ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-58 人を許せる強さ


 3-58 人を許せる強さ


「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 オウカの刀が緋色に染まる。まるで持ち主に呼応しているのか明滅し、淡い光を放つ。

 剣術極意。飛花落葉ひからくよう

 飛花落葉の極意は至って単純。一歩一歩が最適解。一手一手が最適解。敵の攻撃はくぐり抜け、攻撃は全て急所へと全て当てる。

 正しく剣術の終着点。達人を越えた域へとオウカを押し上げた技能。

 剣聖の太い腕に刀を入れ、滑らせるように斬る。腕を抜けたら脇腹へ。腹筋を縫うように斜めに刀身を動かして斬る。

「ぐおおおおぉぉぉ!?」

 胸の辺りで抜き、次は首筋から脇の下までへと。瞬く間にバッテン印の傷跡を付けられた剣聖の身体からは血が吹き出す。

「ぜいやぁぁぁッ!!」

 あまりの激痛に身を捩らせて剣聖は怯んだ。その隙を見逃さず転ぶようにオウカは身を屈ませて両脚の健を切断する。体勢を崩す剣聖へ、駆け上がるように刀を振るう。

 剣聖は死力を振り絞って殴ろうと拳を固めるが、その前に倒れ込む勢いと自重と合わさって股下から肩までスッパりと斬られた。

 神経系が斬られたのか腕が動かない。

 この正確さ、この立ち回り。

 何もかも見越して斬っているとしか表現ができなかった。

 膝を付き、無防備となった所へ追撃が加わる。袈裟懸けに振るわれたオウカの刀により、斬られていた肩の切り込みから刀を通された。

 通された刀は不規則に動かされる。ぐちゃぐちゃと体内の臓器を複数切り離し、腹の中から不気味に蠢く赤黒い肉片を幾らか抜き取られた。
 
「お、おのれぇぇぇ!!」

 血反吐を吐きながら剣聖は拳を握る。再生能力を使いすぎて治る速度が遅くなっているがそれでも充分。腕の再生を優先させて復活させ、たったの寸秒の間に元の腕に治してみせた。

 憤激の正拳突き。刀を体から抜き取ったオウカへと当てようとするが、今度は素手で防がれてしまう。

「な、なにぃっ.......!?」

 バキゴキと骨が砕ける音が鳴った。

 オウカのではない。剣聖のだ。

 拳がひしゃげて凹む。指があらぬ方に曲がるどころか、腕の骨まで衝撃が走って罅が入る。

 やがて腕全体が圧縮されて皮膚の穴から血が飛び散り、剣聖は勢いを押し殺せぬまま後方へと転がった。

「ぜぇ.......ぜえ.......っ! 莫迦な、若き体を手に入れた爺やが負けるだとっ.......!」

 起き上がろうとするも足から血が止まらない。オウカの極意は汎用性が高く、シンプルながらも剣聖を追い込めるものだった。

 先程の動き。刀どころか刀を使わずとも拳で剣聖を殴り飛ばせる程だ。

 身体能力では剣聖が大きく上回ってる。しかし、技量の差ではオウカが遥か上を行っている。かつてのオウカの師であった剣聖からは考えられないことであった。

「終わりだ、お師匠様」

 剣聖の体が跳ね上がる。

 心臓付近への振動。トドメは斬撃ではなく、重たい拳の打撃であった。

 傷口から、口から。至る所から血を撒き散らして剣聖は大きな岩に激突した。

「ぐっ.......おおおぉ.......!?」

 岩から背中を離し、地面に倒れ伏した剣聖は前を見る。

 そこにはオウカも片膝を付いて倒れていた。極意を使いすぎた影響故か、息も乱れ目と唇から血が流れている。

 どちらも動けそうのない状況。それに剣聖は笑い、勝ち誇った笑みを浮かべた。

「ふぉっふぉっふぉぉっ.......。愚かな弟子め。甘い、甘いわ.......! 最後の最後で血迷ったか.......! 刀で一刺ししてればいいものを、甘さ故に拳で殴ることを選ぶとは.......!」

 泡立った血を流しながらも剣聖は這いつくばるように動いている。かなりの重症を負っていたが、ニゲルから与えられた不死の力でその命は未だに健在だ。

 一方、オウカは瀕死の状態。剣聖からのダメージもあるが、慣れない極意を使いすぎて身体に無理強いをさせてしまっていた。

 血管が切れて内出血しているのか全身がチラホラと青黒い痣のようなものが出来ている。特に足と腕は隅から隅まで肌の色が変わっていた。

 今のオウカは一歩も歩くことすらままならない。剣聖も同じであったが、オウカとは違って再生能力がある。時間が経てば再び動けるようになり、トドメを刺すことも容易いことだろう。

 剣聖からしてみれば判断の過ちとしか言いようがない。みすみす自らチャンスを捨てて情けをかけた。甘さが敗因に繋がったのだ。あとは回復するのも待って頭を砕いてしまえばいい。

