ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-39 ミナトの決意


 3-39 ミナトの決意


「おや、アシュレイ殿。こんな所で何をしているのですかな?」
「ん、ああ。ちょっとな」

 ぜぇぜぇと、荒ぐ息を剣聖に気付かれないように必死に整えながら、俺は痛む目をおさえて立ち上がった。

 くそったれ、早くなんとかしないとやばい。でもどうすればいいんだ? このままやり過ごすしかないのか?

 物陰に隠れながらノアの手を引いて、俺は双眼鏡でアシュレイさんと剣聖を覗いた。

 鑑定でステータスを覗いた時、俺は剣聖の持っている風呂敷の中身も確認している。

 風呂敷の中身は禍夜の残滓。ちびっ子が言っていた感染源そのものだ。

 感染源は外界からの空気と日光に弱い。ちびっ子が言っていたことは本当のようだ。つまり、あの風呂敷を奪い取って中身を開けてさえしまえば剣聖の目的はおじゃんとなるわけだ。

「くっ.......」

 問題は剣聖が強すぎて奪うことがまず無理ゲーな上に、例え奪って中身を開けても俺が殺されてしまうってことだ。

 ウェルトの抗体のお陰で感染源で死ぬことはないが、そんなことよりも剣聖に殺されてしまう方が先だろう。

「ねぇミナト、ねえってば!」
「あんだよ。今はそれどころじゃねえんだ」
「おじいちゃんのステータスを見て何が分かったのよ! 教えてよ!」
「.......結論からいえば剣聖が感染源をばらまいていた犯人だってことだ。そして、感染源をどうにかしないと王城中のエルフは皆殺し。俺とウェルトとエルフのお嬢様を除いて、な」

 言いながら俺は気付いた。感染源で死ぬことがない俺は、このまま逃げてしまえばいいのかと。

 ここから置いてきた船の場所までの道のりは頭の中に入ってる。森の中は魔物だらけで危険だが、どっちみちここにいても感染源のせいで黒い魔物になった奴らに殺されるか、剣聖に殺されるかの二択しかない。

 みんなには悪いが、ここで一旦アシュレイさんに剣聖をやり過ごして貰って、俺達だけで逃げるのが賢明なんじゃないのか?

 感染源がどれくらいの時間で広がるのかは分からないが、そこまで早くはないと俺は考えている。

 だから剣聖を見逃して作った時間を使って、ちびっ子二人を回収し、外に飛び出していったウェルトとエキューデを連れていけば容易に逃げれるはずだ。

 そう、簡単に逃げれるはずなんだ.......!

「.......ミナト?」

 俺は自分の爪が手の平に食い込む程、拳を思いっきり強く握りしめていた。

 なにやってんだよ、俺は。

 なに悩んでいるんだよ、俺は。

 エルフ達と過ごしていたのはたったの一週間やそこらじゃねえか。

 それなのに、どうしてここまでムキになって助けようとする。

 どうして自分の命を天秤に掛けてまで助けようと頭を回している。

 見捨てちまえばいいだろ。そうだ、ただ運が悪かった。それだけだろ。

 どうせ他人事だ。エルフ達が死んでも俺は痛くも痒くもねぇ。いつ時代だって、大事なのは自分の命だろうが。

 でも.......、

 俺はこんな事を考えている自分をこう思った。

 ――かっこ悪ぃ、って。

 ったく、最っ高にかっこ悪いぜ、今の俺は。

 俺が今、感じてるのはエルフ達を助けないといけないという責任感や義務感。剣聖が今からやろうとしていることを見過ごせないという正義感。見捨ててしまうことに躊躇いがある罪悪感。そのどれでもねぇ。

 ただ、剣聖にびびって逃げ出そうと考えている俺がかっこ悪すぎるってことだけだ!

「ノア、お前は赤い方のちびっ子を呼んでこい」
「え、ミナトそれって.......?」
「俺がやる。俺がやらなきゃ、いつ誰がやれるんだよ。俺しかいねぇんだ。どうにかできる人間は、この俺しかいねえんだ」

 アイスダーツを発動。俺の手の中に氷の矢が生まれ、冷たい透明色のダーツを握りしめた。

 今からやることは簡単だ。剣聖の持っている風呂敷に穴を開ける。それだけでいい。穴さえ開けてしまえば日光と空気に弱い感染源は勝手に死滅する。

 ノアの背中を強く押し、ちびっ子を探しにいかせる。探しにいかせる理由なんてノアが邪魔でしかないからだ。

 もしあるとすれば、あんなちんちくりんでも頭はいいから何か考え付くかもしれない。そんな希望に俺が縋りたいだけだった。

「.......」

 ノアがチラチラと振り返りながら去っていくのを見届けて、俺は物陰から千鳥足のまま門の前に出ていった。

 二人に気付かせるように。なるべく分かりやすいように。

「う、うわあああああああああ! 誰か助けてくれええええ! 感染した! 俺の体が、体が!」

 わざとらしい。でもやるしかなかった。

 俺はわざと倒れたフリをする。出来るだけ苦しく、もがいて痛みを訴えるように。

 都合のいいことに、剣聖のステータスを鑑定していたお陰で俺の息は途切れ途切れだ。現実味を帯びた迫真の演技ほど、人を騙すのに最適なものはないだろう。

「.......なんですと?」

 剣聖がすかさず近寄り、いかにも心配している顔と声で俺の傍に腰を降ろした。

 白々しい。感染源はお前が今手に持っている風呂敷の中にあるって分かってんだ。

 俺は地べたに倒れているこの時を狙って、後ろにいるアシュレイさんだけに分かり、剣聖にはばれないように、フェイクを取り入れながら人差し指で剣聖の持っている風呂敷に指をさした。

 俺が事前にアシュレイさんに伝えている合図は四つ。

 見逃せ、尾行しろ、攻撃しろ、そして俺がやっている怪しい物があるぞ、の四つだ。

 その合図が、対象物に人差し指を向けている動作だった。

 アシュレイさんが剣聖の後ろで頷いた。どうやら伝わったらしい。

 俺はニヤリと笑い、口を大きく開く。

 ガチッ!

 俺は剣聖の両手が俺の体に触れた瞬間、上の歯と下の歯を渾身の力を込めてかち鳴らした。

 これは合図だ。俺は事前にアシュレイさんと打ち合わせをしている。そのひとつ。

 俺は全ての合図は簡単にしてある。その中のひとつが俺が歯をガチりと鳴らした時。

 それは、攻撃しろとの合図だ!

「―――!?」

 剣聖がアシュレイさんの殺気に気付いた。

 だけどもう遅い。

 既にアシュレイさんは腰に下げた刀を抜刀し、剣聖の無防備な背後から風呂敷目掛けて斬りかかっていた。

「アシュレイさん、切れッ!」



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