ろりこんくえすと!
3-45 極意を扱いし者
3-45 極意を扱いし者
バハムートの口から放たれたウォーターボール。剣聖から放たれた森羅万象。二つはほんの一瞬だけ拮抗するが、すぐさま剣聖は水の大奔流の中に呑み込まれた。
これで終わりだ。
極意だかなんだか知らねえが、剣聖の森羅万象とバハムートの一撃は比べ物にならねぇ。
バハムートのウォーターボールは言うなればバカでかい鉄砲水。それに対して剣聖は刀。比べ物にすら、勝負にすらなりやしない。
例えるなら津波相手に爪楊枝一本で立ち向かっているようなもんだ。
勝てる訳がない。
それは誰の目から見ても明らかだった。
だが、俺は言葉では言い表せない不安心が胸いっぱいに広がっていた。
剣聖はウォーターバレットを二つに叩き割っている。もしかしたらウォーターボールも.......と考えると頭の中が嫌な妄想で埋め尽くされる。
「.......ちっ」
ええい、何考えてんだ俺。2倍だ2倍。今度のバハムートの攻撃はバレットより威力2倍のボールなんだ。剣聖ったって中身はじじい。呑み込まれて今頃は水圧でぺちゃんこになっているだろ。
そうだ。きっとそうに違いないんだ。
―マスター、真・予測式決戦演算が発動しました。被害範囲が拡大中.......。670、680、690.......。拡大が止まりません。予測不可能―
「ど、どういうことだよ!?」
―2秒後に大規模な衝撃波が来ると推測。防御を推奨します―
ガッ!
アナさんの警告が終わりを告げた後、空で閃光が高鳴った。
警告通り俺の体が横殴りに吹き飛ばされる。地響きと轟音が大地を揺らし、水流が両断されバハムートの巨体が傾いた。
「言ったでしょう」
上からしわがれた声が聞こえた。
ばちゃばちゃと水溜まりに転がって落ちた俺はもがいて空を見る。
バハムートから放たれた水流が真っ二つに割れている。その中から、刀を構えた剣聖が現れた。
「奥義の上には更にその上がある。ひとつの技能にひとつしかない、技能の頂点に君臨する最強の技能。それが、極意」
なんだよそれ.......おかしいだろその理屈は。
技をただ磨いただけで人如きが災害に打ち勝てるのかよ。そんなの反則じゃねえか!
「愚か者よ、覚えておきなされ。極意を扱えし者は世の理すらもねじ曲げる。この程度の水しぶき、爺やにとっては水遊びに等しいのです」
剣聖は大振りに刀を振った。斬撃が飛び、バハムートの巨体が更に傾き苦しそうに悲痛な鳴き声を上げる。
「大海の中の魚よ、世界を知れ。上には上がいる。その上の上にも上がいる。その巨体故に驕ったことが過ちになったのですぞ」
俺の足元が揺れる。静かに、ゆっくりとだがバハムートが空から落ちてくる。そして、地上に落ちたバハムートは地鳴りを起こして息絶えた。
―真・予測式決戦演算が発動。勝率の低下を確認。勝率を再算出。0%―
アナさんが無慈悲にも勝率を告げた。
「王手ですぞミナト殿。よく足掻きましたが、お主の運命は決まっていた」
転んだ俺の額に刀の刃先が立てられた。皮膚が少し避けてうっすらと血が流れる。
いつの間に。このじじい、どんだけ化け物なんだよ。だがな.......
