異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

十三話

 「あっ、これも薬草だよ!!」
 ここ、森林内において思わぬ才能を開花させる者がいた。
 「レイラ、なんでそんなに分かるんだ?」
 「えっ、ビルから教えてもらったじゃん」


 いたな、そんな奴。
 ケビンとはどこまで進展しただろうか。


 「いや、そんなんいちいち覚えねえよ」
 普通、薬草収集などは専門書を見ながら行うものだ。
 養成所時代もビルが専門書を持参し、皆であーだこーだ言いながら集めたものだ。 
 「…いや、なんで皆そんな重い物持ってくるんだろうって不思議に思ってたんだよね」
 俺は普段のアホな行動とかけ離れたお前の才能が不思議だよ。
 これなら、ドラゴンにでも懐かれる方が納得できる。
 「…レイラ。お前頭いいのか?」
 お前、頭大丈夫か、とでも聞くようなテンションでセレナさんが問いかける。
 「いや、ハヤトの方が賢いよ~」
 レイラの返しにこちらを向くセレナさん。
 珍獣でも見たかのような顔はやめて欲しい。
 「…いや、セレナさん、俺、知力;Aって出てましたよね」
 俺は過去の能力検査を盾に納得させようとする。
 「それなら私も知力はAだぞ。そもそも潜在値と言っただろう。大凡の目安にしか使えん」
 自身がアホの娘ではないと主張したいセレナはさらに言い募る。
 「しかもだ、勉学はやらねば伸びん。ハヤトは多少なりとも勉強していただけだろう」
 大人気ない気もしたが、口早に捲し立てるセレナさんは可愛かったので指摘はしない。
 俺は…。
 「つまり、セレナは脳筋ってこと?」
 俺には雑草にしか見えない物をバッグに詰めながらレイラが呟く。


 鉄拳制裁を食らったのは言うまでもない。






 レイラ博士による薬草採取は思わぬ予定の変更を強いた。
 今日の収入も確定したことから早く街で遊びたい俺とレイラ。
 それに対し、本日は一度も抜刀していないセレナさんは奥に進むと主張。
 結局は俺が雲行きの怪しくなった空模様を伝え、一同は帰還した。
 まぁ、幸運なことに宿へ帰ったら、数分と経たず雨が降り出したことにセレナさんが感心する。
 少しは、株も上がっただろうか。


 「ねえ、ハヤト~。なんか面白いことやって~」
 一番返しが困る奴がくる。
 街へ繰り出そうと準備をしていたら雨。
 盛り上がった気持ちを抑えるのに俺を使わないで欲しい。
 「…えーと、布団が吹っ飛んだ-」
 「サムっ!」
 「…やかましい」
 明らかな軽蔑の視線に耐える俺。
 未だに何か期待しているレイラから目をそらすも首ごと回される。
 「なんか面白いことして?」
 活発なお年頃に宿でゴロゴロはキツイのだろう。  
 俺は大歓迎なのだが…。
 「…じゃあ、ゲームでもしよう」
 「ゲーム?」
 「まぁ待ってな」
 俺は宿の店主に外に置いたがため、雨に濡れ、使えなくなった薪をもらう。
 ついでに、のこぎりも所望する。
 セレナさんの名前をだしたら気前よく貸して貰えた。


 まずは平でほぼ正方形の盤を作る。
 小太刀でガリガリとマス目を作る。
 コマはサイコロ状に切り出した物を使う。
 筆記用の墨を用いて半分のコマを黒く塗り上げる。
 よし、これで囲碁はできなくとも五目並べはできるな。
 「えっ、それ五目並べ?」
 「…はい?」
 「五目並べじゃん」
 「あっ、知ってるの?」
 「なに、馬鹿にしてるの?私、そんな子供の遊びなんてやらないよ」
 「えぇ~」
 ここ、俺が全く新しいゲームを披露して盛り上げるとこじゃん!
 ほーんと、主人公補正はどこいったんだって話だよな。
 そろそろ、女神様も出てきていい頃合いだと思うよ、俺は。


