ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-41 剣を捨てた者、捨てなかった者



 3-41 剣を捨てた者、捨てなかった者


 アシュレイさんが重砲を取り回してぶっ放した。絨毯爆撃の如く火柱が無差別に立ち昇り、周囲を熱気で包んでいく。

 その姿はまさに単独戦争兵器。

 次々に炎の雨を降り注いだかと思えば、今度は周りの地面を呑み込んで火砕流を発生させる。

 剣聖とアシュレイさんが戦闘を開始して数秒弱。

 そのたったの数秒の間に、俺達がいた王城の門前はあと十年は修復不可能と言われてもおかしくない程に破壊し尽くされていた。

 俺の目の前で二人は目にも止まらぬ速さで離脱と急接近を繰り返し、激しい戦いを繰り広げる。

 アシュレイさんが重砲を放ったかと思えば剣聖は難なく避け、後ろの何も無い場所が砲撃によって爆ぜる。

 逆に剣聖が刀を袈裟懸けに振ったかと思えばアシュレイさんは剣で防ぎ、大地に亀裂が入る。

 もうむちゃくちゃだ。飛び火した炎で俺の服は焦げ、剣撃の撫風で真空波が頬を浅く斬る。

「.......ははっ」

 我ながら呆れて笑いが込み上げ、自分の無謀さに愚かささえ感じてくる。

 俺は、こんな化け物地味た奴らに喧嘩を売っていたのか。

 戦いの規模が災害レベル。こんなの、到底俺が立ち入っていい領域じゃない。

 最初から無理だったんだ。

「はっ」
「焼き切れろ!」

 アシュレイさんの剣と剣聖の刀が交差する。

 剣と刀の応戦。遠くに離れている俺ですら、金属と金属がぶつかり合う独特の音が聞こえてきた。

「アシュレイ殿。剣の腕前は短命な普人族にしては相応に高い。ですが、」

 ギリギリと刀身が刃毀れする音が鳴り、アシュレイさんの手から剣が弾き飛ばされた。

「爺やから見ればまだヒヨっ子。剣の道に没頭することを諦め、他の道に浮気をした半端者でしかない」
「そうか。なら、半端者は半端者らしい戦い方をするまでだな!」

 飛ばされた剣に目もくれず、重砲を両手で構えて放つ。

 起こったのは重砲の砲撃と刀による斬撃。その衝突は周囲一帯に衝撃波が及び、凄まじい轟音と粉塵が上に巻き上げられる。

「ぐわっ!?」

 余波で生じた風でさえ、突風となり俺を吹き飛ばす。ペットボトルのように転がされた俺はそうして地面に叩き付けられた。

 ふざけてやがる。なんつー戦いなんだ。その場にいるだけで軽く死ねる。普通に俺は数百回ぐらいは楽に死ねる。

 だけどこのままじゃ不味い。今のアシュレイさんはかなり無理をしている。

 一見、剣聖とアシュレイさんは互角以上の戦いをしているが、戦闘のペースはアシュレイさんの方が押されている。

 なんとか我慢して鑑定した結果、アシュレイさんのLvは94。

 雑魚の俺が言うのもなんだが、パツキンとかとは比べ物にならない程強い。が、剣聖とは比べ物にならない程相手にならない。

 だからアシュレイさんは決着を急いでいる。素人の俺が傍目から見ていても分かるぐらいに。

 剣聖の実力は恐ろしく高い。戦いが長引けば引くほど、戦闘慣れをしている剣聖の方が優勢になっていく。なっていってしまう。

「ヒートチャリオット!」
「一刀一閃」

 重砲から極太の熱光が放たれる。地面を硝子状に熱しながら一直線に直進するが、剣聖は物理法則を完全に無視し、極温のレーザーを一刀両断に叩き斬った。

 二分割にされたヒートチャリオットは剣聖の背景を炎のカーテンで覆い尽くし、轟々と燃え盛る。

「だから言ったのですな。アシュレイ殿、お主はヒヨっ子なのだと」

 熱せられた刀を払い、剣聖がアシュレイさんに話しかける。

「一を極めし究極には、同じ一を極めた究極でしか太刀打ちが出来ない。もしも、アシュレイ殿が剣の道だけを進めば少しは長生きは出来たでしょう。しかし剣を捨て、その脆弱な筒へとうつつを抜かしたお主は、弱い」
「.......っ」

 言い返す言葉がなかったのか、ギリッ、と歯を食いしばりアシュレイさんが剣聖を睨みつける。

 何かしらの技能をアシュレイさんは発動する。白煙を吐き出す重砲の砲身を向け、引き金を強く引くと一気にこの場の空間の温度が上昇した。

 熱い。地面が焼肉の鉄板みたいに熱くなり、俺の靴からゴムが燃える匂いと黒ずんだ煙が出た。

 やばいぞ、これは。直感で分かる。何か、ドデカいのが、来る!

