異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

十二話

 「ここで一日泊まる」
 名のある冒険者から一流ガイドと化したセレナさんが言う。
 訪れたのは森から少し外れた所にある街、ジュリンだ。
 ここまでマラソン選手も顔負けな走りで来れたのは理由がある。
 「ハヤト、もう”旅風”を切るぞ」
 「あっ、はい」
 そう、通常この世界の者は一定基準の魔法を息するが如く行える。
 そして、編みだされたのが。
 「毎回思うんですけど、この魔法すごいですよね」
 セレナさんへのお礼と共に出た呟きにレイラが反応する。
 「そう?普通のことだと思うけど。何百年も前から使われてるらしいし」
 ヒョコッとハヤトを覗き込み、事もなげに言う空色の少女に悪気はない。
 ただ…。
 「…いや、俺、魔法使えないから。…ははっ」
 自分から言いだした話題にダイレクトに心をえぐられる青年、ハヤトは異世界に来たにもかかわらず、周りは魔法を使えるのにもかかわらず、自分だけ使えない、補正がかかってない、と毎度のように愚痴をこぼす。
 もちろん、意味が分かるものが周りにいるはずもなく、単に残念な人に見られるのがオチであるが…。


 ここで解説。
 風による旅の支援魔法、通称”旅風”は自身や荷物に上向きの風を生み出す魔法である。
 つまり、自身や荷物が軽くなり、ある程度は楽に移動ができる。
 余談だが、戦闘時にも同じコンセプトの魔法は使用されている。
 これにより、通常の3倍の速さで動くことも可能とされている。


 
 「セレナさん、魔力は大丈夫なんですか?」
 レイラの悪意のない暴言に素早く話題を変えるハヤト。
 移動中二人分の”旅風”を行使していたのだ。
 魔力が欠乏すると、重度の寝不足や二日酔いに似た症状がでる。
 ハヤトは一応その心配もしている。
 「心配するな。途中から魔法の力を抜いていたからな」
 「なーー!!やけに途中から重いと思ったよ!!」


 今、一行は市場を歩く。
 市場の品物はその土地の性格を示す。
 ここは木の実や薬草が多い。
 魔物の出る森でもこうした貴重資源を求め、冒険者は探索を行う。


 「いい体力作りになっただろう」
 淡々と受け流され、俺は何もいえない。
 上下関係は歴然だ。
 逆らうのは万死に値する。
 そう自身に言い聞かせ、喉元で待機していた数々の文句を飲み込む。
 「…レイラみたいに言わないのか」
 ボソッと呟く声は市場の喧噪にかき消される。
 残るのはまた後ろでガヤガヤと騒ぎ出すレイラとハヤト。
 目的の宿に向かうセレナはほんの少し足を早めた。






 「世話になる。部屋は2つだ」
 「かしこまりました」
 宿の店主が深々とお辞儀をする。
 近くに森があるからか、この宿は良質の木材のおかげか、良い雰囲気をだしている。
 ここはギルド”銀翼の鷹”が経営している。
 大ギルドは各地にこういう活動拠点を持っているのが強みだろう。
 隣接している食堂は七割ほど埋まっている。
 魚は無いが、森の幸とも言うべき深みのある味がこの街の料理の売りらしい。
 かくいう俺もこの香ばしい匂いに意識が引っ張られる。


 「じゃ、私とハヤトが同じ部屋だね」
 「おう」
 …うん?
 俺いま良く考えずに返答したけど、アウトなやつじゃなかったか。
 「ハヤト、どういうつもりだ」
 「…えーと、俺はただ素で答えただけで」
 「ほー、素で、か。素でレイラと同衾したいと?」
 「違います!!」
 マズい。
 腹が減って本格的にボロが。
 「ハヤトが望むなら私は…」
 「そこっ、話を拗らせないで!!」
 途端に騒がしくなる一行。
 周りからは美女、美少女に挟まれているハヤトに嫉妬と羨望が混じった視線が送られる。
 「いいか。私と、ハヤトが同じ部屋だ!」
 この人も何言っちゃってるんでしょうか。
 「セレナさん、それも違います。普通に俺が一人でしょう」
 「…いや、それじゃ二部屋にした意味が」
 最近増加しつつあるセレナさんのボヤキは例の如く食堂の喧騒に掻き消され、ハヤトに届かない。
 「あの、部屋ならまだ余りがございますが…」
 いつまで経っても出入り口で争いそうな二人に店主がおずおずと申し出る。


 結局、三人別々の部屋で泊まることとなる。






 朝の食事はその日一日の元気の源である。
 俺が泊まっている宿でも朝飯は気合の入った料理が出てくる。
 冒険者たちは思い思いに腹に収め、戦場へと向かう。
 そうな慌ただしく、同時に活気も満ちたこの場所でお通夜な一行がいた。


 「…あの~、レイラ、何したの?」
 そこには小顔なだけによく目立つ特大タンコブがいた。
 「セレナにやられた。ハヤト、慰めて~」
 ヨヨヨ、と嘘泣きを隠そうともしないレイラがすり寄ってくる。
 「やめろ、まな板」
 セレナがレイラの襟首を掴み放り投げる。
 綺麗な放物線を描いた。
 「で、何があったんですか」
 レイラのまな板には触れてはイケナイ。
 俺はセレナさんの正面に腰掛け、事の顛末を聞く。 
 注文はパンと野菜とキノコのスープ。
 軽めにしておいた。


 「…うん、レイラが悪いな」
 なんというか、本当にセレナさんは公正厳格だ。
 まぁ、なぜ俺の部屋に忍び込もうとするレイラを捕まえることができたかは疑問だが…。


 「それより、本日は森の東口から入る。言うに及ばず危険地帯だ。気を抜くなよ」
 「っはい」
 素朴な朝食が運ばれてくる。
 俺はリボルバーを一度握りしめ、朝食に手を伸ばす。
 地面に這いつくばっていたレイラがやっと立ち上がった。


 


 

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