 ただ、剣聖の判断は最初から破綻していた。

「血迷ってなどない。もう、勝負は終わったのだ。あとはお師匠様が元に戻ることだけだ」

 赤黒い血の塊を吐き出して、オウカは言った。

「勝負が終わった? 何を言っている。爺やが考えを改めるとでも思っていたのか?そんな訳がなかろう! 若い肉体を手に入れることは念願の望みだったのだ! さらさら捨てる気になどなれぬわ!」
「いいや、もうとっくに捨てている。他でもない、拙者が捨てたのだ」
「頭がおかしくなったか! この肉体を捨てるだと? できるわけがなかろう!」

 剣聖は自身の腕をあげてオウカに見せつけた。

 度重なる斬撃の末にグズ肉にされた腕であったが、そろそろ再生が始まる頃だ。骨は繋がり肉で塞がり、望んでいた元の若い肉体に戻る。

 そう、思っていた。

 数十秒経った。

 骨は繋がらない。折れたままだ。

 血は滴り落ちる。肉は塞がらない。

 再生が.......始まらない?

「なん.......じゃと.......!?」
 
 むしろ再生するどころか悪化する。筋肉は剥がれ落ち、体が萎んでいく。

 急速に力が失われていくのを剣聖は感じた。生命の力に満ち溢れた体が以前の老いぼれた体に戻っていく。

「お師匠様のその体。ニゲルから力を貰ったと言っていたが、カラクリはニゲルの肉片を埋め込まれただけであろう」
「それに何の関係がある!」
「拙者は刀を入れると同時に埋め込まれた肉片だけを取り除いていた。お師匠様の元の体の部位を避けて斬っていた。して、最後の一撃で体表の上へと押し上げた肉片を全て飛ばした。だから、終わりだ。お師匠様。もう回復はせぬぞ。もう.......元のお師匠様だ」

 ありえぬ。剣聖は最初に思い浮かんだ言葉である。

 肉体から特定した肉片を刀で押し上げ、打撃で取り除いた。掻き回されるように刀を動かしていた。それが狙いの布石。

 剣聖が完全にニゲルと同じ体であったならば出来なかった芸当だった。

「こんな、はず、では.......!」

 風船の空気が抜けるように剣聖の体は萎む。力が入らなくり、嫌っていた元の体になってしまった。  

「謝りにいこう。お師匠様」

 刀を捨て、オウカは剣聖に諭すように話しかけた。

 ――人を許してあげられるってのはね、本当にひと握りの強い人間でしか出来ないことなのよ。だから大半の弱い人間は決して人を許すことができない。こいつもそうだった。仕返しという名の復讐をして、同じ過ちを犯してしまった。だけど、あんたはどうかしらね――

「全てが終わって、ニゲルを倒したら姫様に頭を下げにいこう。拙者も一緒に」

 エマに言われたこの言葉。オウカは頭の中で反芻し、今ならわかる気がした。

 剣聖は私欲に目が眩んで間違いを犯してしまった。到底、許すことは出来ないものだ。

 ただ、エマの言葉には間違いを犯してもやり直せるという意味も込められてるのではないのだろうか。

 罪は無くすこと出来ないけれど償えることはできる。そのことにオウカは気付かされていた。

 人を許すのは難しい。だからこそ、乗り越えた先には違う何かが待っているとオウカは見た。なによりも、ここで剣聖を殺してしまえばナルと同じになってしまうから。同じことを繰り返してはいけないと知ったからこそ、言えた言葉であった。

「ふざけるなぁっ!!」

 剣聖はオウカの言い分を跳ね除けるように叫んだ。

「温いことばかりを口にしおって.......! 謝りにいこうなど笑止千万! 間抜けにも程があるわ!」

 息を途切れ途切れにしながらも剣聖は言い切り、体を這って動かした。

 その時、剣聖の肘に何やら硬いものが当たった。血と泥で汚れているが、さすってみると鉛色の鈍い光を覗かせた。

「くくく.......そうだ。若い肉体を失った爺やの人生なぞ意味は無い。意味など、なくなったのじゃ」

 剣聖は柄を握る。それは前にオウカから弾き飛ばした二本目の愛刀。

 一本目のように刃はギザギザになっておらず、汚れてるものの比較的綺麗なものだった。

 剣聖は刀を構えて立ち上がる。それを見たオウカは顔を歪ませて捨てた刀を拾おうとするが、引っかかっりを覚えた。

 殺気が、ない。

 自分を殺そうとする殺気が感じられなくなっていた。刀を向けているが、違う。

 そのことに気付いた時は遅かった。

「お師匠、様.......?」

 剣聖の腹には刀が突き刺さっていた。誰の手でもない。剣聖の自身の手で。

 最後に師から残されたもの。それは、自害した師の亡骸だった。


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