ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-37 ウェルトの固有属性


 3-37 ウェルトの固有属性


「小僧ッ!?」

 モクモクと、血と白煙を放出した少年がゆっくりと砂浜に倒れふす。

 少年の倒れた場所は白い砂浜。

 身体からは新鮮な血液が流れ出し、砂浜が徐々に赤く染みていく。

「死んだか。何も悲観することはない。お前もすぐに普人族の餓鬼と同じ場所に行けるのだからな」

 フードの男は脇目も振らず少年が息絶えたと判断し、次は残ったエキューデの方に歩いていく。

 闇魔法で作られた黒い大剣の刃は、エキューデの首筋へ当てられ、絶体絶命の状況だった。

「ぐぬ.......」

 エキューデの首筋からじっとりと赤みが失せた血が流れた。

 エキューデは焦る。この時、魔力を見ることが出来ないエキューデは自身に何をされているのかが分からなかったからだ。

 魔力で全身を拘束されているだけなのだが、少年のように魔力干渉、及び魔力視の技術は持ち合わせていない。つまりエキューデは何も出来ないのに等しく、抵抗すらも許されない状況だった。

 フードの男が大剣を振り上げる。その光景を見ながら、エキューデは頭を回していく。

 覚醒を使って以来、まだ一週間程度しか時間が経っていない。覚醒は想像を越える絶大な力を一時的に得ることができるが、それと同時に大きなリスクも伴う。最低でも一ヶ月は時間を開けないと覚醒の代償が身体を襲う。

 そしてもうひとつ。エキューデは覚醒を使っても最大の強みである屍山血河しざんけつがを発動出来ない状態にあった。

 エルクセム王都。キメラとの戦いで屍海しかいの八割をキメラに破壊、食い尽くされ、充分に展開が出来なくなっていた。再び元の状態に再生するのには早くても数年、もっと言えばエルダーリッチをドラゴンゾンビの餌にしてしまったので、再びまともに使えるようになるには数百年は必要だった。

 万事休す。

 大剣の刃が振り下ろされることを覚悟して、エキューデは歯を食いしばった。あと数秒で自身の体に壮絶な痛みが来ることを準備して。

「.......?」

 一秒経った。

 二秒経った。

 三秒経った。四秒経った。五秒経った。

 それでも、まだ待っても尚、大剣は振り下ろされなかった。

「お前.......何をした.......!?」

 ギチギチと、フードの男が握る大剣が小刻みに震えている。振り下ろしたくても振り下ろせない。大剣を握る手は力を込めすぎて、血で濡れぽたぽたと血の雫が垂れていた。

 なんだ? 何が起きた?

 エキューデは何もしていない。いや、何もすることが出来ない。それ故に、目の前で起きている状況について何も説明が付けられなかった。

 二人は互いに硬直状態に陥った。一方は魔力で動きを止められたエキューデ。一方は何故か動けないフードの男。

 どちらも動けない状態で、二人はあることに気付き、背後にゾッとするような感覚を覚えた。

 砂が踏まれる足音が聞こえ、何かがぎこちない動きで立ち上がってくるような物音が聞こえてきた。

「小.......僧? おい、本当に小僧.......なのか?」

 掠れた声でエキューデは言葉を漏らす。

 その様子は、変わり果てた少年の姿を見れば実に納得のいく反応だった。

 全身からドス黒い魔力が溢れ出し、辺りのものを侵食して黒色に染めていく。

 最早さっきまでとは別人と言っていいほどの威圧感を放つ少年は、緩やかな動きで頭を上げ、普段からは想像も出来ないような目付きでフードの男に狙いを見定めた。

「その魔力の色は闇属性.......違う、全くの別物! まさか、固有属性かッ!?」

 少年は何も無い場所を片手で掴むような仕草を行う。それに釣られるようにフード男の右手がブチブチと不快な音を立てて曲がり、捻れ飛んだ。

「ッ!?」

 フードの男に激痛が走る。

 まさか、先の大剣の動きも止めたの正体も少年なのだろうか。いいや、きっとそうに違いない。タネは分からないが、この少年こそがやった張本人なのだと。そう、フードの男は確信した。

「ぐっ.......! この餓鬼は何をした!? いや、何をされた!?」

 痛み悶える腕を押さえて、フードの男はキッ、と恐ろしい視線で少年を睨みを利かせる。

 分からないということ自体、未知の恐怖へと繋がる。フードの男はいつの間にか、少年の放つ初めて見る固有属性に恐れおおのいていた。

「死ね!」

 目的はとにかく素早い抹殺。無詠唱で魔法を行使する。魔法陣が展開され、闇の属性を纏う巨槍が風を切って少年の元へと向かう。

 少年は前までの戦闘スタイルはどうしたのか、避けようとする素振りすら見せない。そのまま闇魔法の槍は狙いを外さず少年の身体を貫通し、串刺しにした。

 かに思えた・・・・・

「なっ.......!?」

 すり抜けた・・・・・

 まるで実体のない蜃気楼を攻撃したかのように、闇魔法の槍は少年ではなく後ろにあった砂浜や木々に辺りを爆散する。

 焦燥は加速する。

 理解が出来なかった。少年が一体なんの力を使い、闇魔法をすり抜けてみせたのか。それがさっぱり分からない。

 固有属性だということは分かる。だが、黒い魔物といい、攻撃をすり抜けるような手段は物理による攻撃だけに限定される。魔力を伴った攻撃では防ぎようがなく、もしあるとしても、フードの男はこれまでに一度も耳にしたことがなかった。

