは笑みを浮かべる。




 


 「少し、休憩しませんか?」
 リアがおずおずと切り出した。


 これは失敗したかもしれない。
 俺は鍛えているが、リアは冒険者じゃない。
 少し気が回らなかった。


 「ごめん、疲れたね。あそこでどう?」
 前方に見える広場を指差す。


 「いえ、できればひと目のないほうが…」
 リアは顔を赤くして呟く。


 「お、おう、分かった」
 年齢=彼女いない歴である俺にもリアがなにか決意していることが伺える。
 これは期待していいんだろうか。


 


 「あ、あの今日はありがとうございました」


 「ううん、こちらこそ楽しかったよ」


 辺りが静寂に包まれる。
 ライブが始まる直前のような、そんな期待をはらんだ静寂。


 「あの、つかぬ事をお聞きしますが、魔族は怖いですか?」


 「…そうだね、一回会ったことがあるんだけど。そこまで怖いとは感じなかったな。言葉も通じたし」


 「そうなんですか」
 リアは一度深呼吸する。


 「どうしてセレナさんとかレイラさんとお付き合いしていないんですか?」


 俺は戸惑う。
 的はずれな質問ではないが、このタイミングは不意打ちだろう。


 「だから…、えっと、セレナさんは…」


 「不能だから、ですか」


 俺は目の前の少女をとっさに見る。


 リアの耳は尖っていた。


 そう、まるで魔族の一族であるエルフのように…。


 「リアは魔族なのか?」


 「そうよ」


  


 


 


 


 
 

 

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