「けっ、何言ってんだ......。教えてやるよ、バハムートはまだまだ在庫が残っているんだ。今度はLv400オーバーの個体を呼び出しててめえを、づっは.......!?」
いきがる俺の台詞は途中で血に塞がれた。
喉から血が込み上げてくる。胃がムカムカして痛い。片腕で胸を掴んで蹲った後、追加の血を大量に吐き出した。
苦しい。喉が熱くなって、血が止まらない。
やばい。なんだこれ。ガチで死ぬ。
「人の話に耳を傾けなされ。爺やは『王手』と言ったのですぞ」
俺は辛い表情を浮かべて眼球だけを動かして剣聖を睨んだ。剣聖は勝利を確信している薄気味悪い笑顔が浮かんでいた。
「おや、知らなかったのですな? 召喚した生き物がダメージを受けるとその一部は召喚主に返ってくるのですぞ。受ける割合は少ないですが、ミナト殿の召喚したデカブツは如何せん体が大きすぎた。それ故に致命傷となったのです」
ふざけやがって、そんなこと説明書に一言も書いてなかったぞ。
―スキルの解説自体読んでないでしょ―
うるせぇ。それより少しでも気を抜いたらまじで意識がぶっ飛びそうだ。どうにかしないと死んじまう。
チラリと八岐大蛇と須佐之男を見る。最後の足掻きだ、とことんまでやってやる。
俺は自分の喉奥まで指を入れ、溢れる血を掻き出し、大声で叫んだ。
「八岐大蛇、解除ッ!」
氷の大蛇が俺からの魔力供給を止められて砕け散る。
「やれッ! 須佐之男! 水破炸裂斬!」
使役魔法を発動。八岐大蛇に注いでいた魔力を残らず須佐之男へと注ぎ込む。七支刀が大きく振り切られ、剣聖と俺の間の水溜まりが弾け飛んだ。
言うなれば水の障壁。白く泡立つ水と土砂が剣聖の視界を遮込む。
「姑息な真似を.......!」
思考加速が起こる。スローモーションで剣聖の振る刀の動きが遅くなり、水の障壁を打ち破る動作を理解しながらまじかで見ている。
やるじゃねえか。アナさんよ、勝率は0%だけどよ、逃げれる確率なら0%じゃないよな!
―私の扱いが酷い上に手が焼けるマスターです。真・予測式決戦演算を発動。逃走確率を算出。6%です。獲得できるスキルを検索中.......。スキル『全力疾走』『インビジブルウォーク』『痛覚耐性』を獲得しました―
―逃走確率の上昇を確認。61%です―
ズガガガガッ! 須佐之男のやったことを返すように剣聖の刀が地表を切り裂いた。
須佐之男は浅い部分を切り飛ばしただけなのだが、剣聖の斬撃は断層をも作り上げる。すぐさまに水の障壁は押し返されて散り散りになり、土と水が跳ねる間から俺の姿が鮮明になっていく。
「悪ぃな、あばよクソじじい」
―全力疾走―
脚力の限界を越えて疾走する。一時的に脳、筋肉、神経、臓器のリミッターを外し、死ぬ寸前まで走ることができる。
―インビジブルウォーク―
発動中、スキル使用者の存在を完全に消す。足音、足跡、気配、呼吸音を無くし、敵に気付かれなくなる。
―痛覚耐性―
痛みに慣れる。痛みはいつも通り感じるが、ある程度は我慢できるようになる。
同時にインビジブルウォークと全力疾走を発動。水溜まりを踏んで立てる水音も、俺の荒いだ激しい呼吸音も、完全に無音となって消え失せて剣聖の横を素通りしていく。
全力疾走でアスリート選手顔負けの速度で走り抜け、途中に落ちているアシュレイさんを須佐之男に命令して回収した。痛覚耐性のお陰か、普通だったら発狂しそうな痛みにも耐えて走ることが出来た。
突如消えた俺に戸惑い、剣聖が無闇矢鱈に斬撃を飛ばすが無駄だ。真・予測式決戦演算による予測演算で、斬撃が何処に飛んでくるのかが簡単に分かる。
三歩横へ。二歩前へ。俺の元いた場所が円月状に爆ぜ、地面が削れていく。数十秒間程、剣聖による無差別攻撃は止まらなかったが、もう諦めたのか次第に収まっていった。
「.......何かしらのスキルを使い女を連れて逃げたか。懸命な判断。ですが、しっかりと息の根を止めた事を確認出来なかったのが痛いですな」
剣聖は誰もいなくなった水溜まりの中で刀を腰に納めた。
「本当は追ってでも始末したい。が、ミナト殿とアシュレイ殿に時間を掛けすぎてしまった。しかしデカブツを殺した反動で虫の息。逃げても何処かで息絶えることでしょう。そしてこちらの時間がない」
踵を返し、剣聖はエルフの王城を見上げる。
「遅くなりましたな、ニゲル殿。今からメルロッテ姫、いえ、神秘の自然石を献上しますぞ」
作者がテスト期間に入りました。
七月後半にあるのですが、全12教科という多すぎる試験範囲の上、内容も難しいのでスーパーお勉強モードに突入しています。
なるべく時間を見つけて執筆し、投稿していきたいと思っておりますが、まあ物理的に無理な場合もございますので。
投稿が無かったら察してください。
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