 しかし少年はそれを可能にしてみせた。一体、何の固有属性を持っているのだろうか。

 男が焦る中、次に動いたのは少年だった。

 鈍い動きで少年が黒い短刀を投げる。技能も魔法も使っていない、ただの投擲とうてき

 現状、フードの男は一歩も動けない。少年の固有属性でエキューデと同じように拘束されている。

 勿論、短刀は目標を外さずに突き刺ささった。

 フード男ではない。フードの男のすぐ側。砂浜の地面に。

「づっはっ!?」

 その瞬間、フード男の胸に短刀で刺されたかのような傷口が出来上がり、血飛沫が飛び散った。

 ボタボタといきなり現れた傷口に男は驚愕し、息を荒くする。

 思考が追い付かなかった。少年が何をしたのか、自分が何をされているのか。

「ぐ.......」

 このままでは不味いと男は気付いた。少年の固有属性は検討もつかない。一歩も歩くことが出来ず、魔法しか使えないまま戦えば、下手をすると殺される。

 闇魔法を行使する。今度は大きい槍ではなく、丁度少年が投げて砂浜に突き刺ささっている短刀と同じぐらい大きさの槍を。
 
「小僧! 腰にある魔封石まふうせきだ! 早く割れ!」
「もう遅い! 既に魔法は発動している!」

 エキューデは狙いに気付いた。フードの男の腰にぶら下げられた袋。その中に、太陽の光に反射してキラキラと輝く石が顔を覗かせていたからだった。

 闇魔法の槍が男の腰を貫き、人一人が収まるような魔法陣が砂浜の上に出現し、少年の前方が眩い光に包まれる。

 転移魔法。文字通り、別の場所と場所を繋ぐ高等魔法。

 フードの男が完全に転移魔法の光に包まれる前に、少年が鞭をしならせるように片腕を振るう。

 魔法の轟音と何かが千切れる音。その結末は、男がいた場所に片足と血液の染みが残されただけだった。

「くっ、逃げられたか」

 魔力の拘束が解かれたことにより、自由の身となったエキューデが悔しげに呟いた。

「小僧、一体どんな力を隠し持ってい.......?」

 その傍らで、虚ろな目となった少年はどさりと、前のめりとなって砂浜の上に倒れた。



 ◆◇◆



 フードの男はズルズルと這いずるように木の幹にしがみついた。

 息が乱れている。無理もない。魔封石で転移する際、少年の最後に放った攻撃で痛手を受けていたのだから。

「何事も備えは大事だと、あいつは言っていた。それは正しかった。はは。それが証明されたのか」

 腰に下げた破けた袋の中から魔封石を数個取り出して握りしめ、フードの男は口を緩め顔をニヤつかせた。

 魔封石とはその名の通りあらかじめ魔法が込められた特殊な鉱石。割ったり砕いたるすることで魔法を発動させることが出来る便利な代物だ。

 問題は製造コストと制作する難易度が高く、ほぼ全てが一回使ってしまうと二度と使えない、使い切りタイプが殆どだと言うこと。

 先程、フードの男が使った魔封石は転移魔法が込められているもの。使えば勝手に安全な地帯を見つけ、その場からランダムに飛ばしてくれる優れものだった。

 かろうじて逃げ延びたが、それでも受けた傷は重い。転移をする瞬間、左脚を持っていかれた挙句、自分で傷をつけた腰以外にも腹部を何箇所か貫かれたようだ。

 ぐちゅぐちゅと不快な音を立てて腹の傷は徐々に塞がっていく。しかし失った右手と左足の治りは遅い。完全に治癒するまでには二から三時間はかかるだろう。

 男は自分の身体に起こった惨状を見て悪態を付き、忌々しげに顔を顰めた。

「まさか固有属性持ちだとはな。あの少年。実に、実に厄介だ」

 木の幹に寄りかかったフードの男は、森の奥深くで体を埋めた。







 ~見える魔力とウェルトの魔力視について~

 作中で何の説明してなかったので補足します。

 ・通常、人や魔物の魔力は何かしらのスキルや適正のある者にしか見えない。
 (ウェルトの魔力視等が該当する)

 ・しかし、体内に膨大な魔力を蓄えていたり、強すぎる魔力を放出していたりすると、魔力を見ることが出来ない、又は適正がない常人でも見ることが出来る。つまり魔力の可視化が起こる。
 (貪食の食人鬼、ユリウス等が該当)

 ・ちなみ魔法や技能の中には魔力を消費することで発動するものが大半であり、その際、魔力は何かしらの物質(炎や氷等)に変換される。 

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