書道室で聞いてしまったことを僕は嘘だと信じていたいがどうやらそうでもないらしい。

ノベルバユーザー235268

3.恋しいとか思いたくない。

「ほら〜、そろそろ部室出て!6時半だぞ。」

6時半、それは部活終わりで残っている人間のタイムリミット。要するに帰れってこと。ちなみにだが月崎は我らが担任きよちゃんに連れていかれた。

「んぇ〜、嫌ですって菜奈先輩、ちょ、だから体重かけないで!重いからァァァ!!」

出た、笹原がうるさくなる時間。こいつはとにかく忙しいなと心の中で呟く。

「嫌じゃねーの、俺帰れないでしょ。東雲も笹原に乗るんじゃない。」
「嫌です、私はささちゃんに乗るの〜。」
「何が嫌なんですか、乗るのはホントに勘弁してください。重いんですからね。」
「ささちゃんが軽すぎるのが原因だよ、きっと。何キロだっけ?」
「30…………9?違う、8だ。」
「38!?軽すぎるって!」

流石にびっくりはしたが後輩の体重を叫ぶのもいかがなもんだと思うぞ、東雲。ちなみにだが横にいる須恵島は軽っ、死ねって呟いている。恨まれてるぞ、笹原。

「言っときますけど、これでも一時期よりマシになったんですからね!?ほんと一時期30後半ない時は流石にまずいって思ってましたし〜〜。ちな、中2。」
「もう死んでるんじゃない?」
「菜奈先輩って猟奇的ですよね。可愛い顔のサイコパス。僕は好きになれないっすね。」
「君の好みなんて知らん!」

確かに〜なんて笑ってる笹原。だがな、君たち。部室を出ていけ、僕が帰れないだろう?なんなんだよ。帰したくないのか!?意地悪か!?ん?ん?ん?

「頼む帰ってくれよ……。」
「嫌に決まってます。」
「笹原ぁ…。」
「すみません、紅月先輩。僕も帰りたくないので。」
「なんてこった…。」

そう言えば笹原はいつも帰りたがらない。元々根っからの家好きだと聞いていたのに…?中学の同級生でこの部である、菅原が言っていた。ここまで家を嫌がることなんて無かったのに、と。

「なぁ、なんで帰りたくないわけ?」

素朴な疑問はぶつけてやれ、謎の精神だけど許されるだろ。気になるんだ。

「…僕の家ここから1時間かかるんすよ、ましてや帰宅ラッシュに突っ込めば1時間じゃすまないんですよね。」
「ふーん。」
「だからめんどくさいなって、帰るの。」
「……そんだけ?」

まさか、まさかな。そんだけとか言われたら流石に僕怒るよ?

「…ほかの理由は、言えないです。」
「とりあえずあるのか、教えてほしいな。」
「…僕のことを知ろうとしないでもらっていいですか?迷惑なんで。」

今までに見たことない笹原の顔。そんな悲しそうな、辛そうな、嫌そうな顔しないでほしい。好奇心ってこういう時は邪魔だな。

「なんで知っちゃダメなの?」
「先輩、人間は己のテリトリーに踏み込まれるのは嫌なものなんですよ。」
「ふーん?そいうもん?」
「少なくても僕は。」

訳がわからない、己のテリトリーなんて踏み込まれてなんぼでしょ?そう言いたいけど多分それは個人の世界観の違いだからどうしようもないものなのかもしれない。

「大体、僕は僕によってくる人間は基本好きになれないので。」
「んぇ!?わたしは!?」
「菜奈先輩は僕から体当たり状態だったじゃないですか。人から自分のこと聞かれるのは死ぬほど嫌いなんで。ましてや家の事情なんて、死んでも嫌ですね。まぁどうしても聞きたいというならあの世に行ってからってのでどうですか?僕は大歓迎ですよ、なんなら僕があの世にいや、地獄に落としてやりましょうか?それって僕には天国なんですよ、知ってました?」
「知らないよ」
「ってか喋りすぎた。疲れた。」

はぁって溜息をつきながらも飲み物を飲む笹原。その顔はどこか不満げでまだ言いたいことでもあるのかと思うほどだ。これ以上この話が続いても僕的には厄介だし、帰ってもらうかな。

「兎に角、俺は帰ってもらわないとどうしようもないんだよ。頼む、な?」
「仕方ないですね。菜奈先輩、帰りますよ。」
「むぅー。ささちゃんが言うなら仕方ないか……。」
「じゃあ、お疲れ様でした。」

ぺこりという効果音がつきそうな感じで頭を下げて部室を出る笹原。

「おっつーでした。」

東雲は相変わらずだ。まともな挨拶などあいつに期待していないしいいだろ。

「…さて、帰りますか。」

誰もいない部室に響く僕の声。須恵島もいつの間にか帰ったみたいだ。ちょっとだけさっきまでの騒がしさが、笹原のけたけた笑う声が恋しいなんて、思ってないと思いたい。

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