ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-43 召喚! バハムート!

 

 3-43 召喚! バハムート!


 氷の大樹に貫かれた剣聖は動き出した。

 素手の力のみで樹氷をへし折り、力任せに体から抜き取る。ドクドクと血が溢れるも束の間、ぽっかりと開いた傷口がみるみるうちに塞がっていき、まるで何事も無かったかのように歩き出す。

 ばけもん。ばけもんだありゃ。剣聖は本当に植人族なのかも疑わしい。あいつは植物じゃなくてアメーバーかプラナリアの細胞を取り込んでるだろ。

「ふぉっふぉっふぉっ。ミナト殿、まさか土壇場での覚醒とは恐れ入りましたぞ。お主のような凡人に、まさかこのような奇跡が起きるとは。中々に面白いですな。
.......だが、無意味だ」

 ゾッとするような寒気を帯びた声が剣聖から発せられる。

「例え覚醒者に目覚めても、爺やとミナト殿には『決して埋まらない差』があるのです。あのまま死んでいればいいものを。生きる時間がほんの少し伸びたのみ。痛みに悶え、苦しむ時間が増えただけのことですな」
「けっ。寝言は寝てから言えよボケ老人。認知症が進んできたんじゃねえか? あ?」

 剣聖を煽りながら鑑定のスキルで俺自身のLvを確認する。表示されたLvは39。悔しいが剣聖の言う通りだ。ステータスも幾らかは上がっているが、Lvの差はまだ5倍程はある。

「こうも減らず口を叩かれると天晴あっぱれですな。さて、生意気な餓鬼は手足をもいで、本来ならば三日ほど痛ぶった後に殺してあげたいところですが、今回は一思いに楽に殺して差し上げましょう。それが爺やなりの慈悲なのです」

 瞬間、剣聖の姿が掻き消えた。

 見えない。まるで煙のように消えやがった。

 そして次に俺が見たのは鋼色の点だった。

「うわっ!?」

 まさに今、剣聖の刀が俺の目に突き刺さろうとしていた。

 あと1フレームでも遅ければ、剣聖の刀が俺の眼を抉っていた。

「.......どうなってんだ?」

 時が止まったかのように剣聖が止まっている。同様に刀の動きも止まっている。剣先はすぐそこ。あと数ミリで俺の角膜を破り眼球を貫く一歩手前だった。

 時が、止まった。

 空気の流れも。舞った土埃も。何もかもが静止した。

 .......。

 それにしてもおかしい。漫画やアニメでの時止めは自分だけが動けるはずだからだ。

 俺も剣聖と同様に動けなかった。あるのは考えるだけの時間だけ。いったいどうしたって言うんだ。

 ―初めまして、マスター―

 不意に声が頭に響く。女性の声に寄せた機械音声みたいだ。

 ―私は賢者のスキル、通称アナウンスさんです。気軽にアナさんとでも呼んでください―

 こいつはあれだ。よくあるチュートリアルが音声付きで喋ってくるあれだ。よく異世界に送られた後に脳内で響くあれだ。

 俺は思わず身構える。体の方じゃなくて心の方をだけど。自分でさん付けする奴にろくな奴はいないと知っているから。

 ―ろくな奴じゃないとは失礼ですね―

 こいつは心の中まで読めるのかい。

 ―はい。そして現在、マスターの思考を加速しています。マスターの体感によりますが、今なら一秒間に数十分程度の考えことをできます―

 これが時が止まっているように感じられるカラクリってわけか。

 ―では今からチュートルアルを開始します。チュートルアルには目安として二時間はかかりますが、よろしいですか?―

 してる場合か馬鹿! こっちはボス戦の真っ最中だっての! スキップだスキップ!

 ―承りました。では操作説明と注意事項を始めます―

 それもスキップ!

 ―すみません。システムの都合上、スキップは出来ません―

 ふざけんな!

 ―冗談です。サーチ開始。敵性反応を確認。スキル『鑑定』をインストール。『鑑定』の習得を完了。再構築を開始。スキル『鑑定』をスキル『ヴィザールの義眼』へと再構築しました―

 ―ステータスを表示.......マスターのLvが不足しているので一部しか閲覧できません。Lv198。職業は剣聖。検索を開始。マスターの勝率を数値として表します。結果が出ました。

 ―マスターの勝率は0.00000000003%―

 なにこの無理ゲー。

 ―安心してくださいマスター。勝率は完全なる0%ではありません。可能性はあります。諦めないでください―

 ソシャゲが可愛く見える確率だろ、これ。どうやって勝つんだよ。馬鹿じゃねえの?

