書道室で聞いてしまったことを僕は嘘だと信じていたいがどうやらそうでもないらしい。

ノベルバユーザー235268

4.僕も嬉しいとか思う。

『大丈夫、上手くいく。』

この言葉を笹原に入れるのは何度目だろうか?

話は先週に戻る。

僕は先週あいつと同じゲームを始めた。原因は普通に楽しそうにゲームをやる笹原を見て楽しそうだと思ったこと。ただ武器の強さやキャラの強さなどが全くと言っていいほどわからない僕からしたら笹原に聞くしかないのだ。それが故にLINEを始めた。最初はLINE内ではゲームの話をしていたのだが、だんだん部活やクラスや家での話になっていったのだ。家の話を聞かれるのは嫌というのはどうやら“聞かれる”に観点があるらしく、自ら話すことには抵抗がないのかはたまたLINEで顔が見えてないせいなのかは分からないが、割と家の話もしてくれる。兄がどうだった、母に怒られたなどなど。そして話は唐突に日商簿記検定の話になったのだ。

『先輩。』
『どうした?』
『僕、検定受かりますかね?』
『笹原は頑張ってるじゃん、最近過去問の点数も上がってきてたし。大丈夫だと思うよ。』
『でも、何か嫌な予感がするんですよ。』
『大丈夫だって、6月に日商簿記検定3級の合格率100%の簿記部だぞ!?』

ふざけたつもりだったのだ。この一言は。

『なんか、それが崩れる気がして。』
『たとえ僕が受かったとしてもなにか昔から積み上げてきたものを壊す気がして。だから、僕怖いんです。』

笹原の本音だった。当たり前だよなっと少し思う。過去問の出来を見ると差がひどい。正直僕らも2年生も不安じゃないかと聞かれればかなり不安だった。ましてや今回は例年より検定までの期間が少ない。10日というのは案外でかいのだ。それが故にこいつの不安を煽り、過去簿記部の日商3級合格率100%という数字がさらに不安を煽り、吐き出す場もなく、辛かったからこそポロリと僕とのLINEで呟いてしまったのだろう。

『大丈夫、何があっても問題ないよ。』
『でも、もし……』
『もしもを言ってちゃ始まらないだろ?大丈夫、何があってもいつも通りだから。』
『ありがとうございます。なんか、頑張れるような気がしてきましたよ。』
『ならよかった、お互い頑張ろうか。』

僕だって日商1級が待ってるのだ、あ〜、怖い怖い。ほんと僕はその日が来て欲しくないって心の底から思ってるよ…。

それからも笹原は不安になるたびに僕に連絡をよこすようになった。多分東雲とかに言わないのは教えてくれる2年生に気を使ってのことだったんだろう。最初は何故僕に?なんて思っていたが今はそれなりの言葉で励ましている。だからだろうか、予測変換には大丈夫と頑張れとムリするなよが多発するようになった。正直、そんなにその言葉を入れてたことに驚きを隠せない。

そしてそんなLINEは今日も入る。
『先輩、今日の結果見ました?』
『見た、どう思う?笹原は。』
『正直まずいかと』
『だよなぁ…』
『心愛とか50超えないってうるさくなってきてて…真也も、辛い辛いって僕にアホほどLINE入ってるし…。』
『それ、お前にとってかなり迷惑じゃね?』
『ええ、まぁ。』
『お疲れ様。』

毎日こんな感じ。それを何度も何度も、でも僕も嫌じゃないしついつい返信してしまう。なんだかここまで弱っていると救いたくなるのが人間事情、先輩事情ってやつだ。そしていつも会話終わりにぽそっと一言書く言葉。

『僕、受かんなかったからどうしよう…』

心の中が反映されている様な独り言の様な一言。

『大丈夫、上手くいく。ましてや中間終わりだろ?まだ時間あるし。』

誰かがこの一言を笹原を救ってやれる言葉を言ってやらないと、笹原が壊れていきそうな気がして仕方がなかった。きっとたくさんの重圧があるのだろう。

結果が出た時こいつが笑っていられると、僕も嬉しいとか思ったりする。

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