ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-54 背中を託して

 
 3-54 背中を託して



「やはり来ましたかウェルト殿。お主が来るのは予想した通りですが、愚かな弟子まで着いてくるのは予想してませんでしたな」

 崖を降りたその先。

 剣聖が洞窟の入口に立っていた。その様は、まるで財宝を守護する番人のように立ち塞がっているかのように見えた。

 睨む剣聖の視線を逸らし、僕は背後にある洞窟の奥に向けて指をさした。

「その奥にメルロッテがいるんだな」
「.......はて?」
「とぼけんな。その立ち位置、守ってるようにしか見えないだろ」

 剣聖はせせら笑い、刀の持ち手に手をかけた。

「まあその通りですな。しかし、簡単に通すと思っているのですかな?」

 烈しい圧が放たれる。背筋が逆立ち、常人ならば足が竦んで一歩も動けなくなる恐ろしい殺気。

 だけど僕は飄々として軽々と受け流す。身も竦む殺気なんて平気だ。二回目な上に、僕は威嚇されていることにもう慣れている。

 僕と剣聖の間に割り込むかのように横からオウカが前に立ち、腕を上げて制止した。

 オウカは目で語っていた。ここは任せろと。

 僕は頷き、一歩下がる。

「お師匠様。お師匠様が裏切ったその時から拙者はずっと迷っていた。そして気付かされたのだ。拙者は自分の意志を自分で決められないままただ流されるように生きてきた。芯もなく、ただ技と体だけしか拙者は成長してこなかったことに」

 ギュッと拳を前で握る。そして迷いを振り払うかのように手を払い、オウカは決意を告げる。

「だけどもう違う! 拙者は垣間見た。気高き覚悟を、信念を突き通す決意を!」
「オウカ.......」
「屍霊魔術師の男は言った。師が弟子の過ちを正すように。弟子もまた、師の過ちを正さなければならないと」

 横を向いてオウカは僕を見て微笑む。

こいつウェルトは言った。間違っていると思ったならぶん殴ってでも止めると。ただ、それだけのことだった」

 僕は少しだけ吹き出してしまった。

 何が迷っていただ。背中を押されたのもあるだろう。だけど、もう自分の考えは出てるじゃないか。

 オウカは刀を抜き、切っ先を剣聖へと向ける。

「永遠の若さを手に入れる。そんな下らぬ事の為に他者を、姫様を犠牲にするその考え。その過ちは拙者が斬って正す!」

 師への反抗。

 オウカが出した自らの答えに、剣聖は静かに怒りを吐露した。

「.......どうやら育て方を間違えたようですな。ウェルト殿達と出会い、成長したのは威勢だけ。そして恩師に盾突こうとは。思い上がりも甚だしい」
「それはどうかな」

 僕は足を踏み出して前に出る。

 オウカ、今度は僕の番だ。

「オウカは全ての迷いを振り切ってここに来た。自分の正しさを信じて、ここに来た! 例え師であろうが関係ない。欲に負けて自惚れたお前なんかに、オウカは負けやしない」

 そうだ。成長したのは威勢だけじゃない。少なくとも、オウカは自分の信念を貫き通す決意を見出したのだから。

 そのオウカが剣聖に負けるはずがない。

「愚かな。爺やは確かに永遠の若さを欲した。その素晴らしさの一端を見せてやりましょうぞ」 

 剣聖が腰を屈み、四肢に力を込めて構える。

 途端に想像を絶する威圧感が僕達を襲い、剣聖を見る見るうちに変貌させていく。

「ぐがああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 雄叫びと共に剣聖の体が膨れ上がった。着ていた道着が膨張に耐えきれず弾け飛び、血管が浮き出て赤みを帯びた肉体が姿を現す。

