異世界を8世界ほど救ってくれって頼まれました。~本音で進む英雄譚~(仮)

八神 凪

1-16 予・想・外!

 
 領主部屋で一人業務を続ける刺客……。
 この世界はすぐに壊れ……壊してしまうと頭では分かっているのだが、何となく仕事をしてしまうのだった。

「……私にすぐ壊す力があれば……勇者とやらも送られたみたいだしちょっと洒落にならない気がするんだけどどうなんだろうね?」
 神と話していた時は割と紳士っぽかったかが今はだいぶ軽かった。

 シーン

「……まあそうだよね、こんな夜遅くに返事が……」

 コンコン

「おほぅ!? ど、どちら様かね?」
 何の気無しにおどけてみたらドアをノックされ、ちょっと焦りながら返事をする。

「お食事をお持ちしました」

「食事……?」
 そんなものを頼んだ覚えはない……刺客は思ったが……。

「そういえば腹減ったんだよな……おい! 入っていいぞ!」
 不用意に鍵を開けた。

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 その数分前

「さて、どうやって入る?」

「もう正面からでいいんじゃないでしょうか? とりあえず斬っちゃえば騒ぎにもなりませんし……」
 フィリアが俺と同じ思考をし始めた、マズイ傾向だ。

「一度様子を見るか……食事を持ってきたとかどうだ?」

「いいわね。私がやる?」

「いや、ここは俺が……」

「何でですか!?」
 異論は認めない。

「お食事をお持ちしました(裏声)」

「やっばいわねそれ……ぷぷ……」
「や、やめてくださいようもう……ぷぷぷ……」
 ふむ、緊張感を払拭したかったんだが、成功したようだ。そして中から「入っていい」と鍵を開ける音が聞こえる。

「……行くぞ」
 俺が合図すると、二人が頷き俺の両脇に立ち、扉を開けた。



「いやあ、助かったよ……毎夜書類がさあ……やや!? お前達は何者!?」

 リアクションがちょっと古い、灰色オールバックがオーバーリアクションで驚いていた。

「あ、勇者です」
「私も」
「私は違います」

「勇者だと!? 飛んで火に居る夏の虫とはお前等の事だな! ここで始末してくれる!」

 もうちょっと隠そうとすると思うんだけど……まあ、話が早くて助かる! 俺はコントローラーを変形させ魔力刃を形成する。

「ほう、中々いいものを持っているな!」
 刺客は槍で俺達に応戦する、先が真っ赤ないかにも何かあるタイプだなこりゃ!

 ガン! カキン!

 俺と切り結び、鍔迫り合い状態になる。

「ふふふ……やるじゃないか……レベルはいくつだ……」

「……5だ……」

「俺と2しか違わんか! 鍛えているな!」
 マジで!? ガチでレベル7なんだあんた!? 俺が驚愕した所で、横から綾香に斬りつけられていた。

「ぐわああああ!? くそ……三人相手はやは……あばばばばばば!?」
 肩を綾香に斬られて、体勢を立て直そうとしたところでフィリアのライトニングを受けて痺れていた。

「……」

「ふ、ふふ……流石は勇者……俺の真の姿を見せてやる!」
 お! ちゃんと奥の手があった! でかした刺客! お客さんもこれで満足だよ!

「……皮膚の色が変わったわね」
 綾香が冷静に突っ込み、フィリアが追い打ちをかける。

「気持ち悪くなりましたね……」
 ちょっとどうしていいか分からないという表情のフィリアが何気にショックだったのか、顔を赤らめたり青くなったりと忙しい感じになっており、大変気の毒になってきた。

<ハルさん、時間もありませんし斬りましょう。正体を現したのでトドメを刺しても御咎めはありません!>

 ローラが魔力残量を気にして急かしてきた、ええい仕方あるまい!

「気持ち悪い……俺が気持ち悪い……」
 虚ろな目でどこぞのリアルオン〇ィルムのコンティニュー画面のようにふらふらとしながら何かぶつぶつと呟いていた。隙だらけだ。

「さらば刺客!」

「え? ぐはあああああ!」

 俺の剣は見事、刺客の胸を貫いていた!


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 刺客は床へ倒れ、絨毯を血で汚していた。
 目を瞑っており、その目には涙が光る。しかし俺には確信があった。


「ふう……まだ生きてるんだろ?」

 すると刺客はムクリと上半身を起こしパチっと目を開けた。ごめん、そんなに元気だとは思わなかった。

「よくぞ俺を倒した……流石は勇者と言ったところか……」

「いや、あんたレベル7って低すぎない?」
 綾香が感極まったように言う刺客に文句を言い始めた。まあ殆ど俺達と変わらんからなあ。

「……領主に成り代わり、この世界を壊すのが俺の役目だった……しかし毎日、強盗やらスリやら事件が起こり、その対応に追われる……レベルを上げている暇なんかあるか!」

突っ込みどころが多すぎて迷う。俺と綾香がオロオロしているとフィリアが軽く突っ込んでくれた。

「あ、そこはわたし達と同じなんですねー。この辺の魔物はレベルそこまで高くないですし」

「そうなんだよ! ちょっと北へ行けば山があるんだけどな、そこまで行けばまあまあ良い魔物がいるんだけど仕事が忙しくて行けないんだよ……何でか知らんが同じような刺客は居ないから交代もできんし……」

