ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-52 決心



 3-52 決心



「ここでグズグズしてどうしたのだ」
「エキューデ.......」

 図書室から離れた庭の隅。俯いてベンチに座っていたオウカにエキューデは声をかけ、隣に座った。

「別に燻ってなどいない。あいつは拙者とエキューデ、どちらを選ぶか分からなくてな。決めてくれるまで待っていたのだ」

 自分で言っておきながら、それは嘘だった。

 オウカは分からなかった。行くべきなのか、行かないべきなのか。

 例え行ったとしても、少年の前で見ていることしか出来なかった自分が何かできるのだろうか。

 また足が竦んで手が震え、棒立ちで見ているだけなら意味はない。それならば隣に座っている男に任せた方が数倍はマシだろう。

 そう、思っているかのように見えた。

「違うな」

 静かにエキューデが即答する。

「連れ去られた姫君が本当に大切ならば、今すぐ我か小僧を殴り倒して連れていけと喚くだろ。そうしないのは師と袂を分けたことが原因だ」

 図星を付かれたオウカは口をつぐんだ。

 その通りだった。

 物心付いた時から慕っていた師が裏切り、メルロッテの命を奪うことに手を貸している。心の拠り所が壊れるには充分すぎる出来事だった。

 絶対だと信じていたものが崩れ去った。

 それが、怖い。何よりも、怖い。

 どうしようもなく、得体の知れない恐怖がオウカを蝕んでいた。

「ひとつ聞きたい。お前は教えを乞いていた師が過ちを犯したと考えているか?」
「それは.......」

 そうだ、と言いかけた。けれども途中で口が重くなって結局は言えなかった。

 その様子を見たエキューデは長い息を吐き出し、少し違ったことを話し始めた。

「お前に剣を教えたように、我にも屍霊魔術を教えてくれた同じように尊敬する師がいた。ドジで間が抜けていて頼りなかったが、まあ、性根は立派なやつだった」

 話し始めたエキューデを、隣から見た横顔は懐かしさや哀愁が入り交じったなんとも言えない表情だった。

「しかし、そんな我の師なのだが一度だけ過ちを犯しそうになったのだ。なんだったと思う?」
「知るか、そんなこと」
「まあそうだな。答えは事故で亡くした妻を生き返らそうとしたのだ」
「なっ.......!?」

 少々ぶっ飛びすぎた返答を聞いて、オウカは戸惑い驚いた。
 
「もちろんぶん殴って止めたがな。生者であった者をアンデッドとして生き返らせればその魂は穢れてしまう。いくら再会したくても、安らかに眠らせておくのが我は正しいと考えた」

 オウカは息を撫で下ろす。

 そしてこんな奴でも人の心はあったのかと、オウカは少しだけ罪悪感を覚えた。

「もう一度聞く。お前は教えを乞いていた師が過ちを犯したと考えているか?」
「.......お師匠様は、」

 またオウカは答えに言い淀む。

 老いた体を若くしたいという私欲のみでニゲルに協力し、黒い魔物へと変貌させる感染源を放って多くの罪なきエルフを殺した。それのみならず、メルロッテをニゲルと共に誘拐した。

 例え恩人だとしても断言できよう。斬るべき悪だということに。

「お師匠様は.......分からない.......」

 そうだ。剣聖は間違っている。断言できる。それは分かっている。

 だけど出来ない。口から出てくるのは迷ったままあねぐ、消えそうなか細い声だった。

 思い出が蘇る。剣を教えることに関しては厳しかったが、孫娘のように扱わられ確かな温かさを感じていた。

 厳格な温かさと言うべきか。大事に扱わられ育てられ、剣聖はオウカを可愛がり、オウカもまた剣聖を慕っていた。

 しがらみなのだろうか。それとも情なのだろうか。どちらにせよ、剣聖との繋がりがオウカの心を迷わせていた。

「お師匠様は.......だめだ、拙者には決めることができない」

 最終的に出された結論は、どっちつかず。

 オウカの心境を体現したかのような、あやふやなものであった。

 その答えを聞いたエキューデは突として立ち上がり、勢いよくオウカの胸ぐら掴んで壁に叩き付けた。

「この、たわけものめ! お師匠様、お師匠様、お師匠様.......。操り人形か貴様は! 自分の芯を持っていないのか! 師が過ちを犯したと理解してるなら、弟子として正してやらねばならぬ! 過ちを正すのが師だけの務めだと思うな! 師の過ちを正すのもまた弟子の務め! それが、師弟の関係ってものだ!」

 啖呵を切って一通りまくしてたエキューデは、ふっと掴んでいた胸ぐらを離した。

「勘違いしてそうだから言ってやろう。お前は姫君を助ける役目もある。だがな、道を踏み外した師を元の正しい道に戻す役目もあるのだ」
「拙者が.......?」

 ハッとしてオウカは知らず知らずの内に刀の束を握っていた。

 他でもない、師から譲り受けた愛刀を。

「ここで事が終わるまで座っていれば絶対に後悔するだろうな。小僧は止まらんぞ。あの目を見ろ。お前の師は改心する前に粉微塵になって帰ってくるだろうからな」
「.......」
「考えろ、腑抜けめ。人に決めて貰おうとするな。自分の意思で決めろ」

 どうしようもないオウカに呆れたのかエキューデは踵を返して去っていった。

「.......」

 ただ、一人残された庭でオウカの目には一筋の光が灯っていた。



 ◆◇◆

 

 僕は図書室で最後の準備を整えていた。

 メルロッテを連れ戻すために黒の境界に突入する。エマの話を聞けば聞くほど何が起こるか分からない。心構えとしては高難易度のダンジョン入ると考えてもいいぐらいだ。

 ロープや勝手に拝借した上物のダガーをふくろに放り込みながら僕は思い迷っている。

 そろそろ時間だ。こんな時こそ焦らずに冷静でいる方が良いのは分かっている。だけど急がなければメルロッテの命は危うい。

 これ以上、オウカに考える時間は与えられなかった。

「変態」
「言わなくても分かってる。僕に出来るか分からないけど、説得してくるよ」

 思わずため息が出そうになる。

 もしも、僕が決めていいならオウカを選んで連れていく。戦力とかそんな視点で決めたわけじゃない。急すぎて酷な話だろうけど、剣聖と決着を付けるのは他でもないオウカしかいない。僕はそう信じて思っている。

 そんな時、扉が軋んで開く音が聞こえた。

 振り向けばオウカが図書室に入り、カツカツと足音を立てて僕に近付いてきた。

「拙者を行かしてくれ」

 オウカは掠れる声で言った。

「正直言って怖い。お師匠様と生死をかけて刃を交わすことが」
「オウカ.......」
「でも、それよりも怖かったのだ。このままお前だけを行かせ、何もしないで蹲るだけの拙者が! 大切な姫様を失うことが! お師匠様を止めることが出来ない拙者自身が!」

 オウカ瞼に涙を滲ませてうつむく。

「だから、だから.......行かせてくれ。.......頼む」

 僕は驚いている。あのオウカが僕に頭を下げたのだから。プライドとか自尊心とか色んなものを放り投げて懇願した。

 たった数分の間にオウカは変わった。さっきまでの怖くて怯えていた目じゃない。覚悟を決めてきた目付きに変わっていた。

 僕とエマは思わず目が合ってお互いに笑い、オウカにデコピンを食らわしてやった。

 いきなりデコピンされてキョドるオウカに、僕は手を差し伸べる。

「何言ってんだ。最初から姫様の護衛なら助けに行くんだよ。そういうもんだろ?」

 嬉しくてついつい笑みが零れる。傷だらけの手を伸ばしてオウカの手を握った。

「助けに行くぞ、メルロッテを」
「.......ああ!」

 傍目で庭に通じる窓の外を見れば、図書室の外でエキューデが微かに笑っていた。



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