 俺は切り出しサイコロの黒く染めた物は半分削り、残りは半分黒く染める。
 「いや、レイラ。これはオセロってゲームだ!」
 どうにか体裁を取り繕ろう俺。
 「オセロ?」
 「そう、初めにこうコマを置いて、挟んだら自分側の色にひっくり返せるんだ」
 「へー面白そう!」
 良かった。
 まだ、ひっくり返すという事は思いつかなかったんだな、異世界。
 俺は誰にともなく勝鬨を上げる。


 その後、初めの方は慣れのある俺が圧勝をしていたが、回を重ねるごとに差は縮まり、俺もしかしたら負けるんじゃね?と内心ヒヤヒヤした頃。
 「お前たち、なにをやっている?五目並べか?」
 「違うよ、ハヤトが考えたオセロっていうゲームなの」
 俺の背後から覗き込み、どういうゲームか、聞くセレナさん。
 「いや、これは俺の故郷のゲームで…、こうして同じ色で挟んだとこをひっくり返せるんです。最後に数の多い方の勝ちですね」
 ふむふむ、と思案顔のセレナさんは俺の肩を掴む。
 どうやら代わって欲しげな様子なので、ここは気前よく席を譲ろうとする。
 「ハヤト、どうやって作った?もしかしてノコギリとか使ったか?」
 はーい、そっちの事ですよね。
 なんか、機嫌悪そうだったもんね。
 「…はい。使いました」
 「私の名前も使ったな?」
 「はい、使いました」
 「もっと詳しく教えてくれないか?」
 「…セレナさんが筋トレ道具を作るのに必要だから、と言って貸してもらいました」
 「ハヤトーー!!」


 意中の相手からも脳筋だと思われていたと知ったセレナはそれはそれはお怒りになりました。






 「…で?」
 翌日。森林近くの街、ジュリンにて。
 予測をかなり下回る収入に懺悔する者がいた。
 言い訳とも言う。
 「だって、ここナールブより薬草が安すぎるんだよ!」


 商品の価値。
 それは需要と供給の関係から容易に変化する。
 ここ、ジュリンでは森の幸とも言うべき薬草や、木の実などが豊富である。
 つまり、他所と比べてその手の商品は供給過多である。
 レイラはナールブでは一日の稼ぎとしては十分すぎるほどの薬草を採取したのだが、やはり市場の相場までは読みきれなかったのだろう。
 かくいう俺も今頃気づいたわけだが。


 「いや、でも大丈夫だよ。あの後オセロが人気になって宿の人が買い取ってくれたじゃん」
 俺の手には一枚の銀板。


 ここで貨幣について述べておく。
 銅貨→銅板→銀貨→銀板→金貨→金板→白金貨の順で価値が高くなる。
 十枚で上の貨幣と等価である。
 銀板一枚ならば頑張れば3ヶ月は暮らせる。
 大体、こんな感じ。


 「絶対みんな真似するよ、あれ。作り方とか簡単だし」
 レイラがもっと作って楽して稼ごうぜと文句を言ってくる。
 こいつ、ホント強かだよな。
 「いや、それは心配ない。仮にでもあそこは我がギルドが管理している宿だ。団員のハヤトが作ったものならば模倣するにしても何らかの見返りが貰えるだろう」
 セレナさんが”銀翼の鷹”の権力をフルに使う気まんまんでいる。
 オセロ一つで大げさな気もする。
 「大げさなものか、あのゲームは面白い」
 「そうだよ、ハヤト。五目並べとか子供の時でやり飽きてるしね」
 未だ子供にしか見えないレイラが誇らしげに言う。
 確かに、昨日この娘ずっと遊んでたしね。
 なら、囲碁とか、はたまた将棋とか教えたらどうなるんだろうか。
 まぁ、またの機械でいいか。
 「他には何かゲームはなかったのか?」
 「なかったな~」
 何故か遠い目をして呟くレイラ。
 「貴族の連中が何か盤ゲームをしているそうだが、駒がかなり凝っていてな。庶民には広まらないようだぞ」
 貴族から指名依頼を受けることの多いセレナさんが、結局どんなゲームか分からんかったな、と呟く。
 最近はその依頼もほとんど断っているそうだが。


 「そんなことより、稼げてないんだ。狩りに行くぞ」
 愛用の長剣をガチャりと揺らし、行き先を決めるセレナさん。


 一行は再度森に向かうのだった。








 


 

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