異世界転移〜イージーモードには棘がある〜
四話
朝が来た。
太陽の光が部屋に差し込み、キラキラと輝いている。
これがホコリのせいだとは知らないほうが良かったと思う。
ここ、冒険者養成教習所には半年間通わなければならない。
三ヶ月を目処に半数が入れ替わる。
俺はあと五ヶ月以上いないといけない。
心躍る冒険は当分先である。
まぁ、今の俺だと初心者向けフィールドでくたばる気もするが…。
「おはよ~、ハヤト」
寝癖が癖っ毛か判断に迷うアホ毛を揺らしながらレイラが声をかけてきた。
「おう、おはよ」
「ケビンは?」
「部屋においてきた」
「ひどーい」
ぶすっとした感じで聞いてくるが、蹴飛ばしても起きない奴をどう起こすのかお聞きしたい。
「じゃあ、今から二人っきりだね」
食堂で二人っきりもなにもないと思うのだが、朝の澄み切った空気にふさわしい笑顔で言われ、たじろいでしまう。
「お、おう、まぁ、そうだな」
なんとも間抜けな姿であるが、実際に考えていることと口に出した言葉が違うことなどよくあることなのである。
つまり、俺は悪くない。
レイラの笑顔による幸せダメージも回復した頃、ふと、食堂前の張り紙が目に留まる。
「なぁ、前・後期生合同野外演習ってなんだ?」
ちなみに、教習所に入って3ヶ月以上たった生徒を後期生、それ以下を前期生という。
「えっ、知らないの」
「俺に常識は通じないんだ」
また、(おそらく)蔑みのこもった目で見上げてくるレイラ。
一度は言ってみたかったセリフを言えて満足だ。
別にメゲてないからな。
「はぁ、あのね、月に一度野外演習があるのは知ってるよね」
「いえ、全く」
あっ、また蔑みの目。
「野外演習があるの!それでね、最初は後期生も混じって5~6人班を作るの。たぶん、私達は関係ないけどね」
「どうして?」
確かに、レイラの実力は中の下といった所だが、足手まといになるほどではないはずだ。
「それは、」
「コネだよ」
「うおっ、ケビンか」
さっきまでグースカ寝てたはずなのに、この爽やかな感じはなんなんだろう。
「それで、コネってどういうことだ、ケビン」
「だから、ここには貴族の次男、三男とかわんさかいるだろ」
「いるな、腐るほど」
「こらっ、ハヤト、声が大きい」
「でだ、後期生の奴らは平民と仲良くピクニックと貴族のボンボンとのコネづくりと、どっちに行きたがる?」
「後者だな」
「だろ、そういうことだ」
確かに、将来安定した生活を目指すならそうするのが大多数だろ。
冒険者養成教習所に入って安定した将来か。
滑稽だな。
「まぁ、レイラとか可愛いから声かけられるんじゃない?」
「かもな」
「もぅー、なに言って…」
ハヤトの茶化しで耳を赤らめるレイラがむくれ、場が和やかになる。
このときはまだ澄んだ空気がおいしかった。
今日の近接格闘訓練も全敗で終わった頃、セレナさんが依頼で森に出て、今日は昼から自由時間だと俺は浮足立っている。
いつもより軽い足取りでレイラ、ケビンと食堂へ向かう。
「ハヤト、もう装備整えた?」
左にいるレイラが問う。
「装備?」
「そう、野外演習用の」
「あっ、俺はもうあるぜ。格好良いのが」
「ケビンには聞いてない」
「あっそう」
「で、ハヤトは?」
装備か、一応銃はもらったまま部屋のベッドの下にかくしているが。
ついでに、こっちに来たときに身に着けていたバックとかもあったりする。
あれは使っていいのか、明日にでも聞いておこう。
「たぶん、まだ」
「たぶんってなによ」
いや、使っていいか分からんし。
言えないけど。
「じゃあ私と今日街に行かない?」
「えっと、今日は…」
「ひ・ま・で・しょ!」
「いや、暇とは…」
「ケビンに聞いたんだからね。ねっ、ケビン?」
「確か昨日言ってたよな、ハヤト。今日は午後から自由で幸せだとかなんとか」
「そうだよっ、だから俺は部屋でのんびりしようと」
「じゃ、暇なんだね?」
レイラの目が怪しく光った気がする。
「…暇です」
「じゃ、午後から街に行こっか」
「…はい」
「うん?」
「…楽しみです」
「おー、お二人さんお熱いね~」
ケビンはあとでシバク。
この世界には休日という概念はないんだろうか。
あぁ、今日も快晴、お出かけ日和である。
食堂で一分でも多くのんびりしようとした所、レイラに叩き出され今に至る。
