異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

十一話

 それから。
 剣の集いで一から狩りにおける心構えと技術を指導してもらった。


 そして、いろんな魔物の狩りに連れていかれた。
 どうやら、実地で学ぶ知識の方が身につくらしい。
 命がかかれば誰だって真剣になるものだ。
 とはいえ、セレナさん、ご指名の依頼を断りまくっていたのはどうかと思います、はい。
 言わないけどね。


 今はナールブにあるギルド、”銀翼の鷹”の支部にいる。
 場所はロビー。
 古びたフローリングが絶え間なくギシギシ、と音を立てている。


 「ハヤト、何見てるの?」
 「討伐依頼を見てるんだ」
 「ふーん」
 横からのぞき込むレイラ。
 ふわりと空色が踊り、甘い香りが届く。
 「これとか良くない?」
 レイラが指差したのはボードの左上にある古びた羊皮紙。
 コバルト森林でのゴリモンの討伐依頼だ。
 俺の前にめいいっぱい手を伸ばすレイラがいる。
 「それ、レベル4もある。俺じゃ無理だよ」
 先日の狩りで自分の実力はだいたい分かった。
 確かに、リボルバーは強いが6発撃つと一定のインターバルが必要となる。
 そのため、いくら必殺の武器を持つとはいえ、敵の特徴には気をつけなければいけない。
 特に、このゴリモンのような群れを形成している魔物は要注意である。
 弾切れになったら終わる。
 近接戦闘用に小太刀を持っているとはいえ終わる。
 これ、真理。
 「私たち、だったら?」
 ふむ。
 「無理だな」
 これは俺も含め、レイラも実力が足りてないように思われる。
 俺は客観的に正しい判断を下したはずだ…。
 はずなのだが…。
 「そんなに私とパーティー組みたくないの?!」
 頬は赤く、怒ってるのに泣き出しそうなレイラがいた。
 どこからともなく沸く罪悪感。
 …そういう意味じゃないんだけど。
 「…ずっと待ってたのに、何にも声かけてくれないし」
 あっ、そういうことか。
 「違うよ、ただ俺たち二人だとゴリモンでも厳しいと思っただけなんだ」
 「…セレナとはレベル5の討伐に行くくせに」
 うん、さらっと呼び捨てにしてたけど大丈夫だろうか。
 もし、本人に聞かれていたら終わるな。
 「それは、セレナさんが強いからだよ。俺の訓練も兼ねてるみたいだし」
 「じゃあ、私も誘ったらいいじゃん!暇だし、暇だし!」
 暇であることをこれでもかと強調しているが、普通、冒険者は自分で仕事を見つけるものだからね。
 俺はぶちゃけ特別扱い過ぎるからね。
 「…いや、それはセレナさんに一度言ってみたら新人が二人もいると命の保証ができんって言われて…」
 「…あの狡猾女」
 今ぼそっと恐ろしいこといわなかった?!
 「二人仲良くどうしたのだ?」
 はい、セレナさんですね。
 分かりますよ。
 俺とレイラが二人でいるとだいたい現れるからね。
 「えっと、討伐依頼を見てて」
 「セレナさん、ご指名の依頼が入ってましたよ。早く受付に行ってもらっていいですか?」
 …なんか棘がある。
 「いや、レイラ、ハヤトは弟子だからな。身の丈に合わない依頼をして故人となってはかなわん。ハヤトが決めるまでここで見ておくとしよう」
 …やりにくい。
 「あ、あのセレナさん、ゴリモンは俺一人だとまだ厳しいですよね?」
 「私も一緒に行くからね」
 横、うるさい。
 今は機嫌が政治家の性根より曲がりつつあるセレナさんをなんとかしなければいけない。
 「…ふむ。まだ森には行ったことないか。それなら私が同こu…」
 「却下!!」
 「何故だ?」
 「今回は私が同行するの!」
 「だから、三人で行けばいい」
 「うっ、…そうじゃなくて」
 「それともハヤトと二人で行きたい理由でもあるのかな?」
 「…この女狐」
 「レイラ、聞こえるぞ」
 なんか、俺の意思は完全に捨て置かれてますね。
 「では、明日の朝出発するからな」
 「あ、あのセレナさんご指名の依頼は?」
 「レイラ、私の依頼は誰からだ?」
 「…ボルハルト男爵です」
 「うん、断ろう」
 うん、断ろう、じゃ無いと思うのは俺だけでしょうか。


