異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

二話

 「私達のギルドに入らない?」
 放心していた俺にセレナさんが話しかけてきた。
 今はそっとしておいて欲しい。
 「あの、俺、魔法使えないんですかね?」
 「もちろん」
 なんでセレナさんは笑っているのだろうか?
 「てめぇ、まじか!おい、アレ持ってこい」
 カルバさんは職員に何か頼んでいる。
 いや、叫んでいる。
 「どうかな?」
 「えっと、知力を買ってくれたんですか?」
 「なに言ってるの?」
 「じゃあ、どうして…」
 「だから、魔力0だからよ!」


 はい?


 「ボス、持ってきやした」
 さっきの職員さんがやって来た。
 手には…、リボルバー?!
 やはり、ここでお陀仏か… 
 「坊主、これ持て」
 「はい…」
 バレルからシリンダーまで黒く、鈍く光り、グリップには艶のある木目が見受けられる。
 確かな重量のそれを渡される。
 そして訓練場へ連れて行かれた。
 ここまでの所要時間二分。
 「坊主、ちょいと撃ってみろ」
 まだ、死ぬ覚悟はできていない。
 「ハヤト君、あの的に試し撃ちしてくれる?」
 案山子みたいなものを指差すセレナさん。
 あっ、そゆことね。
 「じゃあ、撃ちます」
 昔見たアニメでの撃ち方を真似てみた。
 タンッ。
 思ったより少ない反動だった。
 案山子には穴が空いている。
 「やっぱしな。こいつぁ大穴じゃねぇか」
 「私達ついてるね」
 何故か、大騒ぎする二人。
 「あの〜、どういうことですかね?」
 そりゃ、銃弾だったらあのくらいの威力は普通だろう。
 命中させたからかな?
 「それ、知らないの?」
 「はい」
 もちろんリボルバー(元の世界版)は知っているが、なにか違う気がしてとぼけてみた。
 「まぁ、ギルド同士で機密管理してるし仕方ないか」
 と言ってセレナさんが説明してくれた。


 


 「はい、じゃあここに泊まってね〜」
 「あっ、はい、セレナさん、ありがとうございました」
 そうして、宿に案内され、一休みすることとなった。
 なんか、イージーモードすぎないか…。
 少し奇妙に思いながら先程の説明をメモしたノートを開く。


 ・この世界の人は魔力を持っている。
 ・さっき渡されたリボルバーは遺跡から発掘された武器である。
 ・この銃は魔弾と呼ばれる不可視の魔力塊を空気中のマナから生成し、高速で撃ち出す(つまり、弾無限)。
 ・しかし、魔力の持つ者には扱うことができない(魔力の持つ者が無意識に放出させている魔力が誤作動させているといわれている)。
 ・この銃は武器としても優秀だと解析されるが、魔力のない人がほとんどおらず、骨董品と化していた。
 ・そこで、俺氏が現れる。
 ・ものは試しとやってみると、成功。
 ・有力なギルドメンバーとして囲われる。


 てな感じか。
 いやでも、衣食住すべて提供されるって。
 どんだけ凄いんだろうか、この銃は。
 いや、まぁ文明レベルが中世くらいのこの世界だと凄いかもだけど。
 あと、銃が遺跡からって、なんかチグハグだな〜。


 それに、明日から冒険者養成教習所に行ってね!
 だと、イージーモードだな。異世界での俺。
 もうこの世界で生きよう!


 


 そう思ってた頃がありました。


 


 「駆け足、前にー、進め!」
 「「「はっ!!」」」 
 冒険者養成教習所、国と各ギルド、教会が資金を出し合い、国防と優秀な人材確保のため設立された血の気の多い若者が切磋琢磨する箱庭である。
 そして、今の俺は…
 「谷川ハヤトッ、ペースを上げろ!!」
 走ってます。
 もうすぐ、50キロです。


 イージーモードだと息巻いてた2週間前の俺。
 猛省中である。
 世の中そんなに甘くない。


 


 


 


  


 

コメント

  • 創生の解放軍<リペリヲン> 死滅殺忌

    ふっ、人生は常にベリーハードだぜ...

    0
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