「なぁ、俺お金持ってないぞ」
「大丈夫だよ、養成所出るときにカードもらったでしょ」
「あぁこれか」
手には縁を銅か何かの金属で覆った木札がある。
「それがね、身分証で、安い装備なら後払で買えるんだよ。あっ、払いは野外演習で稼いでなんとかするの」
なんとかできるのだろうか、野外演習で生き残ることしか考えられない俺としては借金はゴメンである。
「あとさ、」
早く帰れるようブツブツ詭弁をわめきながら、市場を見て回る。
ついつい、焼き鳥のような香ばしい匂いを放つ屋台に引き寄せられるが、お金のない身としては耐えるしかない。
欲しいものが目の前にあるのに手に入らない辛さ。
これを禁欲というのか。
「ねえ聞いてる?この革の装備似合う?」
「うん、うまそうだ」
「なに言ってるの?」
と、毒にも薬にもならない会話を楽しみつつ、もう何件目か分からない店に入る。
「げっ、」
「どしたの?」
「おや、ハヤト」
セレナさんがいた。
「今日は森に出ていらしたのではなかったでしょうか?」
敬語が自然と口から出た。
「割と早く終わってな。それより…」
「今日も良い天気ですねー」
この流れはものすごくマズい気がしたので、話をそらs…
「私の指導がない日は女の子とデートか、ハヤト」
そらせなかった。
「え、いや、これは、その」
どうにか叱責だけは避けたい俺だが、頭は真っ白である。
「ハヤト、この人誰?」
後ろからレイラがささやく。
「ギルド、”銀翼の鷹”のセレナといって分かる?」
「えー!!セレナって、セレナ・リースフェルト、さんのこと?!なんでナールブなんかに?!」
ちなみに、ナールブとはこの街の名前である。
「そうそう、それそれ」
「ほぅ、人を脇において、その上それ呼ばわりか」
「も、申し訳ございません!!」
どうしよう、変な汗まで出てきた。
「は、はじめまして」
レイラもたじたじと挨拶している。
「あの、今日は装備を見に来ていて…」
ナイスフォロー、これはセレナさんも強く言えまい。
「そうなんですよ~。今度野外演習があってですね」
「ふむ、そうだったか。ならうちのギルドで見繕えばいい」
「えっ、いいんですか」
「ああ、そのほうが金もかからないだろ」
「あの、私もいいんですか?」
タダで、しかも有名ギルドからもらえるというのでレイラの目が輝いている。
「いいぞ。これもなにかの縁だしな。ただし、初心者装備だけだ」
「はい、ありがとうございます」
なんとか丸く収まり、ギルド支部へ向かう一行。
「リースフェルトさんはハヤト君とどういった関係で?」
急に君付けされるとむず痒い。
「師弟関係みたいなものだな」
「ちょっ、セレナさんそれ言っていいんですか」
何故か、俺と親密な関係を漂わせてくる。
「ああ、ハヤト君が午後出ていくのはそういうわけでしたか」
こちらも語気が荒い気がする。
なにか悪い事したかな。
「そういえば、今日は午後から空いている、とハヤト君喜んでましたよ」
ちょっ、あんた、それ言う、ここで。
この少女、さっきはナイスな切り返しをしたと思いきや、今は俺を追い詰めている。
キッ、と睨みつけてくるセレナさん。
サッと目をそらし、道端の石を数えだす俺。
ニヤニヤとこの状況を楽しんでいるであろうレイラ。
「ハヤト、明日はどんな稽古をしようか?」
その微笑みは怖いです。
「えっとですね、稽古が休みというのが嬉しいわけではなくてですね、ただ、レイラとお出かけするのが楽しみだったんですよ」
サッ、顔を真っ赤にして何か言いたげなレイラの口を塞ぐ。
これが嘘だとバレると終わる。
「ふーん、そうか。その女のほうがいいか」
セレナさんは怒りは消えたのか、肩を落とし前を向く。
後ろから様子を伺うが、特になにもなさそうなのでレイラの口を塞いでいた手をどける。
「なに言っちゃってるの」
まだ顔の赤いレイラが小声で怒鳴る。
「後でちゃんと謝りなよ」
「うん」
確かにこんな鍛えても大した成果の上げていない俺の面倒を見てくれるセレナさんにとても失礼であったかもしれない。
セレナさんを落ち込ませたことは素直に謝らなければいけない気がした。
翌日、セレナさんの稽古が激しさを増したのはこれが原因であろうことは想像に難くない。