 休みの日は寝て過ごすみたいな人が出た。
 刺客も結構大変なんだな……まあ、俺達は助かるけど。

「さて、俺は負けたし帰るかな……悪くない世界だったけど、仕方ないな」
 旅行気分か。

「というか死なないのか? 胸ぶっさしたのに?」

「あーこの世界に存在するための『核』を壊されるだけだからな、俺達は。この世界で多世界の俺は『死』の概念は無いんだ。まあこの時点で俺はお前達に手を出すことも出来ないから実質死んだようなもんだが……」

 そういって刺客は俺に殴り掛かってくるが、痛くもかゆくも無かった。

「な? 存在が浮いてしまうからこうなるんだ。それじゃ本物の領主の所へ案内しよう」
 刺客はテキパキと事務的にこなしていく。手際がいいな。

 奥の部屋へ行くと、ベッドに寝かされているおっさんが居た。今の刺客と同じ顔をしているからこの人が領主だろう。

「おっと、神様に報告しないと……あーあー」
 刺客が急に水晶を取り出し、何やら声を出すと、ブゥゥンという音と共に何かが映し出される。

「おう……」
 寝起きだ、ナイトキャップを被った緑髪の男が不機嫌そうに水晶の向こうで声をあげる。

「すいません、勇者に負けまして……」

「マジでか? さっき勇者探すっつったのにもう?」

「ええ、すでにこちらに来てましてね。たった今……」

「え、その人がラスボス?」
 綾香がひょいっと後ろから顔を出し、緑髪の男を見ると……。

「お前が勇者か? ……ほう、へえ、ふーん……可愛いな……」
 威厳もくそも無い神だった(まあ俺を送り込んだ奴らもたいがいだったが……)。
 嫌な予感がするぞ、これ。

「お前俺の嫁に……」
「嫌よ」

「0.75秒、まあまあですね」
 フィリアが謎の計測をし、綾香が速攻で振った。

「俺は神だ、何でもしてやれるし欲しい物もやれるぞ?」

「テンプレ対応ありがとうございます!」
 何となくイラっとしたので、俺が割り込むと緑髪の神(ややこしい)が驚いた。

「何だお前は!? まさかお前も?」

「おう、しんのゆうしゃだ」

「なるほど、お前がその子の彼氏というやつだな?」
「違……」

「そう! そうなのよ! だからいくら神様でも、私はダメよ!」

「面白い! この先の世界にも行くのだろう? お前達が世界を救う事が出来なかったらその女は俺がもらう。異論は認めない」

「嫌だって言ってるだろう? だいたいお前のせいでこんなことになってるんだ。お前こそ首を洗って待っていろ」
 だんだん勝手な言い草に腹が立ってきた俺は睨みつけて反論する。

「まあ良かろう。その内泣きついてくる顔が思い浮かぶわ!」
 これは何を言ってもダメなタイプか……さてどうするか……。

「あ、すいません……そろそろいいですか、盛り上がってるところ……」

「あ、お前居たの? ああ、負けたんだっけ? ならこっちに戻ってこい。領主はちゃんと解放しとけよー30分後に転送されるからきちんと後片付けしとけ! じゃあな!」
 それだけ言って緑髪の神は水晶から姿を消した。くそ、もう少し文句言いたかったのに!

「大変ですね……刺客さんも……」
 フィリアがボー然とする刺客を見て困り顔をしていた。困った顔かわいいな。

「まあ、あの神はいっつもだから……お前達を巻き込んで申し訳ない」

「あんたのせいじゃないだろうしいいよ、それより次はどうすればいいんだ? 俺達はシルトって人を探してるんだが……」
 敵に聞くのもアレだなと思ったが、何となくイイヤツそうなので聞いてみる事にした。嘘でもあまり困ることはないだろ。

「それなんですが、俺達も知らないんだ。王宮のボスを倒すには……ああ、これ以上はダメか。さて、領主も目を覚ますだろう。俺の名前はルボワールだ、縁があったらまた会おう!」

 もう会う事は無さそうだが、とりあえず手を振って消えるのを見送った。何とか中ボスを倒すことができたか……。

「あ、領主さんが起きますよ」

「ん、んん……? わ、私は一体……そうだ! 私と瓜二つのヤツに!」

「よう、目が覚めたか? あんたに成り代わっていたやつは倒した。これでこの町は安心だ」

「ふむ……いきなり言われても、と言いたいところだが嘘では無さそうだな。お前達が敵ならここで始末されているだろうしな」
 中々分かっている人だな。出会え出会え! って言い始めるかと思ったけど、話は通じそうだ。

「今は……夜か……とりあえず状況を把握したい。君達着いて来てくれるかね?」

「分かった。おい、綾香行くぞ」
 さっきから大人しい綾香を見ると、なんだかトリップしていた。

「ふふ、彼氏……陽が彼氏に見えるって……」

「置いていくか……」

 ともあれ、俺達は無事領主を助け出すことに成功した。
 刺客も大変だ、という事と神は全体的に変な奴ばかりだという事が改めて分かったのはでかい。

 うまくすれば味方になってくれるんじゃないか? そんな期待をしつつ、俺は領主へと付き添うのだった。

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