 ―マスターの知能指数を計測。計測が完了しました。マスターの知能指数は89。平均以下です―

 こいつどうしよ。どうやったら捨てられるんだ。

 ―マスターが獲得出来るスキルを検索します。検索中.......。スキル、『並列思考』、『分裂思考』、『最適化』、『確率操作』、『決戦演算』を発見。獲得します。該当スキル全てを獲得しました―

 ―獲得したスキルを統合させ、再構築します。スキル『並列思考』、『分裂思考』、『最適化』、『確率操作』、『決戦演算』が消滅しました。新たにスキル『真・決戦式予測演算』を獲得しました―

 ―マスターの勝率が上昇。0.000000037%です―

 俺はこの時、賢者のサブクラスがまじでヤバい代物だということを認識した。

 ―スキル『真・決戦式予測演算』を発動。マスターの強化では到底不可能と判断。マスターの強化を諦め、スキル『覚醒』の効果を改変、変更します。スキル『氷魔法』、『水魔法』を消去―

 ―スキル『氷魔法』の可能性を全て捨て、スキル『精霊召喚・八岐大蛇』を獲得しました―

 ―スキル『水魔法』の可能性を全て捨て、スキル『精霊召喚・須佐之男』を獲得しました―

 ―職業『生魚戦士』を再構築。職業が『生魚戦死』から『召喚士』になりました。召喚可能な魔物の項目に『バハムート』が追加されました―

 ―スキル『鏡華氷像きょうかひょうぞう』を獲得。戦闘能力が低いマスターは攻撃をせず、防御に徹してください―

 俺から数少ない戦闘能力を奪ったのはてめーだよ。

 ―勝率を数値として表します。マスターの勝率は76%―

 勝率は七割。このサブクラス、もしかしてじゃなくてチートなんじゃ。

 ―オートモードを開始。健闘を祈ります、マスター。思考加速を解除します―

精霊召喚サモンスピリット須佐之男スサノオッ!」

 俺の口と体が勝手に動き出した。それと同時に思考加速が終わり、剣聖の刀が動き出す。

 剣先が俺の目を食い破る1ミリ手前で、水で作られた高水圧の七支刀が剣聖を刀ごと弾き飛ばした。

 現れたのは荒々しい男の姿をした水の精霊。どうやら俺のイメージが具現化したものらしい。我ながらカッコイイぜ。

「精霊召喚.......。しかも見たことがない高位の精霊を.......」
「おっと。一体だけじゃないぜ。こいッ! 精霊召喚サモンスピリット八岐大蛇ヤマタノオロチッ!」

 名前を呼んだ途端、空間の温度が急激に下がっていく。ピキピキと音を立てて霜が生え、地面から八本の首を持った大蛇が這い出してきた。

 これも俺のイメージ通り。首の一本一本が電柱並の大きさを持っていて、口を開けば成人男性を丸呑みできるぐらいに顎が開く。氷の大蛇。こいつもめっちゃくちゃカッコイイじゃねえか。

大氷河アイスエイジ!」

 俺の口がパクパクと喋りだした。どうやらそれは八岐大蛇に向けた命令だったようで、大蛇は次々に口を開いては牙を剥き、極冷のブレスを剣聖に吐きつける。

 違うな、ブレスなんて甘っちょろいもんじゃねえ。吐きつけただけで氷が地面から盛り上がる。

 氷の塊が剣聖に押し寄せ、瞬く間に大氷山を創り上げた。バキバキと俺を除いて水分と空気が凝り固まり、爆心地となった門前を、北極の景色へと作り替える。

 えげつねえ。こんなんチートだよ、チート。神様からの転生特典で貰えるようなチートだわ。こりゃ流石に死んだだろ。

 ―いいえまだです。来ますよマスター―

 ガッ! 

 ステンドガラスが一斉に叩き割れるような音が鳴り響いた。八岐大蛇が作った氷の八割が消し飛ばされ、冷気の中から剣聖が再び姿を現した。

 おいおいおい。あの氷の量を刀一本で処理出来るとかどうなってんだ。剣聖よ、お前さんはいったいどんなチートを貰ってるんだ。反則だろ反則。元の世界に帰りやがれ。

 ―マスター。そんな呑気なこと考えている暇はありませんよ。精霊二体だけでは相手になりません。本命を呼ぶのです―

 本命ってバハムートのことかよ?

 ―その通りです。バハムートをぶつけてこその勝率七割。召喚は術士本人にしか出来ません。今から召喚の詠唱を記憶領域に書き込んでおくので、召喚するのです―

 おっし、分かった!

 俺は氷の破片が散らばる地面を踏みながら詠唱を頭の中で反芻する。

 詠唱の内容は.......そうだな、厨二病にかかった男の子が休み時間を使って自由帳に書きなぐったような痛さだ。ほんとは唱えたくないけどやるしかねぇ。

 今に見てろよ剣聖。一泡吹かせてやるぜ!

 そうして、俺は大きな声で詠唱を唱え始めた。

「大いなる流れを逆行し、深き深淵から飛来しろ。津波はヒレ、渦潮は鱗、大海は体。海を統べしかの者に逆らう物は万物全て藻屑と化せ!」

 痛々しい詠唱を唱え終えた俺は天に残った方腕を掲げる。

「召喚! バハムート!」

 ゴッ!

 突如俺の足元に巨大な魚影が映りこんだ。

 パラパラと拳大のワッペンみたいなものが落ちてきて、思わず上を見上げる。

 空は青魚特有の銀色の鱗で覆われていた。パクパクとつぶらで大きな口が開閉し、ぎょろぎょろと黒い目玉が動いている。

 .......なあ、嘘だろ?

 バハムートつったら、かっこいいドラゴンしか思い付かねえだろ。

 サンマだ。

 俺の真上に、馬鹿でかいサンマが浮いていた。

 

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