太陽の光が部屋に差し込み、キラキラと輝いている。
これがホコリのせいだとは知らないほうが良かったと思う。
ここ、冒険者養成教習所には半年間通わなければならない。
三ヶ月を目処に半数が入れ替わる。
俺はあと五ヶ月以上いないといけない。
心躍る冒険は当分先である。
まぁ、今の俺だと初心者向けフィールドでくたばる気もするが…。
「おはよ~、ハヤト」
寝癖が癖っ毛か判断に迷うアホ毛を揺らしながらレイラが声をかけてきた。
「おう、おはよ」
「ケビンは?」
「部屋においてきた」
「ひどーい」
ぶすっとした感じで聞いてくるが、蹴飛ばしても起きない奴をどう起こすのかお聞きしたい。
「じゃあ、今から二人っきりだね」
食堂で二人っきりもなにもないと思うのだが、朝の澄み切った空気にふさわしい笑顔で言われ、たじろいでしまう。
「お、おう、まぁ、そうだな」
なんとも間抜けな姿であるが、実際に考えていることと口に出した言葉が違うことなどよくあることなのである。
つまり、俺は悪くない。
レイラの笑顔による幸せダメージも回復した頃、ふと、食堂前の張り紙が目に留まる。
「なぁ、前・後期生合同野外演習ってなんだ?」
ちなみに、教習所に入って3ヶ月以上たった生徒を後期生、それ以下を前期生という。
「えっ、知らないの」
「俺に常識は通じないんだ」
また、(おそらく)蔑みのこもった目で見上げてくるレイラ。
一度は言ってみたかったセリフを言えて満足だ。
別にメゲてないからな。
「はぁ、あのね、月に一度野外演習があるのは知ってるよね」
「いえ、全く」
あっ、また蔑みの目。
「野外演習があるの!それでね、最初は後期生も混じって5~6人班を作るの。たぶん、私達は関係ないけどね」
「どうして?」
確かに、レイラの実力は中の下といった所だが、足手まといになるほどではないはずだ。
「それは、」
「コネだよ」
「うおっ、ケビンか」
さっきまでグースカ寝てたはずなのに、この爽やかな感じはなんなんだろう。
「それで、コネってどういうことだ、ケビン」
「だから、ここには貴族の次男、三男とかわんさかいるだろ」
「いるな、腐るほど」
「こらっ、ハヤト、声が大きい」
「でだ、後期生の奴らは平民と仲良くピクニックと貴族のボンボンとのコネづくりと、どっちに行きたがる?」
「後者だな」
「だろ、そういうことだ」
確かに、将来安定した生活を目指すならそうするのが大多数だろ。
冒険者養成教習所に入って安定した将来か。
滑稽だな。
「まぁ、レイラとか可愛いから声かけられるんじゃない?」
「かもな」
「もぅー、なに言って…」
ハヤトの茶化しで耳を赤らめるレイラがむくれ、場が和やかになる。
このときはまだ澄んだ空気がおいしかった。
今日の近接格闘訓練も全敗で終わった頃、セレナさんが依頼で森に出て、今日は昼から自由時間だと俺は浮足立っている。
いつもより軽い足取りでレイラ、ケビンと食堂へ向かう。
「ハヤト、もう装備整えた?」
左にいるレイラが問う。
「装備?」
「そう、野外演習用の」
「あっ、俺はもうあるぜ。格好良いのが」
「ケビンには聞いてない」
「あっそう」
「で、ハヤトは?」
装備か、一応銃はもらったまま部屋のベッドの下にかくしているが。
ついでに、こっちに来たときに身に着けていたバックとかもあったりする。
あれは使っていいのか、明日にでも聞いておこう。
「たぶん、まだ」
「たぶんってなによ」
いや、使っていいか分からんし。
言えないけど。
「じゃあ私と今日街に行かない?」
「えっと、今日は…」
「ひ・ま・で・しょ!」
「いや、暇とは…」
「ケビンに聞いたんだからね。ねっ、ケビン?」
「確か昨日言ってたよな、ハヤト。今日は午後から自由で幸せだとかなんとか」
「そうだよっ、だから俺は部屋でのんびりしようと」
「じゃ、暇なんだね?」
レイラの目が怪しく光った気がする。
「…暇です」
「じゃ、午後から街に行こっか」
「…はい」
「うん?」
「…楽しみです」
「おー、お二人さんお熱いね~」
ケビンはあとでシバク。
この世界には休日という概念はないんだろうか。
あぁ、今日も快晴、お出かけ日和である。
食堂で一分でも多くのんびりしようとした所、レイラに叩き出され今に至る。
「なぁ、俺お金持ってないぞ」
