ろりこんくえすと!
3-38 剣聖の本性
3-38 剣聖の本性
「ぷはっ!」
顔から胸にかけて冷たい物がかけられた。それが全身に開いた傷口に染みると同時に、僕はあまりの痛さに転げ回りながら目を覚ました。
「いでででで! 傷口に海水かける馬鹿がどこにいるんだ! いででででででっ!」
ゴロゴロと地べたの上を暴れながら、僕に海水をかけた張本人であろうエキューデを見上げ、涙目で怒鳴りつける。
「やれやれ、やっと起きたか。このお寝坊さんめ」
「エマといい、どんな発想があればこんな非道なことを平気で人にすることができるんだよ! いったい頭の中に何が詰まってるんだ!」
「そりゃ、脳みそだ」
「だとしたらお前の脳みそは既に腐ってるわ!」
ゲシッと僕はエキューデの足を蹴り飛ばす。しかしその反動で僕の足の傷口が開き、更に痛みに苦しむ。
しばらく痛みに堪えた後、僕は痛む体に鞭を売ってなんとか立ち上がった。
「あー、くそ。ほんと酷い目にあった。二重の意味でな!」
「そうか。で、体調はどうだ?」
「頭が痛くてフラフラする。それになんだか身体がだるいし寒い」
「なんともわかりやすい貧血の症状だな、ほれ」
エキューデが紅花匕首を取り出し、僕の口の中に突っ込んだ。
血が足りてないから血を補給しろと。なんともシンプルな考え方だが、人の口に刃物を入れるなんて相当イカれてるな。
そんなことを考えながらバリバリと僕は紅花匕首を噛んで飲み込む。どうやら強度はなくしているようで、普通に砕いて食べられる。
食べた感想はそうだな、うん、鉄の味がする。それしかいいようがない。
そしてこんなことをしている僕はそろそろ人間を辞めてきた気がする。
「なあ、エキューデ。エキューデの血ってカプ.......なんだっけ?」
僕はバリバリと噛みながらエキューデに話しかける。
「忌むべき穢れた血だな』
「そのカプなんとかは僕の体に入り込んで流れている訳なんだけど、メルロッテとミナトがゴクゴク飲んでいたのは大丈夫なのかよ? 体に害あるだろ」
僕の質問にエキューデは少し唸った後、気楽な感じでこう答えた。
「小僧の血で結構薄まってるからまあ、死にはしないだろう」
「ちょっと待て。死ぬってどういうことだよ?」
「ん? そのままの意味だぞ。適性がない人間が我の血を取り込んだりでもしたら死ぬからな」
こいつはここらで埋めておこうかな。
紅花匕首をスナック菓子感覚で食べ終え、失った血を補給した僕は身体の調子を確認する。
頭痛が少しはおさまったし、これなら頑張れば動けそうだ。
「エキューデ、フードの男は?」
「逃げられた。ほれ」
「気軽に人の手足投げんな。サイコパスかお前は。いやエキューデはサイコパスだったか」
僕は投げ渡された手足を宙で掴んで受け取る。
やはり人の切断された手足なんて見ていて気持ちいいものじゃないな。
僕は受け取ったフードの男の手足をまじまじと見て、あることに気付いた。
「おい、これって.......?」
「小僧が千切ったその手足、体から離れても傷口の再生が始まってるな。無論、時間が経てばいずれは力が弱まりただの手足に戻るが。あの男、もしやアンデッドだったのかもしれぬな」
アンデッド? いいや、そんな生易しいものじゃない。
この傷の治り方は僕がよく知っている。
そう、ユリウスと同じような体の作りをしているんだ。
「だとしたら.......ッ!?」
僕は近くの木に拳を打ち付け、歯を噛み締めた。
黒の境界に行く前、剣聖をエキューデかアシュレイに任せるか悩んでいた。
これは最悪の可能性だ。
もしも、剣聖がユリウスやさっきのフードの男のような人間だったら.......?