 なにはともあれ、心なし浮かれているセレナさん、また未知との遭遇にあう俺、ブスッ、と頬を膨らませたレイラの三人はパーティーを組んだ。
 討伐目標はゴリモン、木の上に住む大型ゴリラみたいなやつだ。






 翌日。
 「やっぱり馬車とか使わないんですか?」
 左右には草原が広がり、前方には遠目からでも大木と分かる緑がそびえている。
 「…ハヤト」
 「ハヤト、それ格好悪いよ」
 今俺たちは森へと続く街道を進んでいる。
 駆け足で進んでいる。
 こういうのは最低でも徒歩ではないのでしょうか。
 「ハヤト、歩いてモンスターと遭遇するのと、駆け足で進んで何事もなく目的地着くのどっちがいい?」
 まぁ、そういうことだ。
 セレナさんの解説で理由は分かるのだが、解せん。
 俺の愛読書やアニメではあいつら歩いてたぞ。
 「どうした水でものむか?」
 前方を進んでいたセレナさんが俺にペースを合わせ、生成したウォーターボールを差し出してくる。
 「あ、ありがt…」
 「はいっ、ハヤト、水」
 ブシャっ、拳を受けた気がした。
 「レイラっ、なにすんだよ!」
 俺よりやや後方を進んでいたレイラが後頭部に高速ウォーターボールをぶつけてきた。
 「いや、他意はなくて…」
 「悪意が大アリだろ!!」
 「っ好意しかないよ!!」
 俺は逃げようとするレイラの背後に回り込み、脇腹に手を伸ばす。
 養成所時代に知ったレイラの弱点の一つ。
 「ぎゃはははは!!、ちょっ、やめ…」
 「ハヤト、婦女暴行はそのへんにしろ」
 後ろからムチが飛ぶ。
 「っ痛い!」
 冒険者装備の隙間、肌が露出した所を的確に打つ。
 つまり、メチャクチャ痛い。
 俺たちのおふざけにひどくご立腹のセレナさん。
 逆になにが不満なのか、頬を膨らませるレイラ。
 俺は赤くなった皮膚をさすり、唾をつける。
 セレナさんは使用したムチをグルグルと巻き、バッグにしまう。
 邪魔じゃないんだろうか。
 「はぁ、魔物だ。完全にこっちに向かってる。迎え撃つぞ」
 そう言い放ち、腰につけた長剣を引き抜く。
 9時の方向、距離はおよそ20メートル程の位置にアフリカ象並にでかい牛、いや、闘牛と呼ぶべきものが見える。
 「オウミールじゃん!肉がうまいよ」
 両足の太ももに付けたタガーナイフを逆手に構えながらレイラがはしゃぐ。
 魔物との対峙経験が多い俺より落ち着いてるこいつは図太い神経をしていると思う。
 俺はすでに銃を握りしめている。
 「ハヤト、一匹だ。殺れ」
 「っはい」
 セレナさんがオウミールを撃てるよう射線を空ける。
 軽妙な音が鳴り響き、地鳴りが起きた。


 「セレナさん、なにしてるんですか?」
 今は倒したオウミールの解体中。
 レイラは嬉々として自分の好みの部位を切り取っている。
 「あぁ、睾丸を取ってるんだ」
 「あっ、そうなんですね」
 思わず内股になる俺。
 確か、薬になるとか聞いたことある気が…。
 いやしかしセレナさんがやるのはちょっと精神衛生上悪い。
 「俺がやりますよ」
 俺は小太刀を取り出す。
 この魔物へのせめてもの情けだ。
 「いや、お前がやると血の雨が降るからな。やめておこう」
 先日の事を思い出してかクスクスと笑うセレナさん。
 ザクっ、と切り落とし残りの部位の焼却に移る。
 魔物をこのままにしておくと腐敗やら死肉漁りやらで他の魔物が集まる。
 道中安全を心がけるなら確実にやるべき作業である。
 「今晩は焼き肉だね!」
 至極ご満悦なレイラが詰めるだけ詰め込んだ肉を持ち上げ、宣言する。
 真上の太陽は輝くレイラの笑顔をこれでもかと照らしている。 




 俺たちのパーティーはなんだかんだ上手くいく気がする。 










 


 
 

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