「大丈夫だよ、養成所出るときにカードもらったでしょ」
「あぁこれか」
手には縁を銅か何かの金属で覆った木札がある。
「それがね、身分証で、安い装備なら後払で買えるんだよ。あっ、払いは野外演習で稼いでなんとかするの」
なんとかできるのだろうか、野外演習で生き残ることしか考えられない俺としては借金はゴメンである。
「あとさ、」
早く帰れるようブツブツ詭弁をわめきながら、市場を見て回る。
ついつい、焼き鳥のような香ばしい匂いを放つ屋台に引き寄せられるが、お金のない身としては耐えるしかない。
欲しいものが目の前にあるのに手に入らない辛さ。
これを禁欲というのか。
「ねえ聞いてる?この革の装備似合う?」
「うん、うまそうだ」
「なに言ってるの?」
と、毒にも薬にもならない会話を楽しみつつ、もう何件目か分からない店に入る。
「げっ、」
「どしたの?」
「おや、ハヤト」
セレナさんがいた。
「今日は森に出ていらしたのではなかったでしょうか?」
敬語が自然と口から出た。
「割と早く終わってな。それより…」
「今日も良い天気ですねー」
この流れはものすごくマズい気がしたので、話をそらs…
「私の指導がない日は女の子とデートか、ハヤト」
そらせなかった。
「え、いや、これは、その」
どうにか叱責だけは避けたい俺だが、頭は真っ白である。
「ハヤト、この人誰?」
後ろからレイラがささやく。
「ギルド、”銀翼の鷹”のセレナといって分かる?」
「えー!!セレナって、セレナ・リースフェルト、さんのこと?!なんでナールブなんかに?!」
ちなみに、ナールブとはこの街の名前である。
「そうそう、それそれ」
「ほぅ、人を脇において、その上それ呼ばわりか」
「も、申し訳ございません!!」
どうしよう、変な汗まで出てきた。
「は、はじめまして」
レイラもたじたじと挨拶している。
「あの、今日は装備を見に来ていて…」
ナイスフォロー、これはセレナさんも強く言えまい。
「そうなんですよ~。今度野外演習があってですね」
「ふむ、そうだったか。ならうちのギルドで見繕えばいい」
「えっ、いいんですか」
「ああ、そのほうが金もかからないだろ」
「あの、私もいいんですか?」
タダで、しかも有名ギルドからもらえるというのでレイラの目が輝いている。
「いいぞ。これもなにかの縁だしな。ただし、初心者装備だけだ」
「はい、ありがとうございます」
なんとか丸く収まり、ギルド支部へ向かう一行。
「リースフェルトさんはハヤト君とどういった関係で?」
急に君付けされるとむず痒い。
「師弟関係みたいなものだな」
「ちょっ、セレナさんそれ言っていいんですか」
何故か、俺と親密な関係を漂わせてくる。
「ああ、ハヤト君が午後出ていくのはそういうわけでしたか」
こちらも語気が荒い気がする。
なにか悪い事したかな。
「そういえば、今日は午後から空いている、とハヤト君喜んでましたよ」
ちょっ、あんた、それ言う、ここで。
この少女、さっきはナイスな切り返しをしたと思いきや、今は俺を追い詰めている。
キッ、と睨みつけてくるセレナさん。
サッと目をそらし、道端の石を数えだす俺。
ニヤニヤとこの状況を楽しんでいるであろうレイラ。
「ハヤト、明日はどんな稽古をしようか?」
その微笑みは怖いです。
「えっとですね、稽古が休みというのが嬉しいわけではなくてですね、ただ、レイラとお出かけするのが楽しみだったんですよ」
サッ、顔を真っ赤にして何か言いたげなレイラの口を塞ぐ。
これが嘘だとバレると終わる。
「ふーん、そうか。その女のほうがいいか」
セレナさんは怒りは消えたのか、肩を落とし前を向く。
後ろから様子を伺うが、特になにもなさそうなのでレイラの口を塞いでいた手をどける。
「なに言っちゃってるの」
まだ顔の赤いレイラが小声で怒鳴る。
「後でちゃんと謝りなよ」
「うん」
確かにこんな鍛えても大した成果の上げていない俺の面倒を見てくれるセレナさんにとても失礼であったかもしれない。
セレナさんを落ち込ませたことは素直に謝らなければいけない気がした。
翌日、セレナさんの稽古が激しさを増したのはこれが原因であろうことは想像に難くない。
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