異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

十五話

 宿に戻る。
 セレナは森林内での出来事を報告するか迷っていた。


 「ハヤト、少しいいか?」
 レイラを追い払い、喧騒の少ない宿のロビーの隅にハヤトを呼ぶ。
 「…何でしょうか?」


 俺は悩んでいる。
 セレナさんに呼び出され、今まさに正面の椅子に座ろうとしている。
 先の魔族との接触のおける会話はセレナさんにも聞こえていたはずだ。
 今も彼女の顔は曇っている。
 聞かれることは分かっている。
 異端者扱いされるかもしれない。
 だが、誠意を持って答えなければいけない。
 彼女は俺の人生の無二の恩人なのだから…。
 後は、覚悟を決めるだけだ。


 私はハヤトの様子を見てとり、先程の魔族の言葉にショックを受けているであろう事を容易に悟った。
 正面の席に座ったハヤトはそれでも真っ直ぐにこちらを見つめる。
 その姿に、ドキッとするわけだが…。
 それはさておき。
 なんて声を掛けようか今更ながら考え始める。
 要領の悪いことだか、こちらも悩んでいるんだから仕方ない。


 
 「セレナさん、あのですね…」
 ハヤトの方が先に決意を固め、話し始める。


 「待て、ハヤト。みなまで言うな。お前は魔法が使えないからといって私達と異なる者ではないぞ。あれは魔族の戯言だ、気にするな」
 それに対し、セレナはやや早口で捲し立てる。
 そこにはハヤトへの方向違いな気遣いが見て取れた。


 一方、ハヤトは。
 はい?
 セレナさんは何を言って…。 


 こちらも予想と大分異なる言葉が出てきて戸惑いまっしぐらである。
 まぁ、セレナは元々魔族など信用しておらず、ハヤトの方は故郷の数多の創作物に登場する魔族、つまり良い魔族もいるという考えを持っていた。
 二人の行き違いは当然とは言わないまでも、順当な結果であろう。
 そもそも、異世界から来た!!
 なんて誰も信じない。


 ハヤトは苦味の強い笑みを浮かべ、セレナへお礼を述べ、立ち去る。
 セレナにとってはその様相が自身の考えが全うであったと思わせるものであったが…。






 俺は今、街の市場にいる。
 ポケットに入った銀板を確かめる。
 手に握った大金を意識し、嫌に周りが気になる。
 スリなど日常茶飯事だ。
 気を付けなければ。
 そう思いつつも屋台の匂いに釣られよそ見してばっかだ。
 レイラは新たな投げナイフを購入するべく、帰還するやいなや出掛けている。
 セレナさんはどこか暗い表情であったから一人で練り歩いている。
 俺も一人になりたかったし。


 境界都市、か。
 名前はもちろん知っているし、役割も養成所で習った。
 確か、魔族と人類が共に暮す街だとなっている。
 共存の道を探すべく、人類側が主導して作り上げたらしい。
 ここまで見ると人類がヒーローにでも見えてくる。
 だが噂では、周辺魔族を一箇所に集め、国防の効率化を図ったとかなんとか言われている。
 事実、境界都市の北に住む人類は、南に住む魔族たちの間に城壁を築いている。
 それも城壁の上には北側、つまり人類側からしか登れない。
 普段は通用門と称した城門は自由に通行できるが、有事の時はそれらは閉じられ、人類の壁となること請け合いである。
 今までそういう事態になっていないのは単に幸運であるだけだろう。


 俺は深く沈みこんだ意識を呼び起こす。
 どうやら市場をやっている通りはすでに過ぎ去っていたようだ。
 俺は一つ裏の路地から宿に戻った。


 「あっ、ハヤトおかえり」
 「おう、レイラ。ナイフは買えたのか?」
 「それが…。気にいったアクセサリーを買ったら…」
 「で?本当は?」
 「黒胡椒の効いたジューシーなお肉に釣られました!!」
 はぁ、やっぱり。
 アクセサリーなんて女の子っぽいやつにレイラが興味を持つわけがない。
 レイラの口からアクセサリーなんて言葉が出た瞬間、思わず吹き出しそうになったくらいだ。
 「それで?全部費やしたのか?」
 「いや、私もそこまで馬鹿じゃないから。ギリ残しといたんだけど…」
 「だけど?」
 「ここ、めっちゃナイフが高いんだよ!!ナールブの三倍の値段はあるよ!!」
 自分の過失を棚に上げ、プンスカ、憤るレイラ。
 市場原理はまだまだ難しいらしい。


 「じゃあ、帰ってから買えよ」
 有り金をふんだくられそうな気配が満載だったので、話を打ち切ろうとする。
 頼まれたら、ノーとは言いづらい。
 日本人の血は未だ健在である。
 アイ アム イエスマン。


 「そうするつもりだけど~。ハヤトッ、私良いもの見つけちゃったんだ」
 「良いもの?」
 道端で小銭でも拾ったのだろうか?
 ここでは、ネコババを忌避する習慣はない。
 拾い物は私有物となる。


 「いや、それがね、熱々の香ばしいパンに蜂蜜がたっぷり塗ってあってね、その上には森で採れた甘い木の実が沢山挟んであってね、さらにさらに、それをここでしか採れないブルーベリージャムを付けていただくのです!!」
 ごくりっ。
 こっちに来て甘いものなど数えるほどしか食べてない。
 「しかも、期間限定、数量限定だよ!」
 うーーー、レイラは的確に俺の弱い部分をせめてくる。
 「…いくらだ?」
 屈した。俺は甘味処への欲望を抑えきれなかった。
 「…銅板8枚」
 「二人デカ?」
 「いや、一人分」
 絶対、屋台で出す値段じゃねぇ!!
 俺は銀板を握る。
 確かにこれは銅板100枚分の価値がある。
 一見、余裕がありそうだが、冒険者やってると出費がかさむ。
 特に靴はヤバイ。
 一月持った試しがない。
 その上、割と高い。
 ケチると、戦闘に支障をきたす。
 俺みたいに動き回る(逃げ回るともいう)奴は機動力が命。
 なおさらケチれない。
 自然と懐は寒くなる。
 足の温もりと引き換えに。


 だから、余計な支出は抑えたい。
 だがしかし、チョコも飴さえないここ。
 甘いものには大変飢えている。


 俺は悩んだ。
 レイラはこれでもかと俺を煽る。


 俺は我慢した。
 一つだけしか買わなかった。
 レイラとはんぶんこである。
 何故か、レイラはとても嬉しそうにしていた。
 大きい方あげたのがそんなに良かったんだろうか。


 再び、宿に戻るとセレナさんが待ち構えていた。
 そこはかとなく湧く罪悪感。
 「あの、どうしました?」
 俺はとにかく何に対しての謝罪が必要かを確認しにいく。
 情けない。


 「ナールブに戻るぞ。おやっさんと相談せねばいかん」
 「魔族のことですか?」
 「そうだ、あと一応境界都市の情報を集めてみるつもりだ」
 「…ありがとうございます」
 「別に礼はいらん。早く準備しろ」
 俺とレイラはそそくさと自室に戻る。


 五分後には一行は街道を走っていた。


 


 


 


 

「異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く