 余波でさえ俺はぶっ飛んで転がったんだ。今からアシュレイさんがやろうとしていることは、さっきみたいにすまねぇ.......!

「冥土の土産に教えて差し上げましょう。技能には奥義と呼ばれる物がある。それはひとつの技能に複数個存在し、そのどれもが強力な力を秘めている。奥義を習得している物はその技能の達人と言ってもいいでしょう」

 剣聖は動じない。いくらLvが高い剣聖であろうと、今から使うアシュレイさんの技能をその身に受ければひとたまりもないはずだ。

 それなのに、冷静に、淡々と、剣聖は独り言を話し始める。

「ですが、奥義の上には更にその上がある。ひとつの技能にひとつしかない、技能の頂点に君臨する最強の技能。それが、極意」

 なんだ? この嫌な感じは。

 剣聖は刀を腰に納める。その瞬間、俺は今日一番、剣聖に恐怖を感じた。

「アシュレイさん逃げろッ!」

 堪らずに俺は叫ぶ。しかし俺の忠告はもう遅い。

 もうアシュレイさんは剣聖が喋っている間に準備が終わっていた。膨大な熱と空気を吸収した重砲は、その銃口を剣聖に突き付ける。

「ヒートチャリオット.......レイッ!」

 銃口に赤色の熱光が灯る。あまりの熱量に空間が歪む。砂漠で起こる蜃気楼のように、熱で視界が揺らぐ。

 発射されたのは核兵器を遥かに凌駕する殺戮光線。さっきのヒートチャリオットが可愛く見えてしまう程、莫大な熱による攻撃だった。

「お見せしましょう。爺やが辿り着いた到達点を」

 大熱波が直撃する直前、俺は剣聖が刀を抜くその姿を見た。

 何をしようとしている? 金属で出来た棒一本で、あの大熱波はどうやっても防ぎようがない。

 筈なんだ。

「剣術極意。――森羅万象」

 俺は有り得ない光景を目の当たりにした。

 光が屈折する。いや、光だけじゃねえ。アシュレイさんの放つ熱も切り裂き、空間そのものが斬られた。

 そして、アシュレイさんの胸から腰に斜めに掛けて致死量の血飛沫が飛んだ。

「なっ.......これが、これが剣聖の実力って言うのかよ.......!」

 感覚だ。感覚でなんとなく分かる。剣聖の使った森羅万象とかいう技能。例えば、あれを使えば滝だって斬れる。

 落ちてくる水の塊を斬れるとか何を言ってんのか分かんねーと思うが、自分でもよく分かんねぇ。だが、そうとしかいいようがないんだ。

 とにかく剣聖は出来る。滝を斬り、水の流れを止めることが。法則とか理とか、そういった当たり前に起きることをぶった斬り、自分の都合のいいように書き換えられる。落ちてくる水を斬り、滝を、川を、せき止めることが出来る。

 だから熱すらも斬り温度を下げ、空間さえも斬りアシュレイさんの体に深傷を負わせるまでに至ったんだ。

「剣術とは何か? その問に爺やが出した答えがこれですな。剣を抜く。相手を斬る。剣を納める。この三つの動作こそ剣の基本であり全ての原点」

 事切れたアシュレイさんに近付き、剣聖は勝利に微笑む。

「森羅万象は即ち不可視の一閃。対象を必ず斬り、剣を収めるだけの単純な技能。それ故に強く、それ故に破る術はない。発動したら最後、爺やの剣閃は相手を斬り捨てているのです」

 チートとか断じてそんな生易しい物じゃねえ。

 勝てない。

 剣聖には、勝てない。

 刀一本で法則を斬り捨てる化け物に勝てる術なんて.......ない。

「さて、ミナト殿」

 耳元で囁かれる背後からの剣聖の声。

「これで、終わりですぞ」

 俺は口から血を流し、気付けば腹から刀が生えていた。
 


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