 骨格や体の大きさなど完全に無視した筋肉の膨張。それは、剣聖をよぼよぼの老人から筋肉隆々の男へと変貌させた。

「お師匠様が.......ッ!?」

 太くなりすぎた脚が石の大地にひびを入れ、伸ばされた腕が周囲一帯を薙ぎ払う。

 オウカと同じで僕も驚いている。

 以前、剣聖のように体が変貌する似たような状態を見ているからだ。

 それはユリウスだった。白銀の悪魔と言うべき異形の怪物に化けたユリウスは戦闘力が桁違いに跳ね上がった。

 剣聖はまだ辛うじて人の形を保っている。ユリウスほどではないにしろ、剣聖の戦闘力は以前とは比べ物にならないぐらい上がっているだろう。

 殺気が違う。威圧が違う。あまりのおぞましい見た目で睨まれるだけで体が強ばって動かなくなりそうだ。

 だけど不思議だ。それなのに、僕は不思議と今の剣聖を弱くなったと感じていた。

「.......醜いな。これが求めていたものなのか?」

 太くなりすぎた腕では刀も満足に握れないだろう。なにより体の大きさ自体が変わったぶん、これで培ってきた技術は0からのやり直しとなる。

 ステータスは上がったに違いない。しかし、剣聖はそれよりも大事なものを捨てていた。

 知識を、経験を、剣術を。醜く丈夫な肉体と引き換えに手に入れてしまった。

 今の剣聖は強くなっただろうか? 答えは否だ。いくら醜い見た目をした体を若い肉体と言い張ろうとも、剣聖の身に起こったことは退化に過ぎない。

「ふしゅぅぅぅ.......。黙れ小童。この姿を初めてお披露目する相手がお主達虫けらなのが悔やまれる。この肉体の素晴らしさを理解できない低脳共に見せるのはもったいないからだ」

 口調までもが変わり、声が重く低いしわがれた声に裏返る。

「ウェルト、お主だけはすぐさま息の根を止めてやろうぞ!」

 言うなれば早く。剣聖は大地を蹴って砕き、獣の如き素早さで飛びかかってきた。

 狙いは僕。剛腕を振るい、大きな拳を叩きつける。

 轟音と爆音。

 砂埃が激しく巻き上げられ、地面は爆発したかのように黒く消し炭む。後には巨大な穴型の跡が残っていた。

「ぬ.......?」
「剣聖、悪いがお前の相手は僕じゃない。オウカだ」

 トンと足音が響き、剣聖が驚いた顔をして振り返る。

 剣聖の前に僕はもういない。

 なぜなら、僕は既に剣聖の背後を取っていたから。

「いつの間にっ!」
「おっと、見えなかったか? もう一度見せてやる。よーく、見ておけ」

 ガッ!

 剣聖の顔が捻れ、体が傾く。

 至近距離に近づいた僕を掴もうと拳を握るが、捉えられずに足を転ばせられ、腹を蹴られて後ずさる。

「おのれぇ! ゴキブリのようにちょこまかちょこまかとおおおぉぉぉ!」

 剣聖は凝りもせずに再び僕に飛びかかろうとするが、それを遮る人影がひとつ。

「お師匠様、拙者が相手だ!」

 けたましい音が鳴り、オウカが剣聖の手を刀で食い止めていた。拳に刃が食い込み、ギニギニといがみだって拮抗する。

 剣聖の強化された肉体の膂力は生物の限界を超えている。たった腕一本を全身で抑えてるだけで、オウカの足は地面に沈み、全ての筋郡が叫びをあげていた。

「ゆけぇっ!」

 オウカが大声をあげる。

「お前にだけ任せてられぬ! 拙者は拙者のやるべきことをやる! お師匠様を止めるのは拙者の役目だっ!」

 歯を食いしばりながらオウカは言った。僕は首肯いて後ろを向いて走り出した。

「ああ、元からそのつもりだ」

 不安だったけどもう大丈夫みたいだ。今のオウカナなら安心して剣聖を任せられる。

「逃げるなぁ!」

 剣聖の怒号が聞こえた。今度は残った片腕までも使い押しのけようとするが、オウカも負けじとスペアの刀を抜刀し、二刀流で剣聖を食い止める。

「.......姫様を頼んだぞ」

 任せておけ。必ず、僕が連れ戻す。



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