「エキューデ! まずい、急いで戻るぞ!僕が気を失ってからどれくらい時間が経った!?」
「小僧が倒れてから数十分だな」
「だぁ! 今回だけは傷口に海水ぶっかけたことは許してやる!」
もし、剣聖とアシュレイが鉢合わせすれば身が危ない。そう、僕は気付いてしまった。
 
◆◇◆
「ミナトミナト、隠れて見ていていいの?」
「何言ってんだよ。俺達が出ていっても役に立たねぇだろ。それになんか怖いし」
「どうして? おじいちゃん優しそうじゃん」
「分かってないな。あーいう人には大体裏があるの。俺達の知らないところで悪いことしてるの。ラノベの定番なの。分かる?」
俺とノアは物陰で見張りをしていた。ウェルトの持ち物から勝手に借りた双眼鏡でチラチラと前方を確認し、じっと標的を待つ。
標的とは剣聖ことイアソン。この大陸では一番の実力者と言われており、ヒステリックなオウカさんの師匠。そしてノアの言う通り傍から見れば優しそうなおじいちゃんだ。
「それにしても酷いよね、ミナトは。いきなりおじいちゃんを疑うなんて。おじいちゃんが何をしたって言うのさ」
「ウェルトが慌てて警戒しろって言ってんだよ。何か掴んだんじゃないか?」 
俺はムスッとした顔で言い返した。
ウェルトととはまだ一ヶ月も行動を共にしてないが、なんやかんやであいつの言ってることは結構当たる。気がする。
とりあえず疑っておくに越したことはないだろう。人はとにかく信用するな、いつも疑え。家にくるNHKの集金や宗教勧誘のおばさん、そして詐欺や悪質商法が溢れかえる世の中生きてきた俺独自の教訓だ。
「さて、見張りを続けるぞ。いつ来るかも分からないしな」
俺は双眼鏡を覗き込む。今のところ特に変わった様子はない。
入口である門の前にはアシュレイさんが暇そうに欠伸をしながら柱に寄りかかっている。他でもない、俺が頼んでここで待ち伏せをして貰っている。
欲を言えばもうちょい緊張感を持って欲しいが。
「ひまだよー」
「はいはい。そうだな」
ノアの話し相手をしながら待つこと数時間。遥か前方からひとつの人影を俺の双眼鏡が捉えた。
「お、やっときたぞ。それでも戻ってくるのが早いけど」
腰に帯刀した立派な刀。電球のように光るつるっぱげの禿げ頭。皺だらけの容貌。植人族の特徴である独特な肌の色。
間違いねぇ、剣聖だ。
俺はノアの手を引き、バレないように身を屈める。
まずはアシュレイさんがコンタクトを取るだろう。ここからじゃ声は遠すぎて耳に入らないが、俺はネットで齧った読唇術が出来る。嘘ついた。本当は少しだけ出来るだけだ。
まあやってみるしかないよな。よし、双眼鏡で剣聖の唇に照準を合わせておけば大丈夫だ、っと。
「ねぇねぇミナト! おじいちゃんが風呂敷に何かを包んで持ってきてるよ! お土産だよお土産! 鑑定して見てみてよ!」
「ほんとノアは呑気だな。まあいいけど」
俺は鑑定を発動。さーて、お土産ついでに久しぶりに他人のステータスを覗き見してや.......
ぶちっ。
トマトを潰したような嫌な音が俺の目玉から聞こえ、視界が真っ赤に染まった。
「がっ.......あっ.......!?」
熱い。凄く熱い。目が灼け切れたような痛みに俺は襲われ、思わず両手で目をおさえた。
「え.......、ちょ、ミナト!? なんで目から血流してるの!? 大丈夫なの!?」
ダラダラと目から血を流しながら俺は地面に膝をついる。
迂闊だった。鑑定で自分よりもLvが上の生き物を鑑定する時、そのLv差が離れてれば離れているほど、俺の目にかかる負担は大きくなる。
城で会ったパツキンや赤髪、ファリスさんを鑑定した時も、ゲームのやりすぎで疲れたように俺の目は疲弊した。
でも今回はそんなちゃちなもんじゃない。俺は血と集中切れでステータスが見えなくなる前に、頭の中に焼き付けておいた。
あれはやばい。まじでやばい。早くアシュレイさんに知らせないとやばい。
「はぁ.......はぁ.......大丈夫じゃねぇぞ.......。剣聖は、剣聖はアシュレイさんじゃ手に負えねぇ。違う、誰の手にも負えねぇぞあんな化け物.......っ」
アイテム名 禍夜の残滓
あらゆる生き物を魔物に変えてしまう危険なアイテム。第七代目魔王、禍夜が全人類を滅ぼすために固有属性で作り上げたウイルス。尚、日光と外界からの空気には非常に弱い性質を持つ。
―ステータスを表示します―
―自身よりも上位存在の為、一部しか鑑定できませんでした―
名前 イアソン
種族 植人族/魔王一門族
Lv198
所持称号
剣聖、裏切り者、反逆者、世捨て人、虐殺者
このままじゃ、アシュレイさんが殺される。
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