ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-46 感染拡散


 3-46 感染拡散


 剣聖は門を潜り抜け、何食わぬ顔で王城の中に入っていた。

 王城は混乱の渦中に陥っている。

 外での轟音と激しい戦いによって避難してきたエルフの恐怖心を煽った.......からではない。

 既に手遅れだったからだ。黒い魔物と化したエルフが他のまだ感染していないエルフに襲いかかり、酸鼻を極めた状態となっている。

「やれやれ、優秀な手下を持つと上の立場としては助かりますが、微妙な気持ちになりますな。ナル」

 頭を掻いて剣聖は苦笑いを浮かべる。その横からピョッコっとエルフとダークエルフの混血児ハーフであるナルが笑顔で顔を覗かせた。

「はいはーい。でも役割分担、ってやつですよ。表で二人を食い止めていたお陰で首尾よく出来ました! 私だったら数秒も経たずに殺されていたかもしれなかったですからね」

 ナルの手には食べかけの料理が入ったトレイが乗っていた。欠けた料理の断面からは黒っぽい粒がポツポツと含まれており、焦げた匂いを放ちながら黒い蒸気を上げている。

 感染源。今日、昼に出したナルの料理にはそれが含まれていたのだった。

「そうだそうだ。剣聖さん、在庫が無くなっちゃいました。取ってきた追加のブツはありますか?」
「ミナト殿にダメにされましたな。ですが、」

 剣聖の言葉が途切れ、口からドス黒い嘔吐物が吐き出された。それは正しく禍夜が残した感染源。剣聖の胃液が混じり玄武岩のような固形の状態から、石油のようなドロドロの液体へとなっていた。

 普通、感染源を丸呑みして体に取り込めばすぐに魔物と化してしまうだろう。

 しかし剣聖は違った。

 魔力を全く持ってない体質のお陰で、幾ら感染源を取り込もうが何の影響も無かった。黒の境界から感染源の回収を行うことが出来たのも全てが剣聖の体質によるものだった。

「ちゃんと保険を付けておきましたぞ」
「さっすが~! って言いたいとこなんだけど、こればっちぃすぎない?」

 ナルはあたかも不快な顔をして手袋を嵌めると、剣聖から吐き出された感染源を回収する。

「ミナトさん、とアシュレイさんでしたっけ。二人は片付けたそうだけど残りのウェルトさんのエキューデさんの二人はどうするんですか? 王城から抜け出したタイミングを見計らってやっちゃいましたけど、戻ってきたら来たでめんどくさいですね」
「それはナル、お主の仕事ですぞ」
「.......えっ」
「お主の仕事ですぞ」

 きょとんとした顔でナルが剣聖の顔をまじまじと見た。

「エキューデ殿は分からぬが、ウェルト殿ならば一緒に仕事をしていた仲。しかもナルは完全にノーマークでしょう。適当なことを抜かして言いくるめ、毒でも使って始末しなされ」
「え~。力技で解決した方が早いんじゃ」
「その力技とやらもウェルト殿には効かなかったでしょう。お主がけしかけたウシ型の黒い魔物も倒されてしまったようですしな」
「.......てへっ☆」

 ナルは可愛く下を出して気まずそうな顔で目を逸らす。

「爺やには爺やの仕事があるのです。ミナト殿に時間を使わされ過ぎた。騒ぎを起こしてしまった以上、早く回収しないといけないのですな」
「はいはい。あー、二人とも私よりも先に鉢合わせてくれないかな~」

 感染源を容器に詰め終わったナルは手袋を外して大きく背伸びをした。

 その瞬間、大きな音を立てて王城の壁が崩れ、中からエルフの男とワシ型の黒い魔物が飛び出してきた。

 嘴を素早く突き出し芝生の生える地面を啄む。男は必死の形相で命からがら逃げてきたようで、這いつくばりながらも剣聖の元に辿り着いた。

「はぁっ.......はぁっ.......! おい助けてくれよ! 俺の妻がいきなり魔物になったんだ! 剣聖! あんたならどうにかできるんじゃないのか!?」 

 助けを求められた当の本人は顔色ひとつ変えず、涼し気な表情のままだった。特に興味はないと言わんばかりに後ろを振り向くと、ナルの肩を叩いて去っていく。

「待てよ! なんで無視するんだよ! おい!」
「残念だったね。助けを求める相手が完全に間違ってるよ。お、ば、か、さ、ん」

 腰を屈んで、ナルが笑顔で男に話しかける。

「どうゆうことだっ!」
「どうゆうことって、この騒ぎは私達がやったんだよ? それがどうしたの?」
「ふ、ふざけるな! なんで、なんでそんなことを.......」
「あーもう、うるさいなぁ。その口を閉じろよ」

 ナルは面倒くさそうに顔を引き攣らせると、エルフの男の口に感染源を捩じ込んだ。

 すぐに吐き出そうとするが、無理矢理口を押さえ付け喉奥に流し込む。そうして苦しみもがいた後、全身の魔力を吸い取られ、見るも無残なフクロウ型の黒い魔物へと化してしまった。

「うんうん。人型よりこっちの方が断然かっこいいね。ほら、行ってらっしゃい。仲間をたっくさん作って来るんだよ?」



 ◆◇◆



「ほらテキパキと脚を動かす! 死にたいの!?」
「エ、エマちゃん! でももう脚が.......」
「姫様に失礼だぞ! ちっ、次から次へと! きりがない!」

 三人の女が逃げている。その後ろからはシカ型の黒い魔物が壁を壊し、通路に蹄の足跡を付けながら追いかける。

 ベースにされたであろう魔物は脅威度A、アーマードガゼルのもの。魔物は鼻息を慣らし、執拗に追いかけていた。

「ちょっとあんた! 一国のお姫様の護衛なら後ろのシカをなんとかしないさいよ! 腐っても剣聖の弟子なんでしょ!」
「無茶を言うな! 刀が全く通らない敵を相手をどうにか出来る訳があるかっ!」

 走りながら怒鳴り声で会話を交わす。オウカの握る刀は刃毀れを起こしていた。理由は勿論、黒い魔物に一太刀を浴びせたせいで作ってしまったものだった。

 黒い魔物は全身全てが魔力で構築されている。しかし、中には魔力操作を扱える強力な個体が紛れ混んでおり、黒髪の少年が戦ったミノタウロス同様、このアーマードガゼルを模した個体もその内の一体だった。
 
 魔力操作はその名の通り、魔力を操るスキル。

 鋼鉄以上の強度を誇る毛皮。巨岩を軽々とくり抜く二本の角。本来ならば見掛け倒しの紛い物だが、魔力操作を使えることによって、自然に生息しているアーマードガゼルと同等、もしくはそれ以上の強度と威力になってしまっていた。

 まあ、オウカは元々魔法は不得意なので刀が通ったとして物理攻撃が効かない黒い魔物に対してはすり抜けてしまい、同じ結果になっていたのだが。

「前からも来ました!」

 メルロッテの忠告でオウカとエマは前に目を向ける。ウシ、ニワトリ、サソリ、カエルと言った多種多様、様々な魔物の姿を模した黒い魔物が道を塞ぐ。

「退いていなさい!」

 エマが懐から綺麗な色をした石を数個取り出し、振りかぶって投げる。

 投げつけた物は魔封石だった。魔法を閉じ込めた使い捨ての魔道具マジックアイテムであり、道中の黒い魔物もこれで倒していた。

 アイスシャベリン。サンダーボルト。フレイムテンペスト。氷の槍が貫き、電撃がその身を焼き、炎の旋風が一欠片も残さず焼き尽くす。中級魔法を閉じ込めた貴重な魔封石を使い、敵を反撃させることもさせずに殲滅する。

「おい! 残りはあと幾つだ!?」
「これで最後よ」
「.......は?」
「これで最後って言ったのよ! 魔封石は護身用の為に持ってきてあったけど、作るのにコストがかかりすぎてもうないわよ!」

 キッ、とエマが泣きそうな顔でオウカを睨んだ。

 これまでに使った魔封石のお値段は約12万ゴールド。具体的に言えば、エマの二年間分の年収が飛んでいた。

「後ろのシカに傷を負わせるには上級魔法を閉じ込めた魔封石じゃないと無理でしょうね! とにかく、お姉ちゃんなら倒せるから探すわよ!」

 三人は後ろのアーマードガゼルから逃走を続行する。かなりの時間走っているが、どうやっても諦めてくれない様子で今も尚追いかけてくる。

 階段を降り、通路を走り、出口に向かったその先には.......

「この魔物ってネメッサの街を襲った.......!?」

 三本指の鋭利な鉤爪。獰猛な牙。丸っこい独特の頭をした体型。次に道を塞いだのは脅威度A、貪食の食人鬼を模した黒い魔物だった。

 大口を開けて黒い唾液を口からボタボタと垂らし、虚ろな瞳は三人を確かに捉えている。

 二体の魔物は挟み込むようにジリジリと取り囲むと、それぞれが自慢の獲物である鉤爪と角を向けた。

「姫様、拙者がお守りいたす」

 オウカがメルロッテの身を守るように刀を構えた。だが、魔封石を全て使い果たした一行には為す術もなかった。

 抗体を持っていないオウカとエマは魔力を吸い殺されて仲間にされ、逆に持っているメルロッテならば物理的に殺されて終わりだろう。

 魔物は三人ににじり寄る。万策が尽きたこの状況下で、倒すことも、逃げることも、何もかも打つ手がない絶望的な現実が襲い掛かる。

 そして最後の仕上げと言わんばかりに貪食の食人鬼が鉤爪を振り上げた時、出口から突風が凪いだ。

「.......ゲェ?」

 貪食の食人鬼の体が斜めにズレる。魔力の飛沫が溢れ、頭部が下からずり落ちる。

「全く、魔物如きが姫様に手を出すのは図に乗りすぎますな」

 カツ、カツ、と靴と通路がぶつかる足音を立てて、しわがれた声が聞こえた。

「お師匠様!」
「お爺様!」

 貪食の食人鬼の頭を踏み倒し、剣聖が姿を現した。

「剣術奥義――花楓はなかえで

 これまで追いかけていたアーマードガゼルも螺旋状に切り裂かれた。剣を振った風圧だけで硬い装甲が角ごと綺麗に切断され、中に貯めた魔力が血のように一気にばら撒かれる。

「さあメルロッテ様、爺やと一緒に逃げますぞ。早くこちらへ」

 剣聖はメルロッテに手を伸ばした。メルロッテはその手を掴もうと――。

 タンッ!

 黒い短刀が二人の結ぼうとしていた手の間に差し込まれていた。
 
 

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