異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

九話

 結局、四人ともギルド”銀翼の鷹”に入団した。
 皆仲良くナールブ、養成所のある街に配属された。
 活動は基本自由。
 遊びたければ遊び、酒を飲みたければ飲む。
 実にわかりやすい。
 ただ、羽目を外しすぎるとギルドの評判のため吊るし上げられるそうだが。


 大抵の人は狩りに出たり、依頼をこなしたりしている。
 でもって、ギルドの召集や命令には従わなければならない。
 かくいう俺はというと…。
 「ハヤトッ、早く準備しろ」
 セレナさんの舎弟となっていた。
 「っはい」
 俺は寝癖も直さず、部屋を飛び出す。 
 外にはすでに幻想的な銀髪を風に揺らし立ち尽くすセレナさんがいて
 「バカモノっ、服くらい着ろ!!」
 半裸の俺を怒鳴った。
 てへっ。


 「ったく、君はまだまだ教育が必要だな」
 何故か嬉しそうにつぶやくセレナさん。
 最近、調教ムチを身につけている姿をよく見かける。
 俺に使わないよね?


 てなわけで、俺はギルドの規則を学び、冒険者のイロハを学び、危険も(セレナさんのムチを除く)何もない穏やかな日々を過ごしていた。


 「ハヤト、明日から狩りに行くぞ」
 「…はい」
 やはり平和とは長く続かないらしい
 「一週間のみとはいえしっかりと準備しておくように」
 ちなみにここでの一週間は10日である。長いよ。
 ついでに三週間で一月となる。
 うん、分かりやすい。
 「どこに行くんですか?」
 どうか魔物が弱い所を。
 「サウザント平原だ」
 終わったな。
 「二人っきりで、ですか?」
 「…そうだ」
 微かに頬に朱がさしたセレナさんはその他注意事項を述べ、足早に立ち去っていった。


 「何話してたの?」
 「おう、レイラか」
 後ろからひょっこりと現れたレイラが悔しそうに口をすぼめている。
 「なんで驚かないの?」
 「いや、もう慣れたし」
 養成所時代に散々やられたら誰だって耐性もつくだろう。
 「で、何話してたの?」
 「明日から狩りに行くんだ」
 「どこに?」
 「サウザント平原」
 「あぁ、骨は拾いに行ってあげるよ」
 「縁起でもねえこと言うな!」
 あそこはレベル4なんて当たり前、運が悪ければレベル6(2個パーティーは必要とされる)にも出くわす。
 しかも、平原だから隠れる所もない。
 遭遇したら戦うしかない。
 うん、明日は腹痛になろう。
 「メンバーは?」
 「俺とセレナさん」
 「だけ?」
 「だけ」
 プゥ、と不満げな表情をするレイラ。
 「どうしたんだよ?」
 「なんでもない」
 ここ最近レイラの機嫌が悪い気がするが、理由がわからないので放置する。
 「レイラこそ狩り行かないのかよ」
 「私まだソロだし」
 「幾つかパーティーに誘われてるだろ?」
 レイラはなぜかパーティーの誘いを断りギルドの雑用的な事をしている。
 もう、事務員さんじゃなかろうか。
 「どれも入りたくないの」
 「どうして?」
 「どうしても」
 急に語気を荒げ威嚇する猫のような仕草をとっている。
 結局不満げなレイラのご機嫌をとり、最後には、気を付けてね、とそっぽを向けながら言われた。
 なんだかんだ優しいやつである。
 とりあえず、こいつだけでも手入れしておくか。
 相棒と言っても過言ではないリボルバーを撫で湧き上がる冒険への期待と恐怖に心を満たされる俺であった。




 翌朝。
 「セレナさん、俺少し腹痛が…」
 「叩けば治るか?」
 口角をあげ、長剣の柄を握る美女がいた。
 俺は白黒テレビではないが、不思議と腹痛も消える。
 ホントに不思議だ。


 朝の茶番劇も終わり、南の街道を駆ける俺とセレナさん。
 「あの、向こうに魔物が見えるんですけど…」
 「無視しておけ」
 4時の方向に六本足の大型カエルみたいなのがいる。
 なんかこっちに近づいてる気がするんだが。
 あれ、レベル4はあるよな、絶対。
 「拠点まであと少しだ。気にするな」
 この道中魔物と遭遇しても極力逃げている。
 拠点にたどり着くことを第一に考えているためだ。
 俺も近づく魔物を遠くからリボルバーで嫌がらせのように撃っているだけだ。
 もちろん、当たらないが多少の足止めにはなった…はずだ。
 決してお荷物では無い…と思う。
 余談だが、この平原に入ってからずっと駆け足で移動している。
 ここまでペースを維持できている自分にちょっと驚いている。
 浪人時代に比べ、格段に体力がついているのだ。
 得も言えぬ喜びを感じる。
 あのハg…アレン教官の教えもあながち間違ってなかったらしい。






 拠点にたどり着いた俺たち。
 ここはサウザント平原にある小さな丘の上にある。
 正式な街の名前はないが、誰が言い出したのか、剣の集い、と呼ばれている。
 このまま南に進むと境界都市、人類と魔族の戦いの最前線、に着く。
 東には山脈が広がり、西は海へと続く平原が広がる。
 水は井戸水で確保している。
 住人は冒険者やそいつらを商売相手としている鍛冶屋や商人などしかいないため、人口は少ない。
 だが、活気は溢れている。
 荒くれ者や図太い連中が集まっているからだ。
 大通りとなる十字の道路脇にはこれでもかと人が集まっている。
 城壁も他の街よりも低いため圧迫感もない。
 俺はこの街を割と気に入った。


 「ハヤト、ついて来い」
 セレナさんは”銀翼の鷹”が所有する宿に荷物を置くやいなやすぐに外に出る。
 飯かと思いきや、人気の少ない城壁の方へと進んでいく。
 これは稽古でも始まるかと思って気分の沈む俺。
 セレナさんは城壁に付随する階段を軽々と上り、こちらを手招きしている。
 俺は一段一段階段を上る。


 目の前に真紅に染まった太陽があった。
 「どうだ綺麗だろ」
 そうつぶやくセレナさんの銀髪も紅を照らし、風に揺らめくたびに七色の変化を見せる。
 「…はい、綺麗です」
 陽は半分ほど地平線に埋もれ、空と大地にその輝きを映えさせている。
 「そうか、間に合って良かった」
 ガチャリ、とセレナさんが長剣を揺らし朱色をさした顔をそむける。
 「セレナさん、ありがとう」
 素直に感謝したい。
 「私ではなく、太陽に言え」
 「いや、そうじゃなくて。これまでの恩とこれからの感謝をちゃんと言葉にしたくて」
 「…そうか」
 普段は白い肌だと分からなくなるほど朱に染まるセレナ。
 照れ隠しに下を向いていた少年はついぞその姿を見ることはなかった。


 二人の距離が縮まるのはもう少し先のようである